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第21話:常時無敵の仕様ハック

「がはっ……!?」


一条さんの神速の一撃を首元に受け、第三師団長が崩れ落ちるように気絶した。

カリスマ(発信源)が目の前で一瞬にして無様に倒されたことで、残されたモブたちは完全に集団パニックに陥り、戦意を喪失して蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。

戦況は一気にこちらへ傾く――はずだった。


「ふむ。現場のミクロな戦闘としては上出来だ。だが、盤面の優位はまだ動いていないぞ、サブリーダー」


高級リムジンの前でポケットに手を突っ込んだまま、一条会長――いや、リーダーが冷徹な声でインカムに割り込んできた。その視線の先、黒死蝶の総長の傍らに立つ一人の男が、ゆっくりと前に歩み出てくる。


黒死蝶『第二師団長』。

そいつが放つ威圧感は、先ほどの第三師団長とは比べ物にならないほど異質だった。


「……僕の出番ですか。面倒ですね」


気怠そうに呟く第二師団長。その瞬間、彼の身体の周囲の空間が、まるで陽炎のようにぐにゃりと歪んだように見えた。

俺の脳内の『予測演算タクティカル・フォーサイト』が、見たこともない真っ黒なエラー表示で埋め尽くされる。


(嘘だろ……。物理的な衝突判定(当たり判定)そのものが、あいつの周囲だけ消失してる……!?)


第二師団長のチート仕様。それは『常時無敵(完全すり抜け)』&『自動カウンター』。

あらゆる攻撃が文字通り「すり抜け」てしまい、こちらが攻撃を仕掛けた瞬間に、その威力を100%反射して自爆させるという、まともな戦術が一切通用しない最悪のバグキャラだ。


「闇風、手を出すな! 特攻すればこっちが死ぬ!」

俺の制止の声をすり抜け、焦った味方のモブ数人が鉄パイプを手に第二師団長へ殴りかかった。


だが、鉄パイプは男の身体を虚空のようにスカリと通り抜ける。

直後、ドンッ! と凄まじい衝撃波が巻き起こり、殴りかかったメンバーたちが自らの攻撃の威力をそのまま浴びて消し飛んだ。男はただ、ポケットに手を突っ込んで歩いているだけなのに、だ。


「無駄ですよ。僕に触れることはできないし、僕を害そうとすれば、その悪意はすべてあなたたち自身に跳ね返る」


常時無敵。触れることすらできない絶望。

一条さんと闇風が武器を構えたまま、冷や汗を流して硬直する。攻撃した時点で負けが決まる相手に、一体どうやってハめ技を構築すればいい?


その時、インカムから一条会長の、寸分の動揺もない冷徹な声が響いた。


「青真。思考を止めるな。物事には必ず『作用』と『反作用』がある。あそこまで不自然な無敵を現実に維持している以上、そこには必ず、システムの裏口バックドアがあるはずだ」


リーダーの言葉に、俺の脳が急速に冷えていく。

そうだ。これは現実だ。どれだけ無敵のチート設定を気取ってようが、お前が『地球の上で立っている』という現実のルールに依存している限り、物理法則からは逃れられない。


あいつは、地面を『踏んで』歩いている。

ということは――。


(……見えた。あいつの『無敵の仕様ルール』の穴が……!)


俺は不敵に笑い、インカムの音量を上げた。

「リーダー。あいつの足元――地面の『摩擦係数』をゼロにしてください」


「了解した。アイギス、散水車を回せ。キュア、例の特殊な薬品をそこに混ぜろ」

一条会長の、淀みのない迅速なマクロ指揮が飛ぶ。


直後、アイギスの手配した大型散水車が、第二師団長の足元へ向けて猛烈な勢いで液体をぶちまけた。

それは、キュアの衛生班が調合した、あらゆる摩擦を極限まで消失させる超高濃度シリコンオイルだった。

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