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第7話 ダンジョン産防具

 翌日、俺は隣町にあるダンジョン管理機構のアイテムショップに来ていた。当然、ダンジョン産の防具を手に入れるためだ。

 店に入ると前回と同じように大きな鎧と大剣に迎えられる。前回はあまり買うつもりがなかったので気にしていなかったが、これも売り物なのだろうか?

 大きな鎧と大剣を横目に防具売り場へと移動する。防具売り場は壁側に壁に沿って鎧がいくつも並べられ、通路側の棚にはガントレットやブーツなどの防具が展示されていた。

 通路を歩きながら鎧を確認していく。しかし、展示されているのは全て金属鎧だった。この前来た時も金属鎧しか置いていなくてレザーアーマーは取り寄せになると聞いたことを思い出した。

 金属鎧で動き回るのは厳しそうなのでレザーアーマーを取り寄せてもらうか。そう思って店員を探すが、店の奥まで行っても店員の姿が見えない。仕方がないのでレジカウンターの上に置かれたベルを鳴らす。


「はーい、すぐ行きまーす。」


 すると店の奥の扉から声が聞こえ、少ししてから店員が出てきた。


「すいません、お待たせいたしました。どういったご用件でしょうか?」


 声が聞こえてきたときに気付いていたが出てきた店員は女性だった。前回は男の店長だったので意外に思いつつ用件を告げる。


「私は探索者でダンジョン産の防具を探しているのですが、軽くて動きやすいものはありませんか?売り場には金属製の鎧しか展示されていないのですが。」


「そうですね、レザーアーマーなんていかがですか?ちょうど今週入ってきたばかりの物が奥にあるんですよ。お持ちしますので少しお待ちください。」


 そう言うと店員は再び扉の向こうに消える。どうやら、取り寄せすることなくレザーアーマーが手に入りそうだ。

 そのまま待つのもあれだったので、防具売り場に戻ってガントレットやブーツなどの防具を見る。しばらく眺めていると、店員が大きな段ボールを抱えてやって来た。


「お待たせいたしました。こちらが先ほどお話ししたレザーアーマーになります。」


 そう言って店員が抱えていた段ボールを床に下ろす。段ボールの中には簡素な革製の胸当てとリストバンドが入っていた。


「こちらの商品はダンジョン産の装備としてはランクが低いものとなっているのですが、軽さと動きやすさについては太鼓判を押せる物となっています。」


「このレザーアーマーだと上半身しか守れないように思うんですが、どの程度の防御力があるんですか?」


 俺は商品を見てから気になったことを確認する。何となく展示されている金属鎧のように革鎧も全身を覆うような装備になるかと思っていたのだ。


「お客様はダンジョン産の防具は初めてですか?であればご存じないかもしれないんですが、ダンジョン産の防具の場合、装備箇所以外も膜のようなものに覆われて全身を守る効果があるんです。また、ダンジョン産の防具にはサイズ自動調整の機能が付いていまして、使用者の体格に合わせて防具の大きさが変化するんです。良ければ実際に装備して確認されませんか?」


 俺は店員の言葉に驚きつつ、勧めに従ってレザーアーマーを試着させてもらうことにした。

 すると驚くことに装備した瞬間にレザーアーマーのサイズが変化して俺の体格にぴったりフィットしたのだ。


「これはすごいですね。もうこれで下半身についてもレザーアーマーの防御が有効になっているのですか?」


 サイズが変化したレザーアーマーに驚きつつ、店員に確認する。レザーアーマーを装備している箇所以外に特に守られているというような感覚がなかったのだ。


「いえ、サイズ自動調整についてはダンジョンエリアの外でも機能するんですが、全身を守る機能についてはダンジョンエリア内部でしか機能しません。ですので今は純粋にレザーアーマーを装備している箇所しか守れていないですね。」


「そうですか。ところで先ほどこのレザーアーマーのランクが低いというようなことをおっしゃってましたが、どの程度まで防ぐことができるんですか?」


「そうですね。このレザーアーマーですと第10階層程度までが適正レベルになります。ただ、使用者のレベルであったり、他の装備品などでも色々と変わってきますので実際の状況に合わせて装備品は交換していく必要がありますね。」


 俺は店員の回答に意外に高階層まで使用できるんだな、などと思いながら続けて質問する。


「他の装備品でも色々変わるとおっしゃいましたけどそこにあるブーツを追加で装備するとさらに全体の防御力が上がるってことでいいんですか?」


 俺が先ほどまで見ていたブーツを示して質問すると、店員はそちらに目を向けながら答えてくれる。


「ええ、そうです。どうやらダンジョンエリア内では装備している装備品の合計の防御力がその人の防御力として扱われるようでして、装備品を増やすごとに全体の防御力が上がることになるみたいですね。」


