第六十話 大捕り物
「『全てを焼き尽くす炎よ!』
『全てを焼き尽くす炎よ!』」
考え事している場合じゃないな!
アガサの火系呪文!
だが何だ、あれ? 詠唱パターンがおかしい!
初めて聞く文言だ!!
「『我が槍となして敵を貫け!」
『我が槍となして敵を貫け!』」
な、ま、まさかこれって!?
アガサの眼前に二振りの炎の槍が浮かび上がる。
高等攻撃呪文の二重詠唱かよ!?
そんなことまで出来るのか・・・。
「『ファイアーランス』!!」
最後は起動呪文一度で二発の炎の槍が土壁に激突した!
あまりの高熱にこちらまで熱気の余波が襲い掛かる!
熱から顔面を守る為に右手をかざした隙間から土壁を見ると、
二本のファイアーランスが壁をごっそりと抉り取り、中心部分は土が溶岩のように溶けかかっていた。
・・・それでも分厚く土壁を貫通させることができない!
アガサの魔力も、オレが今まで出会った魔術士の中でも最高峰といえるのだろうが、
布袋の魔力は更に桁違い・・・いや、次元が違うという事なのか。
「く、なんという堅固なアースウォール・・・。」
アガサは悔しそうに呻く。
だがあと一息の筈だ。
「アガサ!
同時に撃ち込む必要はない!
むしろ同じ場所に連続で撃ち込めば貫通出来るはずだ!」
オレはアガサに助言を飛ばす。
恐らく属性選択は間違っていない。
理論的には水系呪文でも効果的な筈だが時間がかかる。
そして火系同時二発は破壊力は高そうだが貫通力に欠ける筈だ。
ここで求められるのは速射性というより、
同じ場所への精密性、持続性だ!
そしてアガサはすぐにオレの言いたい事に気付いたようだ。
「ケイジ、助言感謝!!」
だが、アガサが次の行動に移る前に、もう一方にも動きが起こる。
「これは参ったな、
ここは私も引き取らせて頂きたいのだが・・・。」
ここでベルナールを放ったらかしにするようなノードス隊ではない。
今、まさにノードス隊長自らベルナールに近づこうとしていたその時だった。
ベルナールのセリフに、抵抗の意思有りと見てノードス隊長の足が止まる。
「ふざけるな、
大人しく抵抗しないというのであれば、手荒なマネはしない。
その弓を捨ててもらおう。」
「ふぅ、やれやれ、面倒ごとは真っ平なのだがね、
仕方ない、
『大いなる闇よ、夜の帳をここに下ろせ、ダークネス!』」
攻撃するかと思っていたら、フィールド呪文か!
しかも闇属性だと!?
こいつの得意技は風魔法だけではなかったのか。
あっという間に辺りが真っ暗になる!
この隙に逃げるつもりか?
視界を閉ざされ、土壁にトドメを刺そうとしていたアガサの行動も止まったようた。
攻撃箇所の視認ができなければ、魔力の無駄遣いになりかねない。
ラプラス商会とベルナールは、
先程のやり取りから見て、手を組んでいる可能性は低そうだったが、
この場から逃亡する事に関しては結果的に共同歩調を取るということか。
だが、オレの見込みは甘かったようだ。
続いて聴こえてきたのはベルナールの更なる詠唱。
彼が選択した行動は、やはり逃亡ではなく反抗というわけだ!
「『大いなる闇よ、我が矢に宿りて敵を苛め!!』
弓術大会で見せなかった術か!
闇属性の魔法付与など初めて聞く。
いったいどんな効果が!?
「全員マジックシールド展開!!」
ノードス兵団長の言葉に全てのダークエルフがそれぞれ独自のシールドを張る。
オレとリィナには魔法はない。
自分たちの身体能力と五感でかわすのみだ。
すぐにベルナールの辺りから矢を放つ音が聞こえるも、
何かおかしい。
そしてオレはその違和感の正体にすぐに気付いた。
空気を切り裂く音が複数、上方から!!
「上だっ!!」
オレとリィナは反射的に転がりその場を離れ、落下する矢を逃れた。
だが、何人かのダークエルフ達の間に悲鳴が起こる。
「ふふ、さすがにノードス兵団の魔法部隊の実力を私は舐めたりはしない。
だが、攻撃が前方からかけられると思い込みが過ぎるのでは?
