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ダンジョンのある風景  作者: はぐれうさぎ
第1章

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第9話 小部屋初挑戦

 佐々木剣術道場から帰った俺は昼食を済ませ、いつも通りにダンジョンへと入っていた。

 ダンジョンの通路を歩き、初日に見つけた部屋を目指す。2日目に見つけた部屋よりも小さかったのでおそらく小部屋と思われる。


 20分後、小部屋までの道順を記憶していた俺は迷うことなく扉の前へとたどり着いていた。途中でグリーンスライム1匹と遭遇したが、もはや1匹程度では問題にはならなかった。


 深呼吸をして左手で扉に触れる。右手に握った金属バットを強く握りしめ直し、俺は左腕に力を込めて扉を押し開く。

 前回と同様に異様なほど重さを感じさせない扉は音もなく開いていった。


 

 観音開きの扉の片方を全開にして小部屋の中を確認すると円形の部屋は学校の教室2部屋程度の広さであることが分かった。

 扉から左手を離して小部屋の中へ入る。

 扉が開かれたというのに部屋の中にいるスライムたちはこちらに一切反応していない。俺は意外に思いつつもさらに部屋の中へと歩みを進める。


 不意に後ろから風を感じて振り向くと扉が音もなく閉じようとしていた。

 俺は慌てて扉へと駆け寄る。まさかとは思うが、扉がロックされるなんてことになるとまずい。

 しかし、俺の不安は杞憂だったようで確認すると扉は先ほどと同じように重さを感じさせることなくすんなりと開いた。


「ふぅ。」


 俺は安心して視線を部屋の中に戻す。

 すると、扉の近くにいたグリーンスライム4匹とブルースライム1匹がこちらに気付いて移動し始めていた。

 おそらく慌てて扉に駆け寄った時に音をたてて注意をひいてしまったのだろう。失敗した。

 だがまあ、奥の方にいるスライムたちはまだこちらに気付いていないようだし、このままこいつらを相手に始めよう。

 そう決めた俺はその場でバットを正面に構え、スライムたちが近づくのを静かに待つことにした。


 最初に動いたのは左から2番目のグリーンスライムだった。

 2メートルほどの距離になったところでこちらに体当たりを仕掛けてくる。

 他のスライムたちとはまだ距離がある。これならまずこいつを先に倒せるだろうか。

 そんなことを考えつつ、俺はバットでグリーンスライムの体当たりを受け止め、地面へと落とす。

 そのままバットを振りかぶって追撃を加える。

 しかし、2回殴りつけたところで他のスライムたちが攻撃可能な距離まで迫ってきていた。


 俺は目の前のグリーンスライムへとどめを刺すことを諦め、左端のグリーンスライムめがけて蹴りつける。

 残念ながら左端のグリーンスライムには避けられてしまった。しかし、牽制にはなっただろう。

 俺はそのまま左端のグリーンスライムに駆け寄りバットを突き込む。

 グリーンスライムは回避行動から復帰できていないため体の中心に叩き込むことができた。


 だが、俺の視界には右から残りのスライム3匹が飛び掛かってきているのが見える。

 すぐさまバットを翻して攻撃を受ける体勢をとる。

 しかし、バットは真ん中にいたブルースライムの攻撃を受け止めただけで、残りのグリーンスライムからは右腕と腹に攻撃を受けてしまう。


「チッ。」


 俺は周りをスライムに囲まれつつあった状況を脱するため、ダメージを無視して右後方へと下がる。

 スライムたちから距離をとり、周囲を確認する。

 どうやら今の戦闘音で奥にいたスライムたちにも気づかれたようだ。こちらを見ている個体や、こちらに向かってきている個体が見える。

 さて、どうするか。ダメージは軽微なのでここにいるスライムたちにたかられながらでも1匹ずつ倒していけば倒しきることは可能だ。

