ミモザの心苦しい恋と時戻り -13-
「わたしが許されるわけ、ないじゃない……」
目が覚めた瞬間、涙が頬を伝った。
怖い夢を見たわけではない。夢だったらどんなに良かったことか。
だけど、その全てが現実だということは、苦しいくらい分かっていた。
あの時、彼の手によって審判が下された。そして、悶え苦しみながら、ミモザは死んだ。
お菓子を口にした瞬間、彼の瞳から涙が零れ落ちるのが分かった。彼からも、大切なものを奪ってしまったことに、気付いてしまった。
だから、一度目の人生も……
「やっぱり、わたしが王太子様と結ばれてはいけないんだ。やっぱり、好きになってはいけなかったんだ。わたしのせいでみんなが不幸になる。だったら……」
自分は幸せになれなくてもいい。今度の人生こそは、アケーシャ様に幸せになってほしい。
たとえ、“彼”の瞳に自分が映ることができなくなってしまっても……
そう決意したら、涙が止まらなくなっていた。堪えようとしても、嗚咽が漏れてしまう。
「ミモザ、どうしたんだい?」
鳴き声が聞こえたのか、心配そうに部屋に入ってきた母が、優しく頭を撫でてくれた。
「お母ちゃん……」
ミモザは、ぎゅっと母に抱きついた。母の温もりは、記憶にあるままずっと変わらない。
(このまま、時間が止まってしまえばいいのに。養子になんて行きたくない)
思い切って、養子には行きたくない、と切り出そうとした。きっとまだ、養子の話はされていないだろうけれど。
「おやおや、10歳の誕生日だっていうのに、そんな顔をしてたら幸せが逃げちゃうよ。ほら、誕生日プレゼント。ミモザに幸せを運んでくれる魔法のハンカチだよ、ミモザならきっと大丈夫」
それは、あのミモザの花の刺繍が施されたハンカチーーミモザの一番の宝物。
今日は、ミモザにとって、三度目の10歳の誕生日。
ミモザの、三度目の人生が始まった。
3rd life
「お母ちゃん、ありがとう」
結局ミモザは、養子に行きたくない、と切り出すことができなかった。
刺繍のハンカチを目にした瞬間、言葉が詰まってしまい、言うことができなくなってしまった。
母が何を思いながら、一針一針願いを込めてこのハンカチに刺繍を施したのか、それが痛いほど伝わってしまったから。
(また、変えることができなかった……)
それから学園に入学するまでは、やはり状況は変わらなかった。
どんなに頑張っても、崩落には間に合わないし、教会には眠っている老婆がいる。
スコット男爵家に養子に入ると、母とは音信不通になってしまう。
(だけど、変えなければ……)
貴族学園への入学を前に、ミモザは、決心した。
「今度こそは、どんな方法を使ってでも、アケーシャ様と話し合おう」
もしかしたら、アケーシャも人生をやり直しているかもしれない。
もし、ダニエルとのことを認めていたわけではないのなら、虐めていた女生徒たちを叱責していたのも、ミモザとの関わりを一切断ち切ろうとしていたのも全て、アケーシャ自身が運命を変えようとした結果だろうから。
だから、それを知るためにも、一度だけでもいいから話し合いをしたかった。
「今度こそは絶対に、王太子様と関わってはいけないわ。何があろうとも絶対に……」
だから、最後に思いっきり泣いた。ダニエルのことを想って。そして、この気持ちに蓋をした。
******
いざ、貴族学園へと足を踏み入れた。アケーシャを待つために、誰よりも早く学園を訪れた。
一歩敷地内に入った瞬間、ミモザは突然、誰かに手を引っ張られてしまった。
驚いて、声も出なかった。目を丸くして固まるミモザに、その人はこう言った。
「ミモザ様、私とお友達になってくださいっ!」
信じられなくて、でも現実で、目の前のその人を凝視して、嬉しくて大声で叫んでしまった。
「アケーシャさまぁ!!」
一度だけでもいいから話がしたいと思っていた相手ーーアケーシャだったから。




