↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/86

遺跡の地下

 たぶん、セラフィナとティルは、相性が悪い。セラフィナが何をしても、ティルのテンポに合わないのだ。

 先ほど謎の石板を出した時も然り。フィヨルラインの廃教会にあった魔法陣に魔力が溜まっていたことを思い出して、石板がはまった図面に魔力を流してみた時も然り。

「どうして、思いつきで行動するわけ!? ぼーっとしてたかと思えば『えい!』で一大事始めないでくれる!?」

「え……だって、見れば見るほど、魔法陣に——」

「見えたからって行動しちゃダメ! あなた危険人物! 可愛いふりしてトラブルメーカー!」

「でも、結果的に——」

「結果的に、謎の地下室見つけてどうすんの!? これ、行かなきゃダメなやつだよね!?」

 怒られて困り顔のセラフィナと、頭を抱えて途方に暮れるティル。タガが外れたティルの発言は、容赦がない。セラフィナの行動に遠慮なく切り込むものだから、カイルとエーリヒは笑いを堪えるのに忙しい。他の研究員も、セラフィナの行動に、今更ながらぽかんとしていた。

「ティルさん、セラは真面目にやってるだけだから、あんまり怒らないであげて」

 笑いを噛み殺しながら、エーリヒがティルを宥めたが、今度はセラフィナが唇を尖らせた。

「ちょっと、エーリヒ。それ、どう言う意味よ」

「セラは可愛いなっていう意味だよ」

「…………私は、誤魔化されないわよ」

 先ほどから笑ってばかりのエーリヒを睨みつけてカイルを見ると、彼もまだ笑っている。

「……二人とも、覚えてなさい」

 恨みがましく二人を見やると、セラフィナは髪を翻して地下へと進む階段へ足を降ろした。

「――待て待て待て!」

 一瞬で笑いを収めたカイルが、セラフィナの腕を掴んで引き戻す。

「だから、勝手に入っていくな。何があるのか、わからないだろ」

 えー、と不満げな顔をしてカイルを見たセラフィナだったが、横からヒヤリとした気配を感じて恐る恐るそちらを見た。

「セラ? 前にも同じことがあったよね? 学習しないようなら、俺がずっと手を繋いでいようかな」

 花が咲くほど綺麗な笑顔のエーリヒが、怖い。

 セラフィナは、口の端をヒクリと引き攣らせた。カイルはと見ると、こちらは困った顔でセラフィナを見ている。怒ったエーリヒも怖いが、カイルを困らせるのも嫌だ。けれども、床の図面――魔法陣から現れた階段も、どうしても降りてみたい。何と言えばいいのか、セラフィナは必死で考えた。

「……ごめんなさい。二人とも、一緒に降りてくれる?」

 しっかりと反省した上で、お願いしてみた。

「もちろん、一緒に行くよ」

「まったく。しょうがないな」

 エーリヒが満面の笑みで、カイルがため息を吐きながら同意した。

 その後ろでは、ティルが頭を掻きむしり、他の研究者はがっくりと肩を落としていた。


「そもそも、魔法陣なんてものは、現代の魔法にはないのよ」

 地下へと続く暗い階段を降りながら、セラフィナは言った。

 前方を照らすのは、頼りないランプの光だ。セラフィナの手は、宣言通りエーリヒに握られている。前を歩くのはテラとエルマ、ティル。その前をカイルが進み、最後尾がセラフィナとエーリヒだ。カランとバートンは、地上で留守番だ。万が一通路が閉じた時は、リーゼとアルベルトを呼びに行く手筈となっている。

「じゃあ、魔法陣って何なんですか?」

 前を歩くテラが、セラフィナを振り返ると、エーリヒに「転ぶよ、前を向いて」と注意される。慌てて前を向きながら、テラは続けた。

「実際、この階段だって、魔法陣で現れましたよね」

「そうなのよね。古代に書かれた魔法書にも、魔法陣はたくさんでてくるわ。けれど、魔法を使うのには、古代の魔法でも魔法陣を使わないの」

「なんだか、ちぐはぐですね」

「そうね。その辺を調べてみてもいいかもしれないわね」

 話がひと段落したところで、ちょうど階段を降りきった。そこは、また空間になっていたが、いくつかのランプの灯りだけでは全くと言っていいほど何も見えてこない。

「魔法使いのお嬢さん、腕の見せ所じゃない?」

 振り返りながら言うティルを、セラフィナは少し上目遣いに見た。

「……いいの?」

「…………ぐっ!」

 どうしたわけか、ティルが胸を押さえて疼くまる。セラフィナとしては、思いつきで行動するなと言われていたので、今思いついたことを実行してもいいのか確認しただけなのだが、この反応はどういう返答なのだろう。困ってエーリヒを見ると、やや冷たい視線でティルを見下ろしており、少し怖くなった。そこで、カイルに助けを求めると、困ったような、彼にしては少し嫌そうな表情をしている。エルマとテラも、頭を押さえて呆れ顔だ。

