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第19話:盤面反転

激しい白煙とタイヤの摩擦音を響かせ、交差点のど真ん中に停止した最高級リムジン。その圧倒的な存在感に、突撃を続けていた第三師団のモブ共が一瞬だけ足を止めた。

後部座席のドアが静かに開く。姿を現したのは、この極限の戦場に似つかわしくない、完璧に仕立てられたスーツに身を包んだ男――『百華繚乱』の総帥、一条蓮会長だった。

「ずいぶんと派手にやってくれているね、黒死蝶の諸君。カレン、闇風、そして青真。よく持ち堪えてくれた」

蓮会長は手にした仕込み傘の石突で、コンクリートの地面をトントンと軽く叩いた。その凛とした声は、喧騒に満ちた戦場のすべてを通るように響き渡る。すぐさまリムジンの背後から、大企業の財力で用意されたアイギス率いる防衛部隊の特殊車両が次々と滑り込み、崩壊しかけていた防衛線を強引に補強していった。

「会長……! すみません、敵の変則的な動きに対応しきれず……っ」

一条さんが木刀を握り直し、悔しげに息を吐く。闇風も鋭い視線のまま、蓮会長の側へと飛び退いた。

「気にする必要はないよ、カレン。相手は黒死蝶の上位師団だ。一筋縄ではいかないのは織り込み済みさ。……さあ、青真。指揮権を一時的に君の『予測演算』とリンクさせよう。アイギスたちの特殊車両の装備は、すべて君の指示通りに動かしていい。この理不尽な力の正体を見破り、いつものようにハめ殺してごらん」

蓮会長の冷徹かつ絶対的な信頼の言葉に、俺――青真は深く息を吸い、脳内のギアを一気にトップへと引き上げた。

勝てる。蓮会長が現実のチェス盤を整えてくれた今、俺がやるべきことはただ一つ。敵の『チート能力』の裏にある、現実的なロジックの解析だ。

(おかしい。3倍の筋力、痛覚の遮断、解剖学を無視した運動。どれだけ肉体を鍛えたところで、生身の人間がそんな状態を維持し続けられるはずがない。システム的に必ず『燃費コスト』か『仕掛け』があるはずだ)

俺はモニターに映る敵の動きを凝視した。

突撃してくるモブたちは、一様に向こう見ずな狂った笑みを浮かべ、目が完全に血走っている。そしてその視線の先――ビルの屋上で前線を見下ろす第三師団長は、大型の拡声器を手に、独特のリズムで大音量のコールを響かせ続けていた。

あのコールが響くたびに、モブたちの動きが一段と狂暴化していく。

(……見えた。あれは超能力なんかじゃない。『集団心理ハック』だ)

新興宗教の洗脳や、過去の戦争における軍隊の突撃命令と同じ、音響と心理誘導を組み合わせた「集団催眠」。あの特殊なコールがモブたちの脳を極限まで麻痺させ、アドレナリンを過剰分泌させているのだ。

理性のリミッターが外れた人間は、肉体が壊れるほどの火事場の馬鹿力を出す。さらに脳が麻痺すれば痛覚も消える。これこそが、現実における『3倍バフ』と『ハイパーアーマー』の正体だ。

「正体が分かれば、ハめ方はシンプルだ。大元の発信源を黙らせ、洗脳の音を遮断する」

俺は即座にインカムの通信を開き、蓮会長が手配してくれた特殊部隊へと矢継ぎ早に指示を飛ばした。

「アイギス、手配された車両から大型の音響妨害ジャミング装置を展開しろ! 奴の声をかき消すんだ! キュア、衛生班の強力な催涙ガスを第三師団長の足元へ撃ち込め!」

了解オッケー! いつでもいけるわよ!』

『任せて、マスター!』

インカムから頼もしい声が返ってくる。

蓮会長が持ってきてくれた強力な「盤面コマ」が、俺の戦術指示に従って一斉に動き出す。

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