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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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ふたり

 綜馬の振りかぶった一撃が当然のように弾かれる。まるでそこに来るのがわかっていたみたいに縦横無尽にしなる枝は、綜馬の攻撃を軽くいなしていく。


「ソーマ、左!」


 ミケアの掛け声に合わせて綜馬は姿勢を低くする。ミケアから放たれる閃光は無数の枝木を消滅させた。自らを守る手段を失ったトレントはどうにかして魔法を繰り出そうと、魔法陣を展開するが抵抗虚しく綜馬の一撃が致命傷となり倒れた。


「ありがとうミケア、」


「今のはいい感じだよソーマ。短刀は常に先手を取り続ければ負けない。大事なのは焦らない事と周りを見る事。」


 20階層に向かうまでの間、綜馬はミケアに戦いを教わる事となった。この先階層を進む事に強くなるモンスターへ対処するためには単純に戦力が足りていない。

 本来の予定では隠密行動のみでどうにか20階層へ向かうつもりだったが、事前の作戦の見通しがどれだけ甘かったのか数回の戦闘を経て理解させられた。


 18階層に降りて、対峙したモンスター達はどれも隠密や索敵能力は綜馬並かそれ以上。空間魔法と陰魔法の分身を使い続けてどうにか捌ける環境だ。

 魔力の消費も激しく、一瞬でも隙が生まれればそれが原因で終わってしまう恐れもある。かなり部の悪い綱渡りをしなければならなかった。


 けれど、運命は綜馬に味方していた。ミケアという存在に出会った事で綜馬の持っていない応用力のある機転と、確実な経験を補える事が出来る。対面戦闘では弱い綜馬も、補助や一撃必殺的な逆転手段は潤沢に持っている。2人は慣れない環境ながらもお互いの足りていない部分を助け合う事でこの難所をなんとか乗り越えようとしていた。


 そのための戦闘力強化のために綜馬はミケアと連携を確認しながら近接戦闘の技術について学んでいた。モンスターとの戦闘が終わると、休まずにフィードバックを行う。

 先程の戦闘を思い出しながら、改善点と良かった場所を分けて思考を回し続ける。


 考え続けるというのは強くなるために必要な基本だった。


 ミケアは綜馬が強くなれることを信じていた。ロア族の中でも首長に選ばれるほどミケアの狩りの技術は卓越していた。同族だけでなく、近隣圏のチャイプ族、ククロア族の狩人と比べてもミケアはかなりの腕前を持っていた。


 ミケアの住んでいる世界では狩人、呪術師、祈祷師の3つの職業が部族の中心となっていた。森の恵みを得る狩人、呪いを使い豊穣を手に入れ、呪いを解き生活を守る呪術師、全ての生命に仕え未来に傅く祈祷師。それぞれが自らの部族を繁栄させるために己の力を最大限に生かしてきた。


 3首と呼ばれる彼らは、特別であり役割の重要性と比例するように比類なき力を持っていた。しかし、そんな彼らを遥かに凌駕する力も存在していた。天から授かる役目には時々特異点を生み出すこともある。

 その中でも有名な英雄バリアリオロスは、『サモン』という役目を与えられた。屍兵が世界を飲み込むほどの勢いを蓄え、闇夜が優勢となった漆の時代。


 100以上の部族がいたドロイド地区は、2つの部族を残し全滅した。ドロイド地区からじわじわと他の地区にも闇が移っていた。そんな絶望の中、光として現れたバリアリオロス。様々な眷属を生み出し次々に屍兵たちを葬る。三日三晩戦いは続き最後に立っていたのはバリアリオロス唯1人だけだった。


 戦闘で負った大きな傷と、意識を保つために燃やし続けた魂の摩耗によって、バリアリオロスは屍兵の掃討から半日後命を落とした。たった1人で何万もの敵を相手にして、世界を守ったバリアリオロスは英雄として讃えられている。

