第129話:静寂の魔王城
魔王城へ続く大階段を、百華繚乱は静かに駆け上がっていた。
背後では、十二英傑の7人と魔王軍四幹部の激戦が続いている。
剣聖達へ戦いを託した今、青真達に残された使命はただ一つ。
魔王を討つこと。
そのために、一歩ずつ魔王城の最深部を目指して進む。
巨大な城門がゆっくりと開く。
重厚な石造りの回廊。
黒い魔石が壁一面へ埋め込まれ、紫色の淡い光だけが通路を照らしていた。
城内は、不気味なほど静まり返っている。
「……静かですね。」
カレンが周囲を見渡す。
戦場の中心とは思えない静寂だった。
アルナも弓を構えたまま眉をひそめる。
「逆に気味が悪いわ。」
「待ち伏せされててもおかしくない。」
闇風は目を閉じ、気配察知を最大まで広げる。
数秒後、静かに目を開いた。
「……妙だ。」
「敵がいないのか?」
青真が尋ねる。
闇風は小さく首を振った。
「いや。」
「気配が消されている。」
「何者かが意図的に隠している。」
その一言で全員の警戒心がさらに高まる。
青真も未来予知を発動する。
数秒先。
回廊。
分岐。
進む自分達。
未来そのものは見えている。
「未来予知は問題ないな。」
「でも、誰も映らない。」
未来にも敵の姿が現れない。
それが逆に異常だった。
「警戒して進もう。」
青真の言葉に全員が頷く。
しばらく進んだところで、メグが足を止めた。
「ちょっと待って。」
床へしゃがみ込み、石畳へそっと手を触れる。
魔力を流した瞬間。
見えなかった術式が黄金色へ浮かび上がった。
「やっぱり。」
「城全体に結界が張られてる。」
「侵入者感知。」
「探知妨害。」
「迎撃術式まで組み込まれてる。」
アルナが思わず顔をしかめた。
「嫌な予感しかしない。」
メグは錬成陣を展開し、術式を書き換えていく。
黄金色の魔力が静かに流れ込み、複雑だった術式が一つずつ解除されていった。
やがて光が消える。
「この区画は大丈夫。」
「先へ進めるよ。」
「助かった。」
青真は小さく笑う。
「流石だな。」
「えへへ。」
少し照れながらメグは立ち上がった。
五人は再び歩き出す。
回廊はどこまでも続いていた。
左右へ伸びる無数の通路。
高い天井。
重苦しい空気。
まるで魔王城そのものが侵入者を拒んでいるかのようだった。
そして――。
長い回廊を抜けた先。
巨大な円形広間へ辿り着く。
広間の中央。
そこには五人の人影が静かに立っていた。
全員が黒い外套を纏い、統一された黒銀の鎧を身に着けている。
腰にはそれぞれ異なる武器。
剣。
大盾。
双短剣。
魔弓。
魔導書。
誰一人として動かない。
ただ百華繚乱を静かに見つめていた。
その圧倒的な存在感に、五人は自然と武器を構える。
黒衣の中央に立つ男が、一歩前へ出た。
「ようこそ。」
低く落ち着いた声が広間へ響く。
「魔王様の玉座へ辿り着いた者達よ。」
男は静かに剣を抜く。
「我らは魔王親衛隊。」
「この先へ進みたくば――」
「我らを越えてみせよ。」
静寂が張り詰める。
百華繚乱と魔王親衛隊。
互いに視線を交わしたまま、一歩も動かない。
次の瞬間。
両者は同時に地面を蹴った。
双方が同時に地面を蹴る。
一瞬で距離が消える。
青真は銀河を抜き放ち、真正面から隊長へ斬り掛かった。
カレンも盾を構え、副隊長へ突撃する。
闇風は姿を消すように双短剣の男の側面へ回り込み、アルナは後方へ跳びながら魔弓使いへ矢を放った。
メグも魔導之杖を掲げ、魔導書を持つ親衛隊員へ錬成陣を展開する。
激突――。
そう誰もが思った、その瞬間だった。
バキィン!!
広間全体へ巨大な魔法陣が浮かび上がる。
床一面を埋め尽くす漆黒の紋様。
壁。
天井。
柱。
城そのものが共鳴するように赤黒く輝き始めた。
「これは……!」
メグが目を見開く。
「転移術式!」
気付いた時には遅かった。
魔法陣が一斉に発動する。
眩い光が五人を包み込んだ。
「青真!」
カレンが叫ぶ。
「カレン!」
青真が手を伸ばす。
しかし互いの指先が触れる寸前、光の壁が二人を引き裂いた。
アルナも闇風へ手を伸ばす。
「闇風!」
「落ち着け!」
闇風の声だけが響く。
次の瞬間、その姿も光の中へ消えた。
メグは必死に術式を書き換えようとする。
だが。
「ダメ!」
「城全体と繋がってる!」
「止められない!」
転移は強制だった。
五人の身体がそれぞれ別方向へ引き裂かれていく。
視界が白く染まる。
足元の感覚が消える。
魔力だけが激しく揺さぶられた。
そして――。
静寂。
青真はゆっくりと目を開く。
そこは先程までいた広間ではなかった。
石造りの巨大な闘技場。
壁も天井も存在せず、黒い霧だけが周囲を覆っている。
「ここは……。」
周囲を見渡す。
誰もいない。
カレンも。
闇風も。
メグも。
アルナも。
「みんな!」
返事はない。
完全に分断された。
青真は銀河を握り直す。
その時。
カツン……
静かな足音が響く。
正面。
黒い霧の奥から、一人の男がゆっくりと姿を現した。
黒銀の鎧。
漆黒の長剣。
そして冷たい黄金色の瞳。
先程、親衛隊の中央に立っていた男だった。
男は静かに剣を肩へ担ぐ。
「ようやく二人きりだ。」
その声には余裕しかない。
青真は静かに銀河を構える。
「仲間はどこだ。」
男は僅かに笑った。
「安心しろ。」
「それぞれ我が部下が相手をしている。」
「この結界内では、誰も互いに干渉できない。」
つまり。
完全な一騎打ち。
青真は小さく息を吐いた。
「そういうことか。」
(なんか前もこんなことあったな。最近は転移タイマンが流行りなのか?)
男は剣先をゆっくりと青真へ向ける。
「改めて名乗ろう。」
「魔王親衛隊隊長。」
「アスモード。」
「魔王様へ至る最後の門番だ。」
青真も銀河を正眼へ構えた。
「百華繚乱。」
「藤崎青真。」
互いに一歩踏み出す。
闘技場を包む空気が張り詰める。
魔王城最深部。
魔王親衛隊との決戦が、今まさに始まろうとしていた。
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