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探究

 『陰魔法』の本質はいまだ多くの謎に包まれている。『メイン』の魔法に位置するものだが、『火魔法』、『水魔法』のような五行から説明できる基礎的な属性でもなく、『風魔法』、『音魔法』のような確かに感じる事の出来る現象でもない。

『メイン』と『サブ』の境界も曖昧ではあるが、基礎的な現象を発生させることのできる魔法を『メイン』と呼称するのが最も適当だろう。


 この時『陰魔法』はどのように形容できるのか。影でも、闇でもない。分身体を作り出し、生命の気配に鋭くなり、自らの気配もある程度操れる。それ以外の可能性も多分に含んでいる可能性はあるが、いまいち想像することが出来ない。


 魔法の操作には術者の魔力量をはじめ、精密な技量、魔法へのイメージが必要となってくる。「火」だったり、「水」は日常的に触れていて、どんな性質を持つのか無意識のうちに理解している。何を燃やせば火力があがり、どう押し込めば水圧があがるのか。映像として思い浮かべられるそれらの光景は魔法という力を得た現在においては、手のひらの上に常に乗っていると言っても過言ではない。


 ミケアと共に行動し始めてから五日が経った。現在は十八階層を中心に十九階層、十七階層の様子見をしながら動いている。分身体と空間魔法のごり押しであれば、十九階層から二十階層まではどうにかなりそうな環境であることがここ最近分かったが、その作戦をするつもりはない。


 ミケアに戦闘のいろはを教えてもらう過程で、自分の持つ二つの魔法と『祭壇』のスキル。自分はどんな力を持ち、どんな活用法があるのか一から考えるきっかけになった。これまで何となくでしか考えていなかったんだなと、ミケアの考える戦いへの思考を知ったことで原点に立ち返った。


「そのまほーってやつはさ、まりょくってのを触媒にしてるわけでしょ?」


「多分そう。体の中に流れてる感覚があるんだ。温かいけど冷たい不思議な感じ。」


 世界が魔法に目覚めたあの日、その原理を言葉にできる人は一人もいなかったはずなのに、誰でも扱うことが出来た。その違和感に気付いた者は研究を進めているがごく少数であり、難解でなかなか進まない研究だ。綜馬も大多数と同じように一晩でインストールされた新しい力を四肢の延長のごとく使った。だからこそ、多くの物資を早いうちに手に入れることが出来たのだが、よくよく考えると危険を孕んでいたのだと理解する。


 ミケアは新しく手に入れた『音魔法』に歓喜しつつその能力が持つ力について様々な考察をおこなっていた。音という現象を分析し、何を発生させられて何を発生させられないのか。これまでの自分とも照らし合わせて等身大の力へと落とし込んでいく。新しいおもちゃを得た子供がそれを日常に溶けさせるような強引なものではなく、理解し現在と慣らしていく。時間と理性が必要な作業だ。


「ソーマ、明日から下に行こう。」


 ポトフを食べながらミケアは明日からの行動を指示する。空間魔法の事を教えた日から、様々な事に興味を示したミケアの圧に負けてこうやって毎食綜馬が準備している。数ある食事の中でも、ソーセージとカレーがお気に召したようでどちらかの要素を持った料理を最近は作っている。


「わかった。拠点も映すわけだよね?」


「うん。」


「じゃあ十九階層に行く準備を、」


「違う。二十階層。」


「え?まだ早いって、この前。」


「ソーマは焦ってる。それが迷いになってよくない。それに、ソーマの話では簡単に死ぬような人じゃないけど、限度はある。今の二人ならギリギリ助けられるはず、」


 ミケアは今日の戦闘で、綜馬の視野と動きが以前のものとは違い柔軟になっていることに気が付いた。魔法に依存している戦い方はこの先も抜ける事はないため、純粋な筋力や体力よりも発想力や想像力の類を優先すべきだと考えるミケアは、その片鱗を感じたため、もう一歩先に進ませるために現在心の枷となっている事象を解決させるという判断に至った。


「堂島さん、」


 綜馬の表情がこれまでの下は違うものになるのをミケアは感じ取った。


――――――――――――――――――――――――――――――


[旧南町 初級ダンジョン]


 冬弥の生み出した爆風が衝撃となって辺り一帯を掌握する。レオとララは思わず言葉を失う。


「自分はこれくらいです。基本的には爆発と近接戦闘を使います。」


 シェルター800の最強、久賀冬弥という圧倒的な才能を目にした事で行き止まりに思えていた未来に、楔が撃ち込まれたみたいな感覚になった。

 砂煙が巻き上がり、頬には舞い上がった砂利や勢いよく爆ぜた空気の痕跡が残ってる。


「本当に、いいの?」


「はい、自分は誰かの役に立ちたいんです。」


「え、とうやんやばすぎなんだけど。普通にうちのシェルターの中でも一番じゃない?」


「いやいや、そんな」


「ララの言う通りだよ。確実に星5、議長クラスの実力はある。」


 レオは目の前で起こった出来事を反芻するように驚きながら呟いた。

 この日、冬弥という戦力がレオ達の仲間入りした。


 ワイバーンの事件からちょうど二週間が経過し、今日付けで警邏隊の任は解かれる。一足先に自由を手に入れたレオとララは力を貸したいと言う冬弥の実力を見るために三人で魔石集めがてらダンジョンに訪れた。三人であれば低階層は難なく動けるだろうという判断だった。


 冬弥が正式にメンバー入りした翌日、議会から再び通達が入った。


「まぁ予想はしてたけど、続けてよくやるねこれ、」


「マジうざいんだけどあいつら。」


「今回のチャンスを利用して自分たちの軍でも作る気かもね。」


 議会からの通達内容は二つ。一つは警邏隊は解体せず月に一度班ごとで情報共有をすること。この時訓練や非常時の役割決めなども行い、毎回報告する事。

 もう一つは、各星階層から各階層の全体割合の3%をシェルター全体を守る自警団として集めるという内容だった。


 レオは今回の通達を読み、議会が企む何かがとても大きく危険なものなのではないかという嫌な予感が脳裏に浮かんだ。彼らは明らかに自分たちの軍を作ろうとしている。危険という万が一で不安をあおることで民意は簡単に転がる。力も大義もある相手にはなす術がない。


再び重く暗い空気になったレオ達だったが、ララが冬弥の存在を強調する。


「けど、とうやんいるから魔石に関してはどうにかなるよ絶対。」


「冬弥強いんだってな!嬉しいなぁ!」


 ララのテンションに合わせてしゅんも大げさに喜ぶ。

 

 時を同じくして、サイバはシェルター813を破壊するための準備に取り掛かっていた。シェルターの残骸だけが残り、閑散とした一帯で目当てのものを見つける。これで5つ目。計画までもう少し。サイバは冷たい笑みを浮かべていた。

 

読んでいただきありがとうございます。


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