幸せ
ヴィンスは最後の1枚の写真を手に取り、懐かしそうに目を細めた。
「これが結婚式の写真じゃよ」
そう言って大事そうに差し出された写真をオードリーは両手で受け取った。その写真の中では、純白の衣装に身を包んだバーバラとフレッドが、幸せそうに笑っている。オードリーは自然と笑みがこぼれた。そんなオードリーを見て、ヴィンスは本当に嬉しそうに笑った。
「2人の決断は、間違ってなかったんじゃのぉ。こんなに可愛い娘にも恵まれて、幸せに生きたんじゃな」
「……幸せだったなら、いいんですけれど……」
ヴィンスの言葉に、オードリーは寂しそうに笑う。そして徐々に、その顔からは笑みが消えていった。ヴィンスはオードリーの急な変化に驚き目を見開いている。レオンも心配そうにオードリーを覗き込んだ。
2人はオードリーを愛してくれた。外には出られなくても、オードリーは幸せだった。でも、2人はどうだったのだろうか。2人で幸せになると村を出たのに、オードリーの所為で幸せから遠ざかってしまったのではないか。
そんな思いが頭の中をぐるぐると回る。今まで考えないようにしてきたことが、バーバラとフレッドの過去を知ったことで次々と湧き上がってきた。私の所為だと、罪悪感がのしかかる。そしてそれが少しずつ、口を通して外に出ていった。
「私のこの瞳の所為で、定住することが難しかったんです。両親には苦労をかけました。2人は私を愛してくれた。でもその所為で、不幸にしてしまったかもしれません……」
オードリーは2人が幸せだったと信じているヴィンスの目を見ることができず、話しながら俯いていった。言葉が出せなくなりオードリーが黙り込んだ時、ガタンっと音がしてオードリーの視界は真っ暗になった。
「オードリー、そうやって卑屈になるのは君の悪いところだ。直した方がいい。もっと自分に自信を持つんだ。2人はオードリーを守ろうとした。父親は君が生きていけるよう薬学の知識を授けてくれた。愛されているじゃないか。俺は2人を知らないが、2人は絶対に幸せだった」
頭の上からレオンの言葉が降ってくる。それは厳しい口調だったが、オードリーを温かく包み込んだ。
「そう……でしょうか……」
「そうだ。間違いない。ご両親を信じるんだ。君は幸せだったんだろう?」
オードリーが黙ったままこくこくと頷くと、レオンはオードリーをさらに強く抱きしめた。
「この村にはの、人間は入ってこられないのじゃ。心の綺麗な人間と、精霊の血をひく魔法使いを除いての。まぁ例外もなくはないがの……」
レオンは慌ててオードリーから離れると、オードリーの肩に手を添えてヴィンスの方を向いた。オードリーも恐る恐る顔を上げる。ヴィンスは立ち上がると静かにオードリーに近づき、オードリーの顔をそっと両手で包み込んだ。
「オードリー、君はここにやってきた。魔力も持たないのに。そんな優しい心を持つ娘に2人は育てたんじゃ。大丈夫。2人は幸せじゃ。2人のことをよく知っている私が言うんじゃから間違いない」
ヴィンスはオードリーを安心させるように笑った。その言葉に、その笑顔にオードリーの瞳は揺らぎ始める。ヴィンスはさらに笑みを深めると大丈夫、大丈夫と何度も頷きながら繰り返した。
肩から、頬から心地よい温もりが伝わってくる。
「信じます」
オードリーが微笑むと、細めた目元から1筋の涙が溢れた。オードリーは恥ずかし気に手の甲で涙をぬぐう。
「大丈夫そうじゃの」
ヴィンスは安心したようににこりと笑うと、オードリーの頭をそっと撫でてから席についた。
「今度は、私たちの知らないオードリーの両親の話を聞かせてはくれまいか?」
「喜んで」
オードリーは振り返りレオンに大丈夫というように笑みを向ける。レオンはほっとしたような顔をし、「側にいる」とオードリーに囁いた。オードリーは意味がわからずきょとんとしたものの、すぐに過去を思い出すオードリーを心配しているのだと気が付いた。
「ありがとうございます」
オードリーが囁き返すと、レオンは目を細めてオードリーの頭をくしゃりと撫でた。そしてオードリーが話し終えるまで、ずっと側でその肩を支えていた。




