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62.約束

死闘の熱気と絞り出された汗の匂いがむせ返るように充満する密閉された空間。


つい数十分前までスタジアムの眩いピッチで欧州最強の盾【カテナチオ】と真っ向からぶつかり合っていた若きサムライたちが、U―15日本代表のロッカールームへと凱旋帰還していた。


激しいフィジカルコンタクトや熱戦の名残が、芝の緑色と泥の黒色となり、誇り高きサムライブルーのユニフォームにべったりとこびりついている。


ある者は痙攣しかけている足に氷嚢を何重にも巻きつけ、ある者はタオルを頭からすっぽりと被って外界を遮断し、ある者はただ虚空を見つめて、肺の底から絞り出すように荒い息を吐き出していた。


満身創痍。肉体的な疲労は限界をとうに超えている。しかし、彼らの瞳の奥には確かな熱が、不可能と思われた壁を打ち砕き、偉業を成し遂げた者だけが持つ圧倒的な充足感、次への誇りがギラギラと燃え盛っていた。


「・・・まずはおめでとうという言葉を、とりあえず送っておく」


ざわめきと熱に浮かされたようなロッカールームの空気を、鋭利な氷の刃物のような声で一刀両断にした者がいた。


部屋の中央に立った久森涼介監督は乱れ一つない完璧なスーツに身を包み、腕を組んで選手たちを見下ろしていた。その顔には歴史的勝利を喜ぶような色は微塵も浮かんでいなかった。


「だが」


久森は選手たちに向けた視線をさらに冷たく、鋭く細め、その口調から労いの色を完全に消し去った。


「もう浮かれるな。今日の勝利は今この瞬間で完全に忘れろ。脳みそから綺麗さっぱり消し去れ」


その氷のように冷たく絶対的な重みを持つ言葉に、ロッカールーム内を満たしていた熱狂の余韻はいとも簡単に一瞬にして消し飛んだ。


キャプテンのヤンセンが居住まいを正し、エースストライカーの蹴太が視線を上げ、九条や国近、大童子といった面々も歓喜の表情をスッと引き締め、ピンと背筋を伸ばして久森の言葉に耳を傾ける。


「いいか? ここはまだ俺たちの目指す頂への折り返し地点ですらない。ただの【通過点】だ。たかだかイタリアからギリギリで一勝をもぎ取ったくらいで、自分たちがもう世界に通用する完成されたチームだと錯覚するな。我々が目指しているのは単なるグループステージの突破じゃない。グループステージの【1位通過】だ」


日本代表のメンバー全員が久森の言葉にハッとし、真剣な、射抜くような目で彼を見つめ返した。誰一人として反発する者はいない。彼ら自身、イタリア相手にどれほど自分たちが無力な時間を過ごしたか、紙一重のギリギリの綱渡りだったかを身を以て理解していた。


「来週の月曜日の19時。いよいよグループステージ最終節、U―15ドイツ代表戦が幕を開ける。イタリアが俺たちに負け、勝ち点3を失ったんだ。今日の第2節でコスタリカを4-0で粉砕し、すでに圧倒的な破壊力を見せつけているあのドイツは、グループ1位通過を確実なものにするため、そしてイタリアを破った我々を最大限に警戒し、全戦力を解放してくると予想される。間違いなく【全力】で俺たちを完膚なきまでに叩き潰しに来るということだ」


久森の【全力のドイツ】という言葉に、メンバーたちは座った状態のまま膝の上で強く手を握りしめたり、大きく、深い息を飲んだりしてそれぞれの反応を見せた。


初戦でイタリアに勝利し、コスタリカを4-0で粉砕した底知れぬ力を持つ優勝候補。フィジカル、戦術、メンタル、その全てにおいて欧州の頂点に立つ欧州の雄が、本気で日本の喉元を食い破りに来る。


そのプレッシャーは先ほどのイタリア戦の余韻を吹き飛ばすのに十分すぎるほど重かった。


「各自、今夜のうちにドイツ戦の参考映像は必ず見返しておけ。そして明日は【一日完全休養日】だ。家に帰るもよし、ホテルで休むもよし。俺からの干渉は一切しない。好きに過ごし、心身の疲労を完全に抜いてこい。以上だ」


