第27話
人体と魂の間にも、関節は存在する。俺は師匠の教え通り何年も鍛錬を続けた結果、目に見えないそれらを感じ取れるようになった。
とはいえ、見知らぬ人々とすれ違う程度で感じ取れるものじゃない。注意深く観察しなければならないし、人によっては両耳の先に感じたり、背の中央だったりと千差万別だ。
この技ができるようになってから、ある事件で久々に再会した師匠いわく『稀代の秀才が全く同じ研鑽を重ねても、万能の天才が再現しても同じ結果には絶対にならない。世界との著しい共感性と稀有な才能が、気持ち悪いくらいのバランスでなければ成立しない絶技だよ』と語っていた。気持ち悪いってなんだよ、仮にも長年の愛弟子様だぞ。
何でも、科学的に数式や理論化は証明できないが、推論に近いことはギリギリできるらしい。並べると、指先による極限まで効率化した高次元干渉とそれに伴う再収束調整。熱力学第二法則の完全なるスルー化、万物の祖たる水分と熱量の極限まで効率化した干渉調整、脳と思想における未来と結果の確定観測演算、ついでに亜空間タックルとか、etc、etc⋯⋯。
頭の痛くなりそうな科学要素てんこ盛りで『私の使ってる魔法の方が人類はずっと早く解明しちゃうと思うよ、マジで』という、ありがた〜い総評を師匠から頂いていた。
しかもそのあと目をキラキラさせながら厨二病極まりないネーミングに無理矢理されそうだったので、隙を見て手早く名付けた。
それが、みずわかち。誰に値なく水を分かつ、俺だけの刃。
⋯⋯つくづく医療免許なしに、人に使って良い技じゃねえよな、これ。
「なんだ!? なぜ動かなくなった!? ま、まさか、この子を殺したのか、人殺し!?」
「人聞きの悪い。肉体と魂の関節を丁寧に断っただけだ。お前みたいに異常な精神ならともかく、見慣れた普通の女の子なら、ギリギリ可能だ」
手のひらに浮かんでいる青白い人魂をインベントリに入れた。これでもう、別の問題があるかも知れないが、彼女が苦しむことはない。
「ふ、ふははは、なんだそれは、なんなのだそれは!? 酷いことをする! 肉体を無くして人がまともでいられるはずがない! せっかくここまで苦労して耐えていたのに、貴様は神にでもなったつもりかね!?」
「もし神様だったら時を戻して、どんな手段使ってもテメーを止めてる。そもそも神様気取りは、自分の御高説に酔ってるお前の方だろうが」
「ほう、なぜだ!?」
「人が神を信仰するのは、他の誰かや何かに、簡単に成り代わらないためだろう?」
お前が言うなと否定するよりも、こちらの言いざまの方が、よほどお気に召さなかったらしい。白衣の男は青筋立てて、握っていたコンソールを叩き割りやがった。
白衣の男の上半身が崩れた。津波のような怒涛の勢いで、動かない少女の身体ごと巨大な外套膜で覆っていく。まるで間違いを覆い隠す、愚かで優しいだけの嘘だ。滑稽で、不様で、もう取り返しのつかない常識を、今度こそ残さず捨てたウミウシそのものだ。
「コロす!」
「やってみろ神様気取り! その脳みそブチ撒けて、今までで1番賢くしてやるよ!」
『ストーリーミッション:2面ボス「白日の海」を攻略せよ!』




