プロローグ 総て弱ぼらしきはボロゴーヴ
空が、青く見えている。
ハレルヤ!
思わず、そう祈らずにはいられない、白い雲。
「──生きてる?」
彼女が、そう尋ねる。
「はい……生きています」
私は、そう答える。
「それは重畳」
そう言って、手を差し伸べる。
「ありがとう」
差し伸べられた手に引かれるまま、身体を起こす。
「さて……これからどうする?」
「どうする、と言われても……もう、今まで通りには生きられないのでしょう?」
「あら、それはわかってるのね」
「今まで通りには生きられないと言っても、私はまだ子どもだから……生きていくための術を身につけていません。どうしましょうか」
「生きているための術、ねぇ……世の中には、あなたの年にはすでに自分ひとりで生きている人もたくさんいるし、立派な一人前の兵士として活躍している人もいるわね」
「その言い方だと、私が甘えてるだけみたいですね」
「あら、気を害したのならごめんなさい。でも、それが、世界の真実でしょ?」
「はい。確かにそうかもしれないですけど、残念ながら今まで私はスラムで生活したことも、アフリカでさらわれた経験もないですから」
「それは、本当に幸せな人生を過ごしてきたのね」
「はい。幸せでした」
「でも、その幸せの裏返しは、生きる術を持たない脆弱な存在」
「その通りです。今まで、ずっと親の──大人の庇護の元で生きていましたから」
「それでは、また別な人間に庇護されればいいんじゃない?」
「──誰かに買われて飼われるということですか?」
「その言い方はあまりよろしくないわね……『人間は自由であるべきだ』というのがモットーなのよ」
「何か、裏がありそうな言い方ですね」
「ええ。モットーの続きは『自由を求めるなら、責務を果たせ』だから」
「それで、あなたは私にどのような責務を求めるのですか?」
「あら、わたしがあなたを庇護すると思ってるの?」
「違うのですか?」
「残念ながら、わたしにはあなたを庇護することはできないわ」
「それでは、誰が今の私を庇護してくれるのですか?」
「──確かに、わたしはあなたを庇護できない。でも、あなたを庇護する人との間を仲介することはできるわ」
「──紹介料とか取るのですか?」
「あなた、わたしがそういった仕事でもしてるように見える?」
「いいえ」
失礼かもしれないが、金髪を風になびかせて無邪気に微笑む彼女は、少しもそんな怪しい仕事(と言っていいのだろうか?)をしてるようには見えない。
「学生か、働き始めたと言っても、まだまだ新人のアシスタントくらいにしか見えません」
「──けっこうはっきり言うのね」
「すいません」
「謝ることはないわ。正直なのは美徳よ」
「ありがとうございます」
「で、どうするの? あなたさえその気であれば、いくらでも紹介してあげるわ」
少しだけ考える。
答えはもう出てるけど。
考えているのは、ここで素直に返事をした方が良いのか? ってこと。
彼女の誘いに乗るのは、きっと悪くない。
だって、そうするしか、今の私に生きる術はないのだから。
でも、せっかく売るのであれば、できるだけ高く売りたい、っていうのが心情。
「それとも、自分ひとりで生きていくの?」
もし、ここで断ったら、彼女の立場っていうものも難しくなるんだろうなぁ。
「──わかりました。それでは、よろしくお願いします」
なので、素直に頭を下げよう。
「よし! それじゃあ、決まりね」
その彼女の笑顔に、私は、私の運命を賭けた。