久森はそう言い残すとそれ以上言葉を重ねることなく、アシスタントコーチやサポートスタッフを連れてロッカールームからすたすたと出ていった。


バタン、と重い金属製の扉が閉まる音が響く、その瞬間。


ロッカールーム内に数分間張り詰めていた、息が詰まるような極度の緊張感がプツリと音を立てて解かれた。


「ぷはーーーーっ!! なんなんやあの監督は!! イタリアに勝ったんやで!? 歴史的快挙なんやから、少しは褒めてくれてもええやんか! 笑顔の一つも見せんかいな! 喜ぶのはあかんのかぁ!!」


静寂を破り、開口一番に叫んだのは右サイドバックの青星だった。


青星はベンチから大きく足を伸ばして背伸びをすると、そのまま跳ねるように元気よく立ち上がり、抗議の声を上げた。


「でもまぁ、ええわ! これで俺の【代表引退の危機】も完全に回避や! 良かったわー! マジで寿命が10年は縮むかと思ったわ!」


青星が心底ホッとしたような、これまでの重圧から解放された安堵の表情で、大げさに胸を撫で下ろした。


だがその青星の言葉を聞いた日本代表の他のメンバーたちは、一斉に【は?】というような、呆れと驚きが入り混じった表情で彼を一斉に見つめた。そしてロッカールームの空気が別の意味で凍りつく。


「・・・なんや? みんなしてそんな鳩が豆鉄砲食らったような、信じられないもんを見るような顔して」


青星が不思議そうに首を傾げる。


「・・・お前、マジで信じていたのかよ」


ベンチの端で支給されたスポーツドリンクを飲んでいた蹴太が心底呆れ果てた、疲労感たっぷりの声で呟いた。


「何をや?」


「久森監督があの手この手でお前を代表から引退させるっていう、合宿の時のあの脅し文句をだよ」


「へっ?」


青星が間の抜けた、間抜けすぎる声を出す。蹴太は大きなため息を一つ、深く吐き出した。


「いいか? 少しは自分の頭でよく考えろ。いくら久森監督がU―15の全権を握る指揮官だからって、日本代表の全カテゴリー、ひいてはJSA全体の人事権を一人で握っているわけじゃないだろ。上の世代に行けば別の監督がいるんだ。つまり、いくら久森監督が個人的にお前を嫌って弾こうとしたところで、お前が他の指導者も認める確かな実力と結果を残し続ければ、将来の代表に選ばれないわけがないんだよ。あの地獄の合宿での言葉はただお前のメンタルの限界を引き出し、極限まで追い込んで成長させるための、ただの発破に決まってるだろ」


「・・・なんやてぇぇぇぇぇぇ!!!!」


青星は驚愕のあまり両手で自分の頭を抱え、漫画のように口をあんぐりと限界まで開けて絶叫した。その声はロッカールームの壁に反響して二重、三重に響き渡った。


するとキャプテンのヤンセンもやれやれと苦笑いしながら蹴太の言葉に同意を示した。


「あぁ。蹴太の言ったとおりだ。てっきり、俺はお前も頭のどこかではそんなこと百も承知で、チームの雰囲気を盛り上げるためにあえて乗っかってるピエロ役なんだと思ってたが・・・お前、本気で怯えてたのか。ピュアすぎだろ」


「じゃ、じゃあ俺のあの、吐くほど走った血のにじむような努力と、久森監督への土下座は全く意味なかったんか!? 俺の失われたプライドを返せやぁぁぁ!」


青星が崩れ落ちそうになりながらヤンセンと蹴太に詰め寄る。


「いや、意味はあったんじゃないか?」


ヤンセンが真顔で答える。


「ほら、お前があの監督の言葉にマジでビビって、自分の限界を超えようとせずに尻尾巻いて逃げ出してたら・・・たぶんこの大会では良くて控え、悪ければ出さなかったんじゃないか? だが結果としてお前は右サイドバックのスタメンを勝ち取り、イタリア相手にも堂々と渡り合った。あの土下座がお前を成長させたんだよ」


「・・・」


青星はその衝撃的すぎる事実とヤンセンの残酷なまでの正論に何も言い返すことができず、完全に石化して固まった。彼の頭の中ではこれまでの自分の悲壮な決意が、滑稽なコメディに変換されていく音が鳴り響いていた。


