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第八章:報復完了

Mi5の本部を出た男は、自宅へと車を走らせていた。


「もう・・・・・そろそろ連絡が来ても良いのだがな」


あれから既に半日が経ち、既に朝になろうとしていた。


あの殺し屋なら直ぐに連絡を送る筈なのに来ない。


「・・・失敗は有り得ない筈だ」


あの殺し屋とは長い付き合いだが、今まで失敗した事は無い。


それなのに連絡が来ないとなれば嫌な予感が頭を過るのも無理は無い。


「まさか、な」


男は直ぐに否定して、ハンドルを切ろうとした。


しかし、急に片方のタイヤがパンクする音が聞こえた。


「ちっ。こんな時に・・・・・・・・・・・・・」


男は車から降りて、パンクしたタイヤに行った。


そして頭をタイヤに向けた時だった。


シュパッン


小さな空を切る音と同時に


シャー


と血が吹き出る音がした。


男の額から血が吹き出た。


声を出す暇も無く男は絶命した。


地面に倒れる男。


通行人は誰も居ない。


ただ朝日が男をやがて照らし始める所だった。


「・・・不用心に車から降りたら駄目だぜ?おっさん」


遠く離れたビルの屋上から2脚を立てたG3SG/1を構えたヴィンセントが呟いた。


その横には死んだ男に仕えていた二人のMi5の男が居た。


「死んだのか?」


「あぁ。脳天に7.62mmNATO弾を撃ち込んでやった」


「ワン・ショット・キル、か。渾名とは全然違う殺し方をするな」


「渾名は渾名だ。それに同じ方法で何度も殺ると足が付き易い」


「なるほど」


2脚を戻し死体から眼を放したヴィンセントは立ち上がった。


「さて、あんた等これからどうする?」


上司を殺した。


部下である彼等は何の落ち度も無い。


だが、殺し屋に殺された。


組織が承諾したかは知らないが、殺され掛けた事に変わりない。


「そうだな・・・もう組織の為に働くのは嫌だな。殺され掛けたんだ」


「俺もだ」


「だろうな。まぁ、俺には関係ないから良いが、な」


「なぁ、あんた俺らと組まないか?」


「あ?なに言ってるんだよ?」


ヴィンセントはG3SG/1を分解して、アタッシュケースに入れながら訊き返した。


「あんたは殺しの腕がある。俺らにはそれなりに情報の伝手がある。チームを組むのも悪くないと思うが?」


「・・・・・・・・・」


ヴィンセントは、いきなりチームを組もうと言う男に眉を顰めた。


「正直いって俺らは働き口が欲しいんだ。だから、あんたと組みたいんだ」


「まともな仕事を探した方が良いと思うが?」


「それが出来れば苦労しない。どうやってMi5に居たと言えば良いんだよ?」


尤もな事だ。


何処の世界に元諜報組織に居たと履歴書に書く?