 しかし、それだと対複数との戦闘訓練を積むという当初の目的が果たせない。かといって、奥にいるスライムたちが追加された状態で戦闘をする技量はまだない。


 そんなことを考えつつ目の前のスライムたちに注意を払っていた俺の視界に赤いものが飛んでくるのが見えた。


「!?」


 驚いて飛んできた方向を確認するとそれは火の矢だった。

 慌てて両腕で顔をかばう。

 腕にスライムの体当たりとは比較にならないほどの衝撃が走った。


「ぐぅっ。」


 呻きをあげつつ、痛みを押さえて腕を下げる。

 視線を火の矢が飛んできた先へと向けると、そこにはポンポンと跳ねる赤いスライムがいた。


「魔法使うのかよっ!」


 レッドスライムからの遠距離攻撃に対して無駄な突っ込みを入れつつ、目の前のスライムたちに視線を戻す。

 スライムたちはさっきの間に距離を詰め、いつでも飛びかかってこれる位置にまで近寄っていた。


 まずはこいつらをどうにかしないと。意識をレッドスライムから目の前のスライムたちに切り替える。

 目の前には3匹のグリーンスライムに1匹のブルースライムがいる。そのやや後方にはおそらく先ほど蹴り飛ばしたグリーンスライムがおり、さらに後方には奥にいたスライムたちがやや距離をとってこちらを見ている。


 俺はバットを構えて一番近くにいたグリーンスライムへと殴り掛かる。

 同時に他の3匹のスライムたちが飛び掛かってくるのが見えるが今は無視だ。

 狙いを付けたグリーンスライムが横に転がり避けようとする。

 それに合わせバットの軌道を横に変化させる。

 バットはグリーンスライムへと吸い込まれるように叩き込まれた。


 しかし、それと同時に横からスライムたちの体当たりを受ける。

 ほとんど衝撃はないがHPは確実に削られている。HPを確認するとさっきのレッドスライムの攻撃と合わせて既に90を切っていた。

 俺はHPを気にしつつもそのまま狙ったグリーンスライムに対して追撃を加える。

 2発、3発とバットを叩き込むが同時に他のスライムたちからの体当たりも受けている。

 4発目を入れたタイミングでグリーンスライムが光となって消えた。


 俺は急いで他のスライムたちに向き直りバットを振るう。

 ちょうど飛びかかって来ていたグリーンスライムに当たり後方へと弾き飛ばす。

 しかし、レッドスライムの方から2つの火の矢が飛んでくるのが視界に飛び込んできた。


「今度は2発かよ!」


 無意味とわかりつつも文句を言ってバットで火の矢を迎撃する。目の前で飛び跳ねているスライムは無視だ。

 2本の内、先に飛んできた火の矢にバットが当たり火の矢が弾ける。

 バットから伝わる衝撃を腕に感じつつ2本目も同様に迎撃しようとする。

 だが、2本目の迎撃は間に合わず火の矢の直撃を受けてしまう。


「がはっ。」


 胸に受けた衝撃で一瞬呼吸が止まる。

 金属バット、というか物理攻撃で魔法が相殺可能だということが分かったのは良いが、ダメージが大きすぎる。ここは一旦出直すべきだ。

 そう決めると俺は目の前のスライムたちをバットを振って蹴散らして扉へと駆けた。そして、そのまま体当たりするように扉を開けると通路へと逃げ出した。


 

「はあはあ。」


 小部屋から逃げ出した俺は、先ほどの戦闘で乱れた呼吸を整えつつ扉から少し離れたところで座り込んでいた。


「というか、スライムのくせに魔法とか卑怯だろ。」


 ダンジョンの壁に向かって文句を吐く。

 正直、レッドスライム以外のグリーンスライム、ブルースライムの大群だけであればどうにかなっていたと思う。だが、レッドスライムの魔法はダメだ。あれはやばい。

 HPが半分近くまで減っているが、大半があの火の矢によるダメージだ。あの火の矢に対する対策をどうにかしないと小部屋に挑戦するのは厳しそうだ。盾を持ってガードするかレッドスライムまでの距離を詰めて魔法の出だしを潰すかといったところか。どちらにせよ、周りにいる他のスライムたちを相手にしながら対処することができるようになる必要がありそうだ。