するとヤンセンがパンパンと大きな手を叩いて、再び選手たちの注目を集めた。


「はいはい! 青星の勘違いアホエピソードの件は置いといて・・・とりあえずみんな、監督はあぁ言って釘を刺したけどまずは喜ぼうぜ。俺たちは歴史を変えたんだ。あのイタリアに公式戦で逆転勝ちして、死の組と呼ばれたグループステージの突破を確実にしたんだ。今日くらいは、今このロッカールームの中だけは喜びを爆発させてもいいだろ!」


「「「「「おおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


ヤンセンのその力強い言葉を合図に、今まで久森の威圧感によって抑え込んでいた、あるいは一時的に封印させられていた喜びの感情を日本代表の若きエリートたちは一気に解放した。


持っていたタオルを振り回す者、ペットボトルの水を被る者、隣の選手と抱き合ってジャンプする者、大声で笑い合う者。九条と国近がハイタッチを交わし、大童子と三國が肩を組んでお互いを労う。


ロッカールームは再び、世界最高峰の盾を打ち破った、中学生らしい純粋な歓喜の渦に包まれた。


(・・・うるさ)


蹴太はベンチの端に深く座ってスポーツドリンクを飲みながら、騒ぎ狂うチームメイトたちを鬱陶しそうに、観察するかのように眺めていた。


だがそのスポーツドリンクのボトルに隠された口元には誰にも見せない、隠しきれない柔らかな笑みが確かに浮かんでいた。


前世では決して味わうことのできなかった、同世代の仲間たちと世界の壁をぶち破り、勝利の喜びを分かち合うという、青臭くも熱い時間。蹴太はそれをゆっくり自分の中に落とし込んだ。


■■


「ただいまぁ・・・」


パーーーン!! パーーーン!!


翌日の土曜日。


久森監督の言葉通り、この日は完全休養日だった。代表チームの選手たちはそれぞれの時間を過ごすことを許された。


蹴太はチームメイトたちと都内で遊ぶことも、ホテルに残って休息を取ることもできたが、一旦実家へと帰宅する選択をした。慣れないホテル暮らしと過酷な連戦で蹴太の肉体は休息を渇望していた。


重いボストンバッグを肩にかけ、見慣れた自宅の玄関の扉を開けた瞬間にけたたましいクラッカーの破裂音が左右から鳴り響き、色とりどりの紙テープと紙吹雪が蹴太の頭に容赦なく降り注いだ。


「「蹴太!! グループステージ突破、そして劇的な逆転ゴール、本当におめでとう!!!!」」


出迎えたのは満面の笑みを浮かべ、手作りの「祝・イタリア撃破!」と書かれた横断幕を持った父親の博とエプロン姿のままの母親の夏美だった。二人の手には使い終わったばかりのクラッカーが握られている。


「・・・」


蹴太は頭と肩に降りかかった紙テープを鬱陶しそうに払い退けながら、心底呆れたような、疲労困憊の視線を両親に向けた。


日本がグループステージの突破を確定させたというニュースは昨夜の試合終了直後からすぐに全国のメディアへと駆け巡っていた。


朝のニュース番組も、スポーツ紙の一面も、ネットのトレンドも、全てがU―15日本代表のイタリア撃破の話題で持ちきりであり、メディアはこぞってこの快挙を取り上げている。


そしてその劇的な同点ボレー弾と神の御業とも言える軌道を描いた歴史的な逆転フリーキック弾を放った神野蹴太の名前は、日本中のサッカーファンの間はおろか、普段サッカーを見ない層にまでより一層強烈に響き渡っていた。


