幕間〜月をつかむ〜
夜。
アストラ・シティ。
街の一角に建つ、
ごく普通のビルの一室。
照明の落ちた部屋で、
ひとりの男が窓の外を眺めていた。
褐色の肌。
短く切り揃えられた髪は、
月光を受けて、
金にも銀にも見える。
そして――
獲物を射抜くような、
鋭い眼光。
男の視線の先。
夜空には、
巨大な月が浮かんでいた。
白い光が、
眠りにつきつつあるアストラ・シティを
淡く照らしている。
男はその月を見上げたまま、
ゆっくりと口元を歪めた。
「世界の更新――」
低い声が、
暗い部屋に響く。
「ついに始まるか」
そのとき。
男の背後に、
黒い影が現れた。
足音はない。
気配すら、
ほとんど感じさせない。
「ノワか」
男は振り返らない。
背後に立っていたのは、
黒いマントを羽織った少女だった。
短く整えられた黒髪。
陶器を思わせる、
透き通るような白い肌。
均整の取れた顔立ちは、
作り物めいたほど美しい。
それなのに。
大きな瞳。
わずかに丸みを残した頬。
その顔には、
まだ幼さを感じさせる
あどけなさも残っていた。
完成された美しさと、
少女らしい無垢さ。
相反する二つが、
不思議なほど自然に同居している。
ただ――
その表情には、
いかなる感情も浮かんでいなかった。
喜びも。
怒りも。
期待も。
恐れも。
美しい人形のような顔で、
ノワはただ男を見つめている。
「マスター」
平坦な声が響く。
「いよいよですね」
「ああ」
男は短く答えた。
そして再び、
窓の向こうへ視線を戻す。
巨大な月。
その光が、
男の瞳の奥に映り込む。
「行動を開始する」
ノワは、
ただその言葉を受け取った。
男の口元が、
さらにわずかに吊り上がる。
「――世界を閉じるために」
その言葉とともに、
男は月へ向かって右手を伸ばした。
開いた掌。
その中心に、
巨大な月が重なる。
まるで。
夜空に浮かぶ光を、
自分の手の中へ収めるように。
男はしばらく、
その光景を見つめていた。
そして――
ゆっくりと。
指を曲げる。
ひとつずつ。
月を逃がさないように。
光を閉じ込めるように。
やがて、
拳が固く握られた。
掌の中から、
月が消える。
男の瞳には、
確信だけが残っていた。
世界は、
更新されようとしている。
そして彼は――
その世界を、
閉じようとしていた。
《To be continued…》
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/
※『フラグメンツ・シリーズ』一覧はこちら。
https://ncode.syosetu.com/s8950k/




