こうして勇者は生まれた
我から見れば、勇者は楽しく国を滅ぼしていたら突如現れた強き人間だった。
勇者について知る事など殆どない。
ただ、強かった。
それだけだ。
だが、人間は勇者について詳しいに違いない。
我はずっとそう思っていた。
実際は我より知らないという有様だった。
おかしな話だ。
勇者は一体何処から来たのだろうか?
答えはこれなのだろうな。
我はアルバートと呼ばれた幼体を見る。
幼体、雄、魔力無し。
勇者との共通点は血くらいだろう。
これが勇者の正体なのだから実に笑える。
笑っているのは我だけか。
アルバートと呼ばれた幼体は理解できていないようだった。
『何処から話そうか。
勇者は何処から来たか、というところからにしよう。
かの者は、異界からの召喚者だったのだ。』
『え!?召喚者?』
『召喚はお主らの特技ぞ?
召喚したのが魔物ではなく異界の人間だったのだ。』
『そんな事可能なの?』
『理屈では可能だろう。ただ、生身の人間をそのまま召喚とはいかない。
仮想体が必要になる。』
召喚出来るのは魔物のみ。
それは血の通う肉体を持たないから召喚出来るのだ。
人間を召喚しようとするなら、その意識のみ。
その意識をいれる器が必要になる。
その器が
『アルバート、其方というわけだ。』
『え?でも…』
『だが、勇者が現れたのは今から500年も前の話。』
『そうだよ!だから僕が勇者だなんて!?』
『ここは亜空間。
其方達は裏側の世界と呼ぶ。
ここに時間の概念はない。
我はここに封じられてから時の流れに乗らぬ身となった。
その我と今話しているのだ。
わかるか?この意味。』
『?』
『わからぬか?ここは其方から見れば500年前の世界よ。』
『は?』
アルバートと呼ばれた幼体は後ろを振り返る。
『入って来た入り口はもうないぞ?』
『え?』
『もう使わぬからな。』
『どういうこと?』
『其方はこれより我封印を解く。
そしてこの空間から脱し元の世界に戻るがそこは500年前の世界。』
『そんな馬鹿な!?』
『この封印を解いた時、500年前の王族…おそらく勇者の未来の伴侶が勇者召喚を成功させる。
其方はその瞬間よりアルバートでなく勇者とな
る。』
『でも僕は魔力無しだよ!勇者は…』
『封印から解かれた我は何処に行くのか?』
『え?』
答えは…
『聞けば魔力無しはお主だけでないらしいな。』
『この血筋はみんなそう。』
『勇者のアバターに相応しい体を王族は極秘に年月かけて作っていたのだろう。アバターの条件で最重要項目は魔力が無い事だからな。』
疑惑の血筋と言ってアバター作りを隠していたのだろう。中々残酷な事をアルバートに求めるからな。王族の制作物故常に次期王に近い年齢になってしまい知らぬものから見れば簒奪を狙っているようにも見えるのも悪い。
本当に罪深い事よ。
『勇者の巨大な魔力の正体は我よ。
其方は我を吸収し人類最強となるのだよ。』
愉快痛快。
我はこれよりアルバートと呼ばれた幼体によって封印を解かれ唯の魔力の塊となる。
その莫大な魔力の一部を使い人間は勇者の意識を召喚しアルバートを仮想体として勇者を召喚する。
残った魔力は勇者に…というよりアルバートに吸収されて我を倒す糧とされる。
魔力が欠片でもあれば我が魔力を異物とし吸収出来ぬからな。
おそらく、魔力吸収の過程で魔力をより効率的に扱えるよう性別も変わったか…ほれ、雄より雌の方が魔女とも言われ魔力を扱うのも長けておるだろう…、はたまた召喚された勇者の性別が雌でアバターの性別も変わったか。そこまでは我も知る事は出来ぬが…。
我と会った勇者は成体故、召喚されてすぐに我の所にきた訳ではないだろう。
勇者がどういう旅を経て我の元に来たのかは
これより、アルバートと呼ばれた幼体が知る事となるだろう。そこは我のあずかり知らぬ事。
アバターとなったアルバートと呼ばれた幼体がどれほど自我を保てるのかもわからぬ。
子供を成して死んだと言われているなら、アルバートはアバターのまま死ぬのかもしれぬ。
嫌だと言っても最早選択の余地は無し。
アルバートは勇者だ。
それは変わらぬ。
まあ、我は我を倒しに行くのだ。
楽しいな。
のう、アルバート。
我は我でなくなるし、お主もお主でなくなるけれど、何、未来は明るい。
其方の勝ちとわかっているのだ。
安心して我を取り込み、世界を救いに行くがよい。
『さあ、時間は無限とあるがここは退屈故さっさと世界を救いにいこう。
封印の解き方は…』