 ふむ、やはりそうなるのか。そういうことであればブーツも買おうか、そう思い店員に声をかける。


「では、ブーツも購入したいのですが、このレザーアーマーと同じランクの物を選んでいただけませんか?」


 そう言うと店員は先ほどまで俺が見ていたガントレットやブーツが置かれたコーナーから革のブーツを1つ選んでくれた。

 俺はそれを受け取り先ほどのレザーアーマーと一緒に会計を済ませる。レザーアーマーが30万円、ブーツが15万円で合わせて45万円だ。

 覚悟していたこととはいえ、装備品の値段にげんなりしつつ商品を受け取る。

 何にしてもこれで明日から再びダンジョンに挑戦できる。スライムへのリベンジを胸に俺は店を後にするのだった。



 翌日、俺は購入したレザーアーマー、レザーブーツを装備してダンジョン入り口の前に立っていた。

 どうやらあの店員が言っていたことは事実のようで、装備している箇所だけでなく全身が何か膜のようなもので守られている感覚がある。その感覚に安心感を覚えつつ、俺はダンジョンへと足を踏み出した。


 1日ぶりのダンジョンには相変わらずモンスターが少なかった。レザーアーマーとレザーブーツを装備した効果をすぐに確認したかったのだが、なかなか思うようにはいかないようだ。

 まあ、部屋に突っ込めばモンスターには会えるのだろうが、さすがに確認もなしに突っ込むのはありえない。前回の経験を全く顧みないとか馬鹿のやることだろう。

 そんなことを考えながら通路を進んでいると因縁の十字路まで来てしまっていた。しかも通路の先にはグリーンスライムがいる。

 俺は慎重に左右の通路を確認する。どうやら今回はモンスターが潜んでいることはないようだ。

 そうと分かればこのグリーンスライムには装備の効果を確認するための実験台になってもらおう。

 そう決めた俺は前方のグリーンスライムへと駆け出し、大ぶりの攻撃を仕掛ける。

 俺の駆ける音に気付いたグリーンスライムがこちらを振り向き、横に転がってバットを避ける。

 予定通り攻撃を避けられた俺はそのままの体勢でグリーンスライムからの攻撃を待つ。

 すると期待通り、無防備にさらけ出した俺の腹めがけてグリーンスライムが体当たりを仕掛けてくる。


「……。」


 あれ?今攻撃を受けたよな?

 俺はあまりの衝撃のなさにステータスのHPを確認する。するとわずかにHPが減っていた。どうやらグリーンスライムの攻撃が外れたわけではないようだ。

 というか、攻撃の衝撃をほとんど感じないのにHPは減るのか。ダンジョン産の防具で防御力が上がるのは良いが、雑魚モンスターの攻撃で気付かずにHPがなくなっているとかないよな。……これからは常にHPを意識しておこう。

 俺はダンジョン産の防具の期待以上の防御力に驚きつつ、尚もこちらに攻撃を仕掛けてくるグリーンスライムの体当たりをバットで受け止め、落ちたところをバットで叩きつけて倒した。


 その後もダンジョンの通路を歩きまわり、グリーンスライム2体に対して同じように確認を繰り返した。

 手や腕、足、頭で受けてみたり、腕でガードしたり、バットで受けてみたり、足で蹴りを合わせてみたりと色々と試してHPの減り方を確認したのだ。

 その結果、手や腕、足、頭で受けた場合はHPが減少し、腕でガードした場合やバットで受けた場合、足で蹴りを合わせた場合にはHPが減少しなかった。

 このことから俺は防御行動をしている場合はダメージを防げるのではないかと推測している。もしかしたらバットで防御した場合だけバットの防御力が加算されているのかもしれないと思って、腕でガードした場合も試してみたところダメージがなくなったのでおそらく正しいと思う。まあ、蹴りを合わせるのを防御行動とするかは微妙なところだが。

 ただ、前回はバットで受け止めた場合にもHPが減少していた。おそらく単純に防御力が低かったためにダメージが防ぎきれなかったのだと思われる。なので、こちらの防御力を上回る攻撃を受けると防御してもダメージを受けるということだ。当たり前のことだとは思うが、今後スライムよりも強いモンスターとも遭遇するだろうし、きちんと意識しておかなければいけないだろう。


 また、手や腕、足、頭、腹で受けた場合のHPの減少量は全て同じだった。何もつけていない手のひらやレザーアーマーの革で覆われた腕と腹、レザーブーツで守られた足、ヘルメットで守られた頭のダメージ量が同じことから、あの店員が言っていた装備品の防御力合計がその人の防御力となるという話は事実だったようだ。

 正直なぜこのようなことになるのかはわからないが、これもダンジョンのシステムとして受け入れるべきなのだろう。

 しかし、そうであれば探索者にはダンジョン産の防具を装備することを義務付けるくらいのことをしてもいいのではないだろうか?そうしていれば、俺もグリーンスライムに殺されかけるなんてこともなかっただろうに。

 いや、結局は同じことか。ダンジョン産の防具を装備していても適正レベルを超える階層に踏み込めば同じだ。であれば、まだ低階層で気付ける方が安全なのだろう。まあ、ダンジョン管理機構がそこまで考えているのかは分からないが。


 グリーンスライムを相手にしたダンジョン産の防具の確認結果についてそんな風に振り返りつつ、俺はダンジョンを後にした。


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