時戻りの二人の友情と隠された恋心 -01-
「あの、突然ごめんなさいっ!」
ミモザの姿を見つけた瞬間、思わず手を掴んでいた。
アケーシャもまた、ミモザと仲良くなりたいと、誰よりも早く学園に来ていた。
(もう、私ったら何してるのよ!! 私は過去のミモザ様のことを知っているけど、この人生ではミモザ様とは初対面なのに……)
無礼なことをしてしまったと思い、アケーシャは謝罪した。一方のミモザは、というと、
(ほ、本物っ!? 美しい、美しすぎるっ!! 睫毛が長いっ、肌が白いっ! お人形さんみたい!!)
返事をするのも忘れて、見惚れていた。
今までの人生では、遠目からアケーシャのことを見ることしかできなかった。近くで見るアケーシャは、想像以上に美しかったから。
「……やっぱり、どこかお怪我を?」
言葉を発することのないミモザに、アケーシャは不安を募らせた。怪我をしたのではないか、と心配になり、じっと見つめてしまう。
見つめられたミモザは、きゅんと胸がときめく。
(そんなに見つめられたら恥ずかしくなっちゃう……って、違う!!)
「違うんです。嬉しいんです! とーっても嬉しいんです!! だって、アケーシャ様がっ!!」
わたしに話しかけてきてくれた、そう言おうとした瞬間、涙がぽろぽろと溢れ出して止まらなくなった。
(アケーシャ様がわたしに話しかけてくれるなんて、本当に夢みたい。しかも、友達になってだなんて。やっぱり、アケーシャ様もやり直してるのね)
やり直していなかったら、公爵令嬢が見ず知らずの男爵令嬢に「友達になって欲しい」とは言わないはずだから。
「あ、あの、本当にごめんなさいっ」
どうしたらいいか分からなくなってしまったアケーシャは、あたふたとしてしまう。
女の子の友達なんてほとんどいない。距離感も分からない。だからこそ、余計にどうすれば良いのか分からなくなってしまっていた。
そんなアケーシャを見たミモザは、不謹慎にも、親近感を覚えてしまった。
(アケーシャ様って、話しかけてはいけない人だと思っていたけど、何となく違う気がする)
自然と口元が綻んだ。
冷静沈着な氷の姫、二度の人生とも、毅然とした態度のアケーシャしか見たことがなかった。
あの卒業パーティーの時でさえ、あたふたと取り乱すことなどなかったのだから。
「ふふ、アケーシャ様、落ち着いてください。どこも怪我なんてしていませんから!」
腕や足をぶんぶんと振って、ミモザは笑った。少し手を引っ張られたくらいで、怪我なんてするわけがなかった。
その言葉を聞いたアケーシャは、こてりと首を傾げ、疑問を口に出す。
「私の名前を、ご存知なの?」
(まだ、名乗っていないはずなのに……)
もしかして、とあり得ない仮定が、アケーシャの頭をよぎる。全身にゾワッと鳥肌が立った。
(でも、そんなこと、絶対にあり得ないわ。でも……)
現に、自分がそのあり得ない経験をしている。誰かもう一人、同じ経験をしていてもおかしくはない。
「はい、もちろんです! わたしもアケーシャ様にお友達になって欲しいと、ずっと思っていたんです!」
本当に嬉しくて、花の咲くような笑みを浮かべたミモザは、何度も大きく頷いた。
その屈託のない可愛らしい笑顔に、強張っていたアケーシャの表情も和らぐ。
(ミモザ様ったら、子犬みたいで可愛いわ。王太子殿下が夢中になっちゃうのも頷けちゃうもの)
素直に感情を表現するミモザを見て、羨ましく思った。純粋に、ミモザのことを可愛いな、と思い、ふふっと声に出して笑ってしまった。
一方のミモザも、それに驚く。
「アケーシャ様が、笑った!!」
感情表現が素直すぎて、口に出していた。
「まあ、私だって人並みに笑いますよ」
「だって、氷の姫だし、それに、わたし、アケーシャ様に……」
嫌われていると思っていたから。だけど、言葉が出てこない。
「私に?」
「いえ、あの、ア、アケーシャ様は、人生やり直してるのって、何度目ですか?」
その瞬間、二人の間に沈黙が流れた。
(はっ!? しまったぁ!! もし、私の予想が外れてたら、おかしい人認定じゃない! 人生なんて普通一度きりだもの)
だけど、もうすでに、ミモザの中では確信していた。
ドクンドクン、と心臓が早鐘を打つ音だけが響く。張り詰めた緊張感の中、ミモザがその答えを待った。
アケーシャの瞳が涙で滲み、絞り出すように言葉が発せられた。
「三度目、です。もしかして、ミモザ様も?」
一筋の美しい涙が頬を伝った。まるで一筋の希望の光が差したように。
「はい! わたしも三度目です」
満面の笑みを浮かべながら答えた。
やり直しの人生を歩む二人が、三度目の人生でようやく、本当の意味で出会うことができた。




