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砂漠の海に黄金は駆ける  作者: 片海 鏡


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第二十二話

「彼女達は、毒によって意識を失ったエト殿を外部へ売る計画を立てていました」

「外部に?」


 シャルアの資料を持つ手に力が籠る。


「毒の入手先か?」

「それとは別になります。場所は、ルウタ族の管理する闘技場の街エリュッセアです」

「ルウタの……」


 現在も砂漠には大きく分けて5の部族が存在する。

 黒竜のラカヤ。知恵のアシン。放浪のテヘト。水守のミキス。そして戦士のルウタだ。

 黒竜の末裔である王の血族を含む人口が最も多いラカヤ族を中心に、リシムアルタ王国は建国された。しかし、他の4つの部族の影響力が強い都市は健在である。闘技場が建造された都市もその一つだ。


「気絶したエト殿を袋に詰め、ゴミ処理場へ運び、売人と落ち合う算段でした。しかし、ごみ処理場に隠れていた男は、見張りの兵士に事前に逮捕されていました」

「エトが自ら逃亡したと見せかけるには、お粗末だな。本当にそいつは、闘技場に売るつもりだったのか?」


 ルウタ族は血気盛んな人間が多い。奴隷の扱いが雑な人間が多いとも聞く。だからと言って、彼等は無法者ではない。特に闘技場関係者は、厳格な規則の元に動いている。

 なにより闘技場を中心に栄える都市には、働き口を求めて溢れる程の人々が集まり、暮らしている。奴隷をわざわざ遠くから買い付ける必要なんて無い。

 ましてや、王の所有物を買いたがる愚か者が、この国にいるのだろうか。


「闘技場の関係者は出まかせだと自白しています。男は闘技場とは別の取引相手にエト殿を売る算段でした。どうやら、王の所有物だとは聞かされていなかったようです」


 捕らえられた売人の男は、娼館相手に商いをしていた。

 王都から闘技場までの距離は、最速と名高き砂漠の海に生息する砂馬であっても3日は掛かる。売人は、エトを遠くに捨てたかった加害者3名の口車にあえて乗り、闘技場の関係者と嘘を付いたのだ。


「彼女等の計画を邪魔したのが、庭師か……」

「3名は行方不明になった庭師に対して、エト殿の入った袋を運ぶように命令したと供述しています。庭師は彼女達の命令に従うと見せかけて、裏切ったようです。人身売買業者の逮捕に貢献した男性とその庭師の背格好が合致しました」


 年齢は20代から30代。平均よりも高い身長に、体格は中肉中背。髪、瞳共に黒色をしている。顔には、泣きぼくろとその下にもう一つほくろと特徴がある。

 何処にでもいそうな、誰かが偽装できそうな背格好だ。


「意図が読めないな。第二の勢力と考えた方が良さそうだ」


 もし虐められていたエトを助けたかったとすれば、事情聴取に協力し、その旨を伝えている筈だ。エトを中庭に放置したのも〈王の庭所属ではない人間に発見してもらい、加害者の手の届かない場所に保護してもらう為だった〉とすればまだ説明がつく。

 行方をくらませるとなれば、何か裏がある。


「奴隷や使用人の身元を確認した結果、その庭師は名簿に記載がありませんでした。売人と同じく、内部に手引きした者がいるようです」


 加害者3名と関係者から呪いの情報が出ないとなれば、術者は行方不明の庭師に絞られる。


「宮廷魔術師の方々は、どうなされているんだ?」


 人を蝕む呪いとなれば、効果を熟知する術者ではなければ扱えない。この国では、術者は宝石眼持ちに絞られる。

 宮殿において、呪いを相手へ嗾けられるのはシャルアか宮廷魔術師達くらいだ。


「頭を抱えているご様子でした。事件のあった時期は、宮殿を覆う結界の更新の為に皆が宮殿と王都全域を走り回っていたので、当時の証言が揃いきれていないのです」

「セカヤが珍しく出歩いていたのは、その為か」


 魔術医と同じく、宮廷魔術師は研究職の側面がある。セカヤは研究者寄りの術者であり、普段は外に出て来るのは食事時くらいだ。そんな彼が外に出ている時は、魔術の実証実験か結界更新の二択と言っても過言ではない。


「結界の発動地点を知られるのは、防衛において致命的だからな……みんな、外に出る時は変装していたんだろ?」


 宮廷魔術師はセカヤを含めて合計6人だ。シャルアの魔方陣は建物内だが、結界は宮殿、敷地全体、城壁と城門、そして王都全域とそれぞれ独自の術式を発動させている。広大である分、シャルアの用いた石のように発動地点が設けられ、半年に一度変更され、術式や改良をされていると聞く。

 結界は、襲撃者に先手を打たれたいための重要な守りだ。その発動地点を知られ、術式を解除されてしまえば、多くの犠牲を生む。それを防ぐ為にも、宮廷魔術師達は密かに動いているのだ。エトの呪いに対して宮殿内の結界であれば何らかの反応を示しそうなものだが、話からしてそれが無かった。更新の隙を狙った。半月に一度が何時か知っている者しか出来ない所業だ。


「はい。従者を付けず、あの手この手で、人々に気付かれないように動いていたそうです」

「無実だと言っても、証拠が揃いきらないから疑われたまま、か」


 証拠が揃いきらないからこそ、犯人として特定されない。

 疑いたくは無いが、そう捉えられる。


「今後も調査を続けます。シャルア様とエト殿には、これまで通り過ごして欲しいとアダージュ様より伝言を受けております」

「人海戦術が物を言うからな。俺は、エトがこれ以上狙われないように見張るよ」


 調査に協力したいが、下手に動いて邪魔をするわけにもいかない。

 報告を終えたアダージュの部下は退席し、シャルアは改めて資料を読み返した。


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