「わりぃ、マジで疲れてるから、俺はとりあえず寝るわ。じゃ」


蹴太は両親の過剰な歓迎ムードを完全にスルーし、靴を脱いで重い足取りでさっさと自分の部屋がある二階へと向かおうとした。


「おいおい! 日本のヒーローになった愛する息子の凱旋帰還にそれだけかよ! もう少しこう、親と喜びを分かち合うとか、試合の裏話を聞かせてくれるとかだな・・・」


父親の博が肩を落として少し寂しそうに声をかける。


「それだけって・・・まだ俺たちの戦いは終わってねぇよ。喜ぶのは全部終わってからだ」


蹴太は階段に足をかけたまま、振り返らずに静かに、しかし力強い声で答えた。


「ドイツを倒して1位通過して、その先のトーナメントで優勝して世界一になる・・・その時までお祭り騒ぎはお預けだ」


「・・・そうか。いや、そうだったな。お前はもっとずっと先を見ているんだな」


博は息子のその年齢に似合わないほど頼もしく、揺るぎない覚悟を持った言葉にハッとしたように目を丸くし、そして嬉しそうに深く頷いた。


「だが、これだけは絶対に覚えておいてくれ。日本中がなんと言おうと、マスコミがどれだけ騒ごうと、俺達はいつだって、お前を世界で一番応援している、一番のファンだからな!」


その言葉に蹴太は階段を上る足を一瞬だけ止め。


「・・・ありがとうな」


両親にだけ聞こえるような小さな声で、しかしはっきりと感謝を呟き、そのまま自分の部屋へと上がっていった。


階段を上がっていく息子の少しだけ広くなったたくましい背中を見つめながら、父親の博と母親の夏美はこれ以上ないほどに誇らしい、温かな笑みを浮かべていた。


そして時刻は昼過ぎ。


自室のベッドで泥のように深い睡眠を取り、イタリア戦の激しい疲労を癒した蹴太があくびをしながらパジャマ姿でリビングへと向かう。


しかしそこには当然のように我が物顔でソファを占領し、ポテトチップスをつまみながら、テレビのお笑い番組を見てゲラゲラと笑っている坊主頭の白河健一の姿があった。


「・・・何当たり前のように人の家でくつろいでんだよ!!」


バチィンッ!!


「イテッ!!」


蹴太はテレビを見て無防備に笑っている健一の坊主頭を背後から容赦なく、乾いた音が鳴るほどの平手でひっぱたいた。


叩かれた健一は怒るどころか、痛みに頭をさすりながらも満面の笑顔で蹴太の方を振り返った。


「おぉ! 蹴太! やっと起きたか! おせーよ! どうだ? 少しは疲れ取れたか?」


「まぁな・・・てかなんでお前が当たり前のように俺の家にいるんだよ」


「なんだよぉ! 親友である俺が日本のヒーローになったお前を直々に祝ってやろうと思って、わざわざ休みの日に来てやったんだよ! それにお前の母ちゃんに上がり込んでいいって言われたんだよ!」


「そうか。それはありがとな。じゃあ、顔も見たし用が済んだならお疲れ。さっさと帰れ」


「なんだよそれ! 冷たすぎだろ! イタリア戦の武勇伝とか聞かせろよ!」


蹴太は健一の抗議を完全にスルーしてキッチンへ向かい、冷蔵庫からよく冷えたスポーツドリンクを取り出して一気に飲んだ。そしてペットボトルを持ったまま再びリビングへと戻り、健一の対面にある一人掛けのソファにドカッと腰を下ろした。


「・・・それにしても本当にすげぇな、お前」


健一がポテトチップスを食べる手を止め、テレビの音量を下げて真剣な顔で呟いた。


「何がだ?」


「お前がだよ。あの世界最強の盾、イタリアから2点も決めて日本を勝たせた。親友としてこの上なく嬉しいし、鼻が高いよ。誇らしいよ」


健一はそう言いながらどこか寂しそうな、少しだけ陰りのある目をして蹴太を見つめた。いつものバカ騒ぎする健一らしくない、深刻な表情だった。


「で? 本当は何がいいたいんだ?」


蹴太は健一のその視線の裏にある感情を見透かしたように、冷たく、核心を突くように問い返した。


「・・・お前の進路だ。お前、本当に俺たちと同じ、私立の【赤鳳学園】に進学する気でいいのかよ?」


健一が絞り出すように本音を口にする。


「お前ならもっと上・・・日本の名門Jリーグクラブのユースチームとか、それこそ高校から海外の強豪クラブの下部組織に行くとか、そういう選択肢だって今なら山ほどあるはずじゃないか? 現にネットじゃ海外のスカウトがお前をリストアップしてるって噂で持ちきりだぞ。俺たちの、普通の高校の部活レベルに合わせる必要はないんだぞ」


