9話
「まず最初は吹奏楽部よ。」
早苗がそう言って部室の前に仁王立ちする。裕翔は自分の話を聞かない妹にうんざりして諦めていた。
「失礼します…」
あんな堂々と"ここだ!"みたいな感じでいた早苗が体を縮めながらドアをゆっくり開ける。
「高橋さんだ!」
「本当だ!」
あ〜これか、と納得した顔を裕翔が見せた。
吹奏楽部の部員、顧問が裕翔の事を何故かガン見していると早苗が言い入ってくる。
「じ…実は裕翔くんを仮入部させて欲しいんですけど…無理ですか?」
早苗が伝説の上目遣いを使い裕翔は仮入部をすることになった。
「まず最初は楽器に慣れてもらおう。」
文化部には似合わない筋肉ムキムキの体育系男子部長が睨みながら言う。裕翔はその圧に少し押されていた。
その頃早苗は自身の部活、ソフトテニス部に行っていた。
早苗は本当は硬式、よくテレビで見る黄色っぽい色のボールを使ったテニスをしたかったがそれを聞いた教師が
「硬式ボールは硬くて危ないから。」
という理由で軟式、柔らかいボールを使うソフトテニス部に入れさせられたという。
「さっさとしろ!」
ゴリラ部長が部室いっぱいに声を反響させる。
「はいはい。」
裕翔はため息をつきながら目の前に置かれたアルトリコーダーを持ち口をつける。
『ピーピロピロピー』
アルトリコーダーの特徴の低い美しい音色が響き渡る。その音を聞いた部員の全員が驚きの顔を見せる。
ゴリラ部長はムッとした表情で怒鳴る。
「ちっこいリコーダーなど誰でも吹けるわ!次はピアノだ!」
普通初心者にピアノを弾かせるか?と思いながらもピアノの前に座る。
「ほら、弾いてみろ!」
ゴリラがウホウホ鳴くのを無視して裕翔はピアノに手を置く。そして…
ゴリラ部長以外の全部員が感動のあまり泣きだす。その美しいを通り越した素晴らしい音色を奏でる裕翔はもはや人間ではなかった。
ゴリラ部長はまたその大きな身体から声を張り上げる。
「こ、今度はドラムを叩いてみろ!」
そう言われ"はいはい。"といった感じでドラムスティックを持つ。そしてこの日吹奏楽部に伝説ができたのだった。