 そんなことを考えていると扉の方からグリーンスライムがやってくるのが見えた。

 面倒に感じつつ立ち上がる。もう少しゆっくりと休憩したかったんだが。

 そう思いながら視線を扉の方に向けると扉を擦り抜けてブルースライムが出てくるのが見えた。


「ふぁっ?」


 驚きのあまり、変な声を出してしまった。モンスターって扉を擦り抜けられるのかよ。

 そんなことを思って見ている間に通路にはブルースライム1匹、グリーンスライム3匹が出てきていた。

 先ほど部屋の中で相手をしていたのと同じ数だ。俺を追いかけて部屋の外まで出てきたのだろうか?

 何にしても好都合だ。先ほど倒せなかったうっぷんを晴らさせてもらおう。

 俺は右手に持ったバットを強く握りなおすとスライムたちに向かって歩き出した。


 スライムたちへ攻撃可能な距離まで近寄ると、俺はそのまま一気に右端のグリーンスライムへと殴り掛かった。

 グリーンスライムはいつも通り横に転がって避けようとするが、いい加減にそういう行動の予測はできるようになっている。俺はグリーンスライムの動きに合わせてバットの軌道を変化させてバットを叩き込む。

 遅れて他のスライムたちが体当たりを仕掛けてくるが左腕でガードする。ブルースライムの一撃だけダメージが入ったようだが気にせず目の前のグリーンスライムへの追撃を行う。

 動かないグリーンスライムへ更に3発のダメージを加えるとグリーンスライムは光となって消えた。

 俺はそのまま残りのスライムたちへ向き直ると同じように1匹ずつ片づけていくのであった。


 

「やっぱりレッドスライムがいなければ問題ないな。」


 俺は再び通路に座り込んで今の戦闘を振り返る。

 幅に制限のある通路で右端のスライムを狙って残りのスライムたちからの攻撃を左からだけに制限する。そのうえで攻撃を左腕でガードして右手に持ったバットでスライムへの攻撃を行う。

 小部屋の中の戦闘では周りにスペースがあったためにスライムたちをうまく抑え込むことができなかったが、その辺の立ち回りについては明日の稽古で相談してみよう。

 立ち回りさえどうにかしてしまえば小部屋の中でもレッドスライムの火魔法以外はどうにかできるだろう。やはり問題はレッドスライムをどうするかだ。


「そういえば、他のスライムも部屋の外におびき出せるんだろうか?」


 ふと思いついたことを口にする。

 先ほどのスライムたちは部屋の中で攻撃を加えてきた奴らだ。もう一度部屋へ入って適当な数のスライムに攻撃を加えてこちらに注意をひきつけてから部屋の外に出れば残りのスライムたちもおびき出せるのではないだろうか?

 レッドスライムの火魔法は脅威だがバットでも防げないわけではない。1対1、そこまでいかなくてもさっきの戦闘のように片腕で防げる程度の数にまでスライムたちの数を減らせれば、レッドスライムに魔法を使わせる前に潰すことができるのではないだろうか。


 そう考え、実際に試してみようと立ち上がる。

 だが、ステータスのHPを確認してその考えを諦める。休憩したことで若干回復していたがHPが6割しかなかったのだ。

 部屋の中からスライムたちをおびき出すだけであれば大丈夫な気もするがここは用心しておこう。

 そう決めると俺は扉に背を向け、ダンジョンの入り口へと歩き出した。

 結局、俺のダンジョンの小部屋への初挑戦はレッドスライムの魔法の前に退散という苦い結果で終わった。


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