「…………ええと、上と同じように、足元に魔力を流してみるわね。古代の人たちも、暗いと困ったと思うし、きっと、何かの装置があったと思うのよ」

 そう言って、セラフィナは足の先から床に向けて魔力を流す。少しのタイムラグの後、一瞬床が淡い光を放ち、壁の数箇所に灯りが灯った。

 それは、まるでそこにランプがあるように、しかしランプよりも強い光で室内を照らしだした。

 その地下の空間は、三十人ほどが入れる程度の広さがあり、六本の石柱があった。人の腰より高いくらいの高さの石柱は、明らかに何かの目的のために設置されたとわかるように、等間隔に並んでいた。

 床を見ると、思った通りに魔法陣のようなものが描かれている。よく見ると、床に直接彫られているようで、これも地上の図面と同じだ。しかし、この魔法陣は、見覚えがない。セラフィナの持つ古代魔法書に載っていないのか、それとも忘れてしまったのか。あとでアルベルトにも聞いてみよう、と思い、セラフィナは床の魔法陣を目に焼き付けた。

「この光景の感動の前に、ちょっと……言いたいことが、ある」

 踞ったままのティルが、下からセラフィナを睨み上げた。

 何かしら、とセラフィナが首を傾げると、ティルは勢いよく立ち上がって、いつもの調子で口を開いた。

「お嬢さん! あの暗がりで、あの表情はダメだからね!? 男なんて、みんなオオカミよ? 俺、精神崩壊するかと思ったよ!?」

 勢いよく言った後、今度はカイルとエーリヒに向き直った。

「お兄さんたちも、これ放置ダメ、絶対! 甘やかさない! はい、繰り返して!」

「「……甘やかさない」」

「目を離さない! はい!」

「「……目を離さない」」

「自覚を促す! はい!」

「「……自覚を促す」」

「お願いしますよ!」

「「………………はい」」

 遺跡の新発見を目の前にして、セラフィナは「だんせいはおおかみ……」とぶつぶつと呟き、カイルとエーリヒが巻き込まれている。エルマとテラは、その光景を見ながら、「早くして……」と遠い目をしていた。

 

 その石柱は、上に大きな本が見開きで置けるほどに太かった。元は、つるりとしたテーブル状だったのだろうその上部は、今は欠けたり穴が空いたり、削り取られたりしていた。

「これだけ大掛かりな部屋なのに、ただの石柱だけ、なんてことはないですよね」

 テラが、しげしげと石柱を眺めながら言った。

「何かの集会や、宗教の場だったのかもしれないわ。とにかく、スケッチをして一度戻りましょう。今は、大きなことはできないわ」

 今にも何かをしたそうにうずうずしているテラを、エルマが穏やかに嗜める。

 そして、エーリヒとセラフィナ(カイルは落書きにしかならなかったため、見学に徹した)も含めて、急いで地下のスケッチを終えて地上に戻った。

 その場を離れる際、地下への階段を閉じないのか、という議論になった。

 試しにカイルが魔法陣の外縁に魔力を流してみると、階段は消え、もとの図面の彫られた床に戻った。それで、次回は魔法を使える者を連れてくる、ということにして、一行はその場を後にした。

「リーゼ、アル。今日は、大発見だったのよ」

 遺跡の門を出て早々に、セラフィナは嬉々として二人に報告した。

 リーゼは通常運転だが、アルベルトがどうも不機嫌だ。どうしたのかとリーゼを見ると、肩をすくめてアルベルトを見た。

「それは、ようございました。こちらは、真面目にお留守番をしていただけですよ。お互い、一言も話していませんが」

 最後の一言に、本日の遺跡調査組八人は、互いに視線を合わせた。

 この二人が一緒になると、会話が皆無になるのか。リーゼとアルベルトだから何も感じていないだけで、自分だったらとてもじゃないが耐えられない。そんな思いを視線で伝え合って、八人は視線を戻した。