健一の言葉には親友の圧倒的な才能への称賛と、その世界に羽ばたくべき才能を自分たちの小さな枠に閉じ込めてしまっていいのかという、強い罪悪感と自己嫌悪が混じっていた。自分が神野蹴太という天才の足枷になっているのではないかという不安だった。


「・・・」


蹴太は健一の言葉を聞きながら無言でスポーツドリンクを飲む。そしてペットボトル内の液体を完全に飲み干すと、それをテーブルの上にドンと音を立てて置き、健一の方を真っ直ぐに見た。その漆黒の瞳には一切の迷いも揺らぎもなかった。


「・・・お前が俺を誘ったんだろ?」


「え?」


健一が予想外の言葉にキョトンとする。


「ちょうど去年の今頃だったか? 新人戦に向けて、人数合わせのとりあえずの控えメンバーとして、サッカーにこれっぽっちも興味がなかった俺をサッカー部に誘ったのはお前だろうが」


「あ・・・あれ? そ、そうだっけ? そういえばそうかも・・・あの時はほら、一年生の件とかあってさ・・・」


「とぼけんな。俺をサッカーっていう熱くて面倒くさい世界へ最初に引きずり込もうとしたのはお前だ。んで、結果として俺はサッカーを始めた。俺が今、こうしてサッカーをやってる原因のすべては間違いなくお前にあるんだろうが。だったらお前が最後まで責任を取れ」


「っ!」


健一は蹴太のその不器用すぎる言葉に息を呑んだ。


「それに俺達にはまだ一緒にやることが残ってるだろ?」


蹴太がニヤリと不敵に笑う。


「やること?」


「あの日、俺たちの最後の大会で葛田の野郎に理不尽に潰された全国大会出場への夢。あれをお前と高校で、いや、月影や吉峰とも一緒に約束しただろうが。忘れたとは言わせねぇぞ」


蹴太のその真っ直ぐで熱い言葉を聞き。


健一の目からすっと寂しさや罪悪感が消え去り、代わりに熱いものが込み上げてきた。すると健一は手で乱暴に目元を擦ると、いつものニカッとした笑顔を浮かべた。


「そうだな! 俺が悪かった! 変なこと言って、うじうじ悩んでて悪かったよ! 高校でも、赤鳳学園でも絶対に一緒に全国を目指して頑張ろうぜ! 俺がお前の相棒として、最高のパスを出してやるよ!」


「・・・パスの精度は月影の足元にも及ばねぇけどな」


「うるせぇ! これから磨くんだよ!」


笑い合う二人。だが蹴太はふと真顔に戻り、健一をジッと見つめた。


「ん? どうした、蹴太?」


「お前・・・そうやって調子に乗ってるけど、ちゃんと勉強してんだろうな?」


「っ!?」


健一の顔から一瞬にして笑顔が消え去り、ピキリと完全に硬直した。


「俺らはスポーツ推薦じゃなく、一般入試だ。私立とはいえ、学力が足らないといくらサッカーができても普通に落ちるぞ。分かってるんだろうな? 勉強サボってねぇだろうな?」


蹴太の絶対零度の冷たい視線に射抜かれ、健一は顔全体に滝のような冷や汗を広がらせていた。


「きょ、今日は・・・お前の代表のオフ日なんだよな? せっかく家に来たんだ。ゲームでもして遊ぼうぜ・・・なっ!?」


健一が震える声で命乞いをするように蹴太へと伝える。


「そうだな。今日は代表のオフ日だ。だからサッカーのことは考えない。せっかくお前が俺の家に来たんだ。最高の暇つぶしを用意してやる。英単語の小テストをやるぞ。千個、完璧に覚えるまで絶対に帰れないと思え」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 助けてくれぇぇぇぇっ!! 鬼! 悪魔! 久森監督!!」


その後。イタリアを恐怖のどん底に叩き落とした日本の救世主となった男の部屋から、夜の19時過ぎまで地獄の英単語特訓に悲鳴を上げる親友の断末魔が響き渡り続けたのだった。

しばらく更新が無いかもしれません。よろしくお願いします。

まぁ趣味なんで、大目に見て下さい。

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