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第七十二話 天叢雲剣と一つの口癖

物語内では「あまのむらくも」と脳内で読んでください。

もちろん正式名称は「あまのむらくものつるぎ」です。


 「矢の接近音で目を覚ましたみたいだねー、

 さすがワイバーン最強種。」

呑気に解説するリィナちゃんだが、彼女も戦闘態勢ばっちりのようだ。


 「プロテクションシールドっ!」

ワイバーンに近い位置からタバサが無詠唱でシールドを張っていく!

その間、ブラックワイバーンは翼をはためかせ、こちらを威嚇!

私たちを敵だと完全に認めたようだ。


 「カラドック! 精霊術を!!」

 「もう起動している!!」

精霊術は体内の魔力を、辺りに漂う魔力と同調させるのが基本!

そこまでに多少の時間を必要とするので初動が肝心なのだ。

だが一度、同調処理を済ませてしまえば・・・


 「風雪の聖檻!!」

急激な気温の低下!

雲一つないのに辺りが薄暗くなる!!

そしてこちらからワイバーンに向けて有り得ない程の突風が吹き荒れる!

攻撃力はゼロに等しいが、戦場でこれを使うと、

例えば弓兵50人ずつの撃ち合いの場合、この術で風下に立たされた軍は全滅する。

重装歩兵同士なら7対3くらいの差になるだろうか。

ワイバーンも同様の判断をしたようだ。

飛翔すれば風の抵抗を受ける事は必定、

身を低くしてこちらに突進!!


だがそれも見越していたのか、

いつの間にか、ケイジとリィナちゃんが位置取りを変え、

ケイジが左から、リィナちゃんが右側から対角線上にエックス攻撃を同時に行う!!

ワイバーンにしてみれば鼻先で体を入れ替えられたように感じるだろう、

二人の動きに棒立ちで彼らの刃を許してしまう!


だが・・・


 「硬ったぁ!!」

 「薄皮一枚裂いただけか!!」

刃先は通ったようだが、ダメージには至らない。

それでもブラックワイバーンの突進は川の途中で遮られる。

奴が振り返ってケイジかリィナちゃん、どちらかを狙おうかと逡巡した隙に・・・

 

 「アガサ!!」

ケイジの合図とともにダークエルフのアガサが詠唱開始!

 「凍てつく氷よ、その厳然たる冷気をもて、大地を牢と化せ!!

 『フローズンソイル』!!」

 

氷系フィールド呪文!

砂漠や乾燥した土地では効果が薄いが、

水辺では最大の威力を発揮する。

ましてや術者はダークエルフトップクラスの魔力を持つアガサ・・・

そして今や、この空間は私が精霊魔術で「冷気」を支配中!


ビキビキと水面が瞬時に凍結!

異変はワイバーンにも理解できたろう、

だがもはや後の祭りだ。


既にブラックワイバーンの両脚は凍結した水面に抑えつけられ一歩も動けず。

必死に脚を引き抜こうとしても、その脚は言う事を聞かない。

間髪入れずにケイジ達が戻り際にそれぞれ翼の付け根に一太刀浴びせてゆく!

斬ることは難しくても突き刺すことはどうにかなるようだ、

まずは機動力を奪う!


アガサを振り返ると・・・あれ?

ちょっとびっくりしている?

 「は? フ、フローズンソイルってこんな強力・・・?」

ああ、いまや私の精霊術で氷系魔法は効果が増大しているからね、

そのまま畳みかけてもらおう。

 

 「アガサ! そのまま氷系呪文を連続で!!」

彼女も歴戦の勇者、

私の声に軽く頷きながら、上級氷系攻撃呪文を展開!

アイスジャベリンだ!!

全ての属性魔法中貫通力は最大!

またもやアガサは私が今までに見たこともない速度で連射する!!

首元! 脇腹! 左太腿! 右肩! さらに胸元中央に大きいのが一発!

ワイバーン中最強種だというブラックワイバーンが為す術もな串刺し刑となってゆく。

最初は悲鳴も勇ましかったが、どんどん力が失われてゆくのが見て取れる。


 「きょ・・・驚愕、

 ここまで氷系呪文の威力が増大したのは初めて・・・これが精霊術の効果・・・。」


驚いているのは私も一緒、

今までパーティーで組んだ魔法使いに、ここまでの魔力持ちはいなかった。

勿論それでも、精霊術と魔法の属性を一致させた攻撃にはかなりの効果があったんだけど、

アガサの術の威力は桁違いだ。





・・・もっとも私はこれから更なる驚愕を味わうことになる。




アガサの攻撃の切れ目にブラックワイバーンが反撃の意志を示したのか、

空気を切り裂くような鳴き声を上げた後、

無理やり凍結した水面から片脚を引き揚げることに成功、

だが、まだ片脚が残っているためにこちらに攻撃が届かない!

無理やり首を伸ばして、私たちを噛み砕こうとしたり背後からの尻尾を振り回そうとしているが、どちらも間合いの外だ。


さて・・・このまま攻撃を中断しては、ブラックワイバーンは残った片脚も引き抜き攻撃を届かせることだろう。

翼にも怪我を負わせているが、あの状態でも飛び上がれるかもしれない。

今のところアガサの氷系呪文が一番効果が高いようだが・・・

 「アガサ、まだ魔力は大丈夫か!?」


即答。

 「問題なし! あと10発は可能!!」

とんでもない女の子だな・・・。

まぁ、残り3、4発で無力化できるかと思ったが、

どうしようか、安全策で更に精霊術を強化・・・。

ブラックワイバーン周辺はマイナス20度にもなっているだろう。

このまま超低温で凍死させることも出来るが・・・。


 「いや、カラドック、ここらでストップしてくれ、

 タバサとアガサがきつそうだ。」

 

おっと、見ると二人が寄り添うようにくっついて震えている。

獣人の体毛を持つケイジとリィナちゃんはまだ耐えられるが、

エルフの二人には限界らしい。

冷気の中心地から離れているとはいえ、こちらにも影響は受けるからね、

プロテクションシールドでは温度変化は防げない。

ん? 私かい?