いくらあなた方が鉄壁のシールドを張っていたとしても真上は無防備というわけだ。」
「くそっ! 奴はどこだ!!」
さすがに部隊長のノードスは無事のようだ。
だが、魔力を使わない状態になってしまった敵を見つけるのは難しいのだろう。
しかもどういうわけか、もはや攻撃が行われていない筈なのに、
ダークエルフ達からはなおも悲鳴が上がる。
「スリップ効果。」
この声はアガサか!?
「スリップ効果だって?」
「闇属性の攻撃を受けると一定時間ごとに追加ダメージ発生。
付与魔力が切れると効果解除、
またはディスペル系解呪呪文でも対応可能。」
っつったって、ここには解呪できる人間は・・・。
「ただし解呪可能人間がこの場に不在。」
ほら、やっぱり!
「ええい、ダメージ食らい続けようと魔力が尽きたわけでもあるまい!
全員、あの男を捕縛せよ!!」
ノードス兵団長から指示が飛ぶが、
一定の時間ごとに痛みを食らうのであれば、隊員たちも魔力集中は至難の業ではないだろうか?
今も、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。
・・・いや、それに混じってこの足音は・・・。
「リィナ!」
「あいよ!!」
足音と外套の衣擦れの音は誤魔化しようがない!
オレはベルナールと思われる者の首筋、
リィナは、同じく足元に破壊力ばっちりの一撃をそれぞれ決めた!
「グアッァァ!?」
そのまま真っ暗闇の地面にたたき伏せる。
「アガサ! 光系フィールド呪文は可能か!?」
「足元なら簡易な呪文で十分、『ライト』。」
周りは暗いままだが、すぐにアガサが作った光がオレの周辺を照らす。
間違いなくオレの体の下で呻いているのはダークエルフのベルナールだ。
「おおっ! ケイジ殿、感謝する!!」
ノードス兵団長が足早にやってきて、
倒れているベルナールの手首に金属の枷をはめた。
おっ? なんかこれで決まりっぽいぞ?
ガチャリと無機的な音がすると、
ベルナールから悔しさの声が漏れる。
「く・・・、魔力が練れない!
魔封じの手枷か・・・!」
どうやら魔法を阻害するタイプのアイテムのようだ。
そのマジックアイテムのおかげか、
それともベルナールの魔力切れか、周りの闇は解除されて視界も元の景色に戻っていた。
動けるダークエルフ達が辺りを捜索するも、
もはや、布袋の姿は何処にもない。
完全に逃げられたようだ。
辺りを見回すと大変な事になっている。
地形はメチャクチャだし、
公民館は跡形もないし、
ダークエルフの皆さんは半数がボロボロだ。
回復呪文を使える者がいるようだが、
焼け石に水と言うべきか、闇魔法のスリップ効果は消えてないらしい。
術者の魔力が封じられていても、
当初に付与された魔力を消費しきり終わるまで、ダメージは加算され続けるのだ。
何という嫌らしい能力か。
「『聖なる光よ、その破邪の力持て、この地の汚れを祓いたまえ、ディスペル。』」
おおっ!?
辺りが光に包まれた?
いつのまにか、女神官タバサが到着していたらしい。
祈りを捧げるようなポーズで解呪呪文を唱えたのか、
光の中にいたダークエルフたちは、
全てベルナールの闇属性魔法のスリップ効果を打ち消されたようだ。
しかし、凄いな、
こんな広範囲な回復魔法初めて見たぞ?
さすがはハイエルフの女神官ということか。
いいものを見せて貰った。
だが、
やれやれ、やっとこの場の騒ぎは収まったが・・・まだ何も解決してないんだよなあ。
ていうか、確実に問題大きくなっているよな?
リィナ
「追加ダメージって、どんな痛みなの?」
モブ魔法兵団さん
「あ、なんていうか、体のその部位ごとギュッと握り潰されたような・・・」
リィナ
「うわぁ、痛そう・・・。」
ケイジの回想シーンは後1、2回くらいかな?
メリーさん
「私は今、どこにいるの?」
あ、もうちょっと待って・・・