 そんなバリアリオロスの英雄伝で記されている『サモン』という役目と綜馬の持つ力はかなり酷似している。バリアリオロスの英雄伝を見飽きるほど読み込んだミケアはそのことに気がついた。

 だからこそミケアは綜馬と敵対するのではなく、むしろ畏敬や恐怖、憧憬とも呼べる形が不確かな感情を好意的な思いとして発露した。


 ミケアはダンジョンと呼ばれるこの空間に目が覚めると飛ばされていた。この空間はミケアの住む森とよく似た構造をしていて、恐ろしい獣たちが跋扈していた。

 どうにかして自分のいた世界に戻ろうと考えていたが、森の中をうろうろするだけで何の手がかりも見つからなかった。同族の安否もわからない今、こんな事している場合じゃないと焦燥感は増していく日々。


 そんな時に出会ったのが綜馬という少年だった。彼の持つ力は無限の可能性を持っている。そして、彼とここで出会った事で自分がなぜこの世界に飛ばされたのか理解した。

 知恵を持った獣が現れ、ミケアの住む一帯の部族はその獣と戦うために全てを費やした。日に日に減っていく同胞、あちこちで響く唸り声、自分たちが追い詰められている立場にあると気づくのには時間が掛からなかった。


 少なくない負傷者を出しながらもどうにか1匹の獣を仕留め、ふらふらと帰る途中にミケアは意識を失った。戦闘続きの毎日に疲弊しており、やっと倒せたという安堵から緊張の糸が切れたのだろう。


 綜馬はミケアたちが置かれている現状を打破するために神が用意した英雄なのだ。自分は彼を連れて帰るためにここに来た。それならば自分のするべき事は単純だ。彼が探しているという男を一緒に探し出し協力関係を作り、力を貸してもらう他ない。見たところ綜馬はあまり戦闘を得意としていないため自分が綜馬を鍛えていくしかない。

 幸い、この場所は力を蓄えるのにはピッタリな環境が揃っている。


 双方の思惑を叶えるために2人は再び武器を取る。1秒も無駄にする時間はなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 レオは不思議な青年と出会った。彼と初めて会ったのはワイバーンが突然暴れたあの日。つい10日前の事だった。

 それから数日経ち、いつかお礼をしなければと思っていたレオは再会した。再会は願ってもない幸運だった。彼の名前は冬弥。こんな世界になっていなければ大学生くらいの年頃でレオの2、3歳年下だろう。


 あどけない様子が残る彼は無理やり脱ぎ去った幼さと、隠しきれない濁った瞳を持っていた。


「冬弥くん、ありがとうねこの前の、」


「全然気にしないでください。助け合いですよ。」


「それで、冬弥くんはどうしてここに?」


「うちのリーダーがきっと困ってるだろうから手伝いに行って来いってうるさくて、」


「あぁ、そうなんだ。議長たちにその話はしたのかな?」


「知り合いが多分。麗央さん、しばらくの間麗央さんのところにいてもいいですか?」 


 星2等の住宅地で偶然会った二人はお互いの顔を突き合わせて真意を探り合う。

 レオは手の届く半径に距離にいる大事な人たちを守るため、冬弥は自分の大切な人を奪った敵を見つけ出すために。


「俺それなりに強いです。多分力なれます。」


「ありがたいけど、その力はもっと別に、」


「あそこじゃ駄目だったんです。あそこじゃなにも、」


 表からシェルター813に入ったマオ達の報告と、実際に中枢である星5等級の住居に滞在した冬弥は常に付きまとう視線によって身動きが取れなくなっていた。冬弥の性質上、コソコソと暗躍するのは得意ではないが下手に暴れて余計に自由がなくなる可能性を常時孕んでいる場合は、身を隠し気を窺うほかなかった。


 レオは冬弥も議長含む星5等級の人間たちの愚かさに耐えられなくなったのだと理解し、手を差し出した。


「うちは狭いし、ご飯も少ないけど、それでもいいなら。」


「ありがとうございます。」


 冬弥はレオの伸ばした手をがっしりと握った。

読んでいただきありがとうございます。


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