術者である私は干渉を受けないんだ。

それが精霊術の強みでね。

それはそうと・・・


 「ではケイジどうする?

 精霊術をストップさせるとアガサの攻撃呪文も元の威力になるが・・・。」


ケイジは弱弱しくもこちらに攻撃をかけようというブラックワイバーンに剣を向けながら笑う。

 「お前の力は見せてもらったからな、後はオレたちの番だ、リィナ!!」

 「あいよ!!」


その時、私の氷系精霊空間に異質な気配が発せられたのを感じた。

それは私の新たな術でもなければアガサやタバサの魔術でもない。

これは雷系!?



その気配の発信元は・・・リィナちゃんっ!?


いつの間にか二刀のナイフは収められ、

腰元のロングソードの柄を右手は握りしめている・・・!

 「剣よ・・・今こそその力を見せ給え。」


剣?

いや、おかしい・・・この気配は雷系魔力・・・

それはいい。

リィナちゃんは雷系魔法を使えるのか?

いや、そうじゃない、

何か変だ・・・!

魔法ならリィナちゃんのカラダに魔力が集中するはず・・・

だが今やその気配は腰元の剣に集中している・・・!?


そして彼女はゆっくりと鞘からロングソードを引き抜き・・・


パリッ・・・!


青白い火花が煌めく・・・

いや、よく見ると引き抜かれた剣にも、うっすらと青白い燐光のようなものが纏っている・・・。

魔法剣か・・・!?

だが雷系の魔法剣なんて見たことも聞いたこともないぞ?


フィィイイィン・・・


奇妙な高周波のような音と共に、青白い光は剣どころか、リィナちゃんのカラダをも覆ってゆく・・・。

この魔力量は・・・!?

尋常じゃないエネルギーだ!!

私やアガサのそれを遥かに上回る!?

前を見るとブラックワイバーンですら脅えている!!


 「さぁぁ、行くよぉぉぉっ!」


雄たけびと共にリィナちゃんダッシュ!!

まるで青白い炎に包まれた弾丸だっ!


 「ああああああ! 叫べいかづちぃぃぃぃぃっ!!」


瞬間! 

目も眩む紫電と轟音が辺りを蹂躙っ!

まさしく落雷にでもあったかのような衝撃がその場に響く!!

これは・・・


この技はっ・・・







・・・何も見えない・・・

何も聞こえない・・・

足元の岩場を踏みしめる感覚や、体に浴びる風の動きは掴めるので、

麻痺しているのは視覚と聴力だけか・・・。

奴は・・・ブラックワイバーンはどうなった!?


ようやくうっすらとだが、視界がはっきりしてくる・・・。

あの巨体は・・・私の眼が見えなくなる前の位置のまま、

氷の川の上で、完全に動きを止めて固まっていた・・。



そう言えば、時間感覚も麻痺してしまっていたかもしれない、

私が我に返るまで、どれだけの時間が過ぎていったのか・・・。

リィナちゃんが剣を振りかぶった瞬間までは、私の目で捉えることが出来ていた。

恐らくその後、ワイバーンに近づくどこかのタイミングで、剣を振り下ろしたと思われるが、

あのタイミングでは、その瞬間はまだワイバーンには距離が離れていた筈。

近接せずとも中距離から攻撃が可能なのだろうか。


ブラックワイバーンのカラダが凍りついた水面に崩れ落ちた衝撃で、

初めて私は我に返ることができた・・・。

もちろん、他のメンバーは初見じゃなかったのだろう。

既に戦闘体勢を解除している・・・。


いや、まだ警戒したままのケイジが、力なく横たわっているワイバーンに近づいている。

息があるのかどうか確認しているようだ。

だが、確認するまでもないだろう、

辛うじて生きていたとしても、あれでは爪一本動かせまい・・・。


ブラックワイバーンのカラダはここから見ても、時々ビクビクとは痙攣しているが・・・

もう・・・心臓の音が止まっていたとしても不思議ではない。

そしてケイジは静かに剣を振り上げる・・・・。

もう番狂わせは起こらない。

次に私たちが目にする光景は、誰もが疑いなく予想できるものだろう。

それは、ワイバーンに止めを刺し、私たちが互いに無事と勝利を喜び合うという光景だ。

私もそれを確信していた。




だが、ケイジが最後に発した言葉は、

私の予想を、無慈悲にも粉々に打ち砕いてしまうものだったのだ。


その言葉とは・・・


 「さよなら・・・ブラックワイバーン。」





な ん だ っ て ?





そしてブラックワーバーンの首は斬り落とされた・・・!



 

【鑑定】

天叢雲剣あまのむらくものつるぎ・・・伝説級レジェンド

異世界で消失した筈の一振りの神剣。

装備者の精神力を雷に変換し剣に纏わす事ができる。

資格のない者が持とうとすると、剣からの神罰が下る。


【蛇足】

なお、資格がない者は「紋章」などのサブアイテムがあれば装備可能です。

「紋章」がなければ誰も装備できないという訳ではありません。



次回でカラドック・「蒼い狼」加入編終了。

メリーさん「・・・待たせすぎ・・・。」

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