素人だって馬鹿ではない。


それにこの手の世界で仕事をしてきた者達はどう頑張っても、表の世界で暮らすのは無理だ。


稀に成功する者は居る。


だが、それは本当に稀な者達で残りは少し安全な裏の仕事に就くか、そうでなければ何処かでのたれ死ぬのが関の山だ。


「言われてみるとそうだな」


「だろ?だから、それならいっその事あんたとチームを組んだ方が良いと考えたんだ」


ヴィンセントは果たしてこの男二人が役立ち自身に害が無いか、と考えた。


殺す気は今の所は無い。


だが、今の所だ。


もしも、仮にチームを組んで自分に害が及ぶとあれば、即座に自分は殺す事だろう。


何よりこいつ等に自分の身は自分で護る、という基本的な考えがあるか甚だ疑問だ。


「あんた等、諜報部員として経験は?」


「1年だ。仕事内容は・・・・・・・」


「どうせ現地スパイとの仲介か金の支払いだろ?」


「良く解かったな?」


「プロのスパイなら、あんな酔い回るほど酒を飲まない」


「そうなのか?」


「知らないなら教えてやる。プロというのは酒を飲んでいようと、女を抱いていようと片隅は冷めた部分があるもんだ」


二人は自分達より年下のヴィンセントに説教染みた事を言われて、感心半分嫉妬半分な気持ちだった。


「たった1年で更に実地経験も無い。それでよく俺とチームを組もうなんて言えたな」


「偉そうな事を言うあんたの方は?」


「18で軍隊に入り20で除隊。それから暗黒街に入ってから2年だ」


だが、軍隊時代にも殺しの経験はあるから合計で4年だ、と言い直した。


「あんた、軍隊に居たのかよ?」


「あぁ。まぁ、チームを組む話は後にして一杯やるか?」


「あんたの驕りで?」


「生憎と財布はお寂しい限りだ」


「生活能力が欠けているな」


「言えてる」


「うるせぇ」


アタッシュケースを閉じて、ヴィンセントは男二人と共にビルを降りてルノーに乗り込んだ。


「そう言えば、あんた名前は?」


「ヴィンセント。ヴィンセント・クリス・ベケットだ。国籍はフランス。周りからは、ヴィンセントと呼ばれている」


エンジンを掛けながらヴィンセントは答えた。


「俺はニール。ニール・マッカートニー。生粋のイングランド人だ」


「パトリック・カザルスだ。ドイツのハーフだ」


「よし。自己紹介は終わりだ。これから飲むぞ」


あんた等の驕りで、な。


ヴィンセントの発言に二人は仕方が無い、と頷き合った。

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「そうか。それじゃ、そいつらを後で俺の下に連れて来い」


マルセイユの丘に建つ白い屋根を持つ家で、一人の男が携帯電話で話をしていた。


「あぁ。1ヶ月で自分の身くらいは護れるように仕立て上げてやる。それからその事は俺に任せておけ」


そう言って男は携帯を切った。


そして今度は別のクラシックなデザインをした固定電話機で別の所へ掛けた。


「あぁ。俺だ。久し振りだな?“お嬢ちゃん”。相変わらず良い声だ。昔を思い出すぜ」


男は小さく笑った。


笑うと子供みたいに幼く見える。


身体は大きいのに真逆の印象を受ける。


「早速で悪いが、ちょっと俺の頼みを聞いてくれないかい?」


電話の相手は承諾の旨を伝えた。


「ありがとう。君は相変わらず男の願いを叶えてくれるな」


電話の相手は、恥ずかしがるような声を出した。


それを聞いて男はまた笑った。


「恥ずかしがる声も変わらないな。今でも君は昔と変わらず美しいな」


だが、直ぐにそれを訂正した。


「いや・・・・歳を重ねたからこそ君はどんな花よりも気高く美しい薔薇の花になったんだな。君は本当に綺麗だよ」


歯の浮くような言葉を言いながら、男は言い続けた。


「その礼にディナーでもどうかな?・・・・・・フランス料理のフルコースか。お安い御用だ」


じゃあ、頼むよ。


と言って男は電話を切った。


そして煙草を取り出して銜えた。


そのライターに火を点ける一人の女性。


黒いレディース・スーツに身を包んだ女性は右目には薄いが縦線の傷痕が見られるから表の世界の人間ではない。


鋼色の髪を腰の辺りまで伸ばして、それを後ろで1本に纏めていた。


年齢は20代半ばで端正な顔立ちに赤い瞳をしているが、表情は到って無表情だった。


「クレセント。直ぐにフランス料理店の予約を頼む」


「畏まりました。直ぐに手配します」


クレセントと呼ばれた女性は顔と同じく平坦な声で頷く。


「それと上質なドレスを一着、頼む」


「色は何が宜しいですか?」


「そうだな・・・・薄い緑色のドレスで良い」


暫く男は考えたが、直ぐに答えた。


「あの方が好む色ですね」


「お嬢ちゃんに初めてプレゼントしたドレスの色だからな」


「そうですか」


クレセントは納得した顔をして、一礼すると部屋を辞した。


「さぁて、あいつが連れて来る男とは、どんな奴かね?」


男は煙草を吸いながら、プレゼントを待ち侘びる子供のような笑みを浮かべた。


その笑顔は、ヨーロッパの暗黒街を牛耳り、各界にも影響を及ぼす“伯爵”の顔とはとても見えなかった。


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