「あの、ごめんなさいね、戻るのが遅れてしまって」

 エルマが、申し訳なさそうに言うが、リーゼは首を振った。

「大事ございません。セラフィナさんがいる以上、こうなることは予想の範囲内です」

 どう言う意味よ、とセラフィナはリーゼを睨んだが、つい、と視線を逸らしてどこ吹く風だ。全く、とため息をついたところで、カイルの声がした。

「申し訳ないが、今日はここで野営して、明日出発でいいだろうか。これから村へ戻るとなると、夜に進むことになる」

 これには、もちろん全員が頷いて、もう一泊野営することになったのだが、これが大変だった。

 まず、アルベルトがセラフィナから離れない。

 どうやら、この依頼の間セラフィナと離れていることが多かったのが、不機嫌の原因だったらしい。「セラが足りない」という謎の一言と共に抱きしめられたセラフィナが、まず目を回して倒れた。なおも離れないアルベルトにエーリヒが怒り、口論になった。それを仲裁しようとしたカイルが巻き込まれ、その間にセラフィナを奪還したリーゼに、アルベルトが突っかかった。その騒ぎをオロオロと見ていた研究者たちの中で、ティルが果敢にもそこに混ざり、目覚めたセラフィナと共に冒険者五人が正座させられるというカオスが発生した。

 騒ぎは、ティルの功績により一時的に収束した。しかし、アルベルトがセラフィナから離れないという異常事態は、消灯するまで続いたのだった。


 古代都市国家ヴァルガンドの遺跡の中心部、隠された地下室には、今、二人の人影が佇んでいた。

 壁に設置された魔法の光は、弱々しく彼らを照らしている。

「……まさかとは思ったが、本当だったとは」

 黒髪の男性が、驚いたように呟いた。

「入口の魔法陣を直したところで、欠けた部分はどうしようもないと思っていたのだがな」

 それに対するのは、金髪の男性だ。彼は、どこか落ち着いたような、穏やかな口調で言った。

「人間が、長年にわたってこれを直していたのは知っていましたが。まさか起動までしてしまうとは、思いませんでしたね」

 言って、等間隔に並んだ石柱の一つに近づいた。ボロボロになったそれに手を当てて、くすりと笑う。

「流石に、こちらには起動した痕跡はありませんね」

「起動しようにも、魔法陣ごと壊れているだろう」

 黒髪の男性が、呆れたように言った時、地下の空間にふっと闇が落ちた。

 魔法陣に込められた魔力が、尽きたのだ。

 そこに、ぽうっと灯るのは、金髪の男性の手の上に浮いた、光の玉だった。

「その壊れた魔法陣を修復して、起動までした人間がいた。これが事実です」

 金髪の男性が言い、闇の中から「確かにな」と返答が返ってくる。そして、闇の中にもう一つ、光の玉が浮かび上がった。

 それを掲げる人影は、くるりと方向を変えて来た道を戻り始めた。

 金髪の男性は、少し肩をすくめてその後を追う。

 階段を上がり切ったところで、一人の少年が明るく二人を出迎えた。

「中はどうだった? こっちは、外に野営をした跡があったよ」

「研究者、というやつだろうな。遺跡が荒らされた痕跡はない」

「研究者なら、魔法陣に魔力を流せば使えると、突き止めていてもおかしくないですね」

 三人は、なるほど、と視線を合わせる。

「やはり人間は面白い」

 そう言って、懐かしむような視線で遠くを見る男性の黒髪に、金髪の男性が目を止める。

「……今回は、長生きするといいですね」

 これには、「そうだな」と短い答えが返ってくる。黒髪の男性は、そのまま部屋の出口に向かう。

 その姿を見送って、金髪の男性は地下への階段を閉じた。

「北の門は」

「直したよ。場所も移したし。ほんと、あんたたちは人使いが荒いよねー」

 ぼやく少年を無視して金髪の男性も出口へ向かった。

「……それにしても、この雨、もうちょっとどうにかならないのかなあ」

 二人から顔を背けた少年が、壊れた窓の外を見て、呆れたように呟いた。

多分、色んな意味で一番強いのはティル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。