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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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シュヴァリエ

 自分の救える範囲でしか手を広げない。綜馬が唯一持っている信念だった。誰もが飢えているこの世界で全員が満たされるなんてことは幻想だった。だからこそ綜馬は悩む。ヨハネに頼まれた内容。

 救いは尽きない。生命の危機を防げば、生活の安寧。生活に平穏が訪れれば、幸福の追求。果てしない幸せのため新たな飢えを生み出す。それがわかっていた。ヨハネはモンスターの討伐と言わず、我らを導き世界を救って欲しいと言った。


「ミケアは反対。逃げようソーマ。」


「けど、沢山、」


「ソーマ。どれだけ大きな掌でも水は零れるんだよ。」


「後悔したくないんだ。今僕たちは何かからずっと逃げてる。それが何かわからないまま、向き合うことを諦めて世界はこんなもんだってわかった気になっている。進んでるんじゃなくて逃げ回ってるだけなんじゃないかって時々思うんだ。」


 綜馬は自分の中で冷たくなっている感情がある事に気が付いた。そして、それはこの世界で最初に憎んだ者達と同じ姿になっているのではないかと思ってしまった。

 堂島や長月に手を差し伸べられた恩。ミケアに背中を預けて、背中を預けられた温かさ。それは初めから持っていた物ではない。力がある者が誰かを救う。今までは理解を拒絶し、弱者の愚かさを睨んでいたがそうではない。誰かを助けるから強者なのだ。自分は強者ではないし、限りがあることは知っている。

 けれど誰かに助けを求められて耳を塞ぐ姿なんて、綜馬がこれまで接してきた人達の前で見せられない。自己満で、偽善で、打算的で良い。強者であることはとっくに諦めているが、格好よくは在りたい。

 綜馬が抱えていた鬱々とした悩みは一つの答えを出していた。


「ミケアはソーマが大事。家族と同じくらい。だからソーマが決めたのならミケアも手伝う。だから覚えておいて、逃げるのはソーマが弱いんじゃなくてミケアを守るために使ったって。」


「ありがとう、ミケア。」


 ミケアは生まれた環境もあり、自分の他人の境界線が曖昧に定義されていた。集団で森に過ごす彼らからすれば我らという単位が基礎だった。同胞の損失は自分にも関与し、自分の利益は同胞の幸せにも繋がる。だからこそ、現在我らを構成する綜馬には悲しい思いをしてほしくないし、それならば自分が出来る最大限をするという考えに至るのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 システムは循環する。それはシェルターがモンスターを生み出す要因であったように、求められる場所に供給し続ける。その恩恵として人々はシステムに依存し、世界の構造が変容していく。

 シェルターが無くなった今、モンスターの脅威は以前よりもずっと落ち着いた。それは町のような集合意識が無くなったことで、モンスターを集中して生み出すほどの需要が無くなったからだった。

反対に、クエストをこなしたり物資を集められるダンジョンの需要が高まり、世界はまた一つ形を変えようとしていた。


 とはいえ、システムは都合良く使われる道具ではない。世界を管理するために人々を利用する悪意でもあった。人々の恐怖、願い、求心を常に求めていた。そのために巨悪を生み出す。これによって生まれたのが各地で恐れられる怪物たちだった。

 縄張り意識の強いエリアモンスターとは違い、積極的に人を襲う。地上に少なくなったモンスターの殺意が煮詰まって作られた塊のようだった。


「それで、このエリアに避難民が多いんですね。」


「そうなんです。シェルターの抗争が激化して、マークが受け入れたんです。ただ、その結果がこのありさまで。」


 ヨハネの玖珂に連れられて綜馬とミケアは東京の中でも怪物の出没頻度が高く、荒廃した場所に連れてこられていた。


「そのシュヴァリエってのが敵というか、元凶というか、」


 フランス語で騎士の名を冠する怪物。ネームドモンスターの強さは、一線を画していた。案内として二人の前を歩く玖珂は片腕を欠損している。


「あれは化け物です。団野さんからはお二人の力があればと言われていますが、私はあの化け物に誰も勝てないとそう思ってます。どんな力を持っていても。」


 玖珂はそう言い聞かせるように呟く。二人はこれからシュヴァリエを討伐し、一帯の避難民となっている人々をヨハネが用意したセーフエリアへ送るという依頼を受けた。

 ヨハネがここ数ヶ月かけてもなし得れなかった悲願。それをたった二人の戦力が増えたから解決に向かうなんて、と玖珂は自嘲的に笑う。


 ただ、もしも。そんな英雄がいたら、


「モンスター少ないのはどうして?」

 

 ミケアはこの世界が二度目の変革をもたらした後、ずっと違和感を覚えていた。故郷も、ダンジョンも、これまでもミケアはモンスターという危険が常に隣り合わせになっていた。

 それがいつの間にか自ら寄っていかないと危険は訪れづらくなっていた。


 これはミケアにとって好ましい状況ではなかった。危険は精神をジリジリと蝕むが、己の意思をはっきりとさせる。警戒心を磨き、爪をたてる理由を作る。

 ミケアはこの感覚を失いたくなかった。


「まだはっきりしてませんが、ダンジョンが活発になったのと、シュヴァリエのような怪物が生まれたからじゃ無いかと掲示板には。」


「それおかしくない?それならダンジョンの獣が強くなってないと理由にならない。」


「もしかすると、ダンジョンが増えているのかもしれません。調べたわけじゃありませんが。」


 今まで全てに興味がなさそうだったミケアが突然質問してきた事に、玖珂は慌てた様子を見せる。ヨハネの面々にとってミケアとはイレギュラーな存在。その正体がわからないが、実力は確かで綜馬と共にいる。どう接して良いのか距離感を測りかねてるようだった。


「その、まだ拠点に着いていないのに話す事じゃないかもしれないんですけど、作戦は基本的に僕とミケア二人で動こうと思ってます。」


「そんな、無茶な、」


 綜馬の言葉に玖珂は再び困惑した表情を見せる。


「シュヴァ、、」

 

 ドンッッ!!

 玖珂が綜馬を説得しようと口を開いたタイミングで、轟音が響く。


「これって、」と綜馬が玖珂へ視線を送ると、返ってきたのは頷きと小さな震えだった。

 

読んでいただきありがとうございます。


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