ミモザの心苦しい恋と時戻り -01-
「わたしが許されるわけ、ないじゃない……」
目が覚めた瞬間、涙が頬を伝った。
怖い夢を見たわけではない。夢だったらどんなに良かったことか。
だけど、その全てが現実だということは、苦しいくらい分かっていた。
今日は三度目の10歳の誕生日。
とても嬉しい日のはずなのに、自分の犯した罪の懺悔からはじまった。
ミモザもまた、人生を繰り返している。過去の人生は、二度とも殺された。
自分は幸せになれなくてもいい。今度の人生こそは、“彼女”が幸せになってほしいと心から願う。
たとえ、“彼”の瞳に自分が映ることができなくなってしまっても……
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1st life
「おはよう! 母ちゃん!!」
「おはよう。ミモザ、10歳の誕生日、おめでとう」
「えへへ、ありがとう」
ミモザは今日、10歳の誕生日を迎えた。だから今、そわそわして仕方がない。
「ふふっ、ミモザは本当に分かりやすいね。はい、プレゼントだよ。高価なものはあげられないけど、心を込めて作ったからね」
「わーい! 母ちゃん、ありがとう。やったあ!! 母ちゃんお手製の刺繍のハンカチだ! 絶対に大切にするからね」
「ああ、そうしておくれ」
「えへへ、わたしのお花だね。黄色いミモザのお花、とっても可愛い。母ちゃん大好き!!」
それは、自身の名の由来であると母が話してくれた、黄色いミモザの花をモチーフにした、繊細な刺繍が施されたハンカチだった。
「やっぱり、母ちゃんの刺繍は世界一だね!」
世界中の人に自慢ができるほど、母は刺繍が得意だった。だから、たくさんの母お手製の刺繍で、家の中が彩られている。
自分のためを思って刺してくれたこのハンカチを思う存分眺め、そして大切にポケットにしまった。
「私は仕事に行くけど、ミモザも気を付けて教会に行くんだよ」
「はーい」
「あ、そうそう、近道は通るんじゃないよ。この前の大雨で、今にも崖が崩れそうで危ないって話だから」
「……」
「返事はっ!」
「はいっ!!」
ミモザの住むウォーレス国では、10歳になった子供はみな、教会にお祈りに行く風習がある。
朝食を済ませると、ゆっくりと支度をして、歩いて教会へと向かった。
「遠いんだよなあ、歩けるかな……」
出発して早々、憂鬱だった。
王都の街の郊外にひっそりと佇む、地図にも載っていないオルザという集落に、ミモザは母と二人で住んでいる。
家から一番近い教会は、王都の街外れにある古びた教会。子供の足だと三時間はかかるほど遠い。
貧乏なミモザの家では、馬車なんて贅沢なものは頼めない。
ひたすらその長い道のりを、歩くしかなかった。
「危ないから通っちゃいけないって言われたけど、やっぱり近道をしちゃおう」
母に注意された教会への近道は、大きな岩山を迂回することなく、まっすぐに突き進むことができる。
そこを通れば、半分の時間で教会に着くことができると知っているミモザは、見事に誘惑に負けた。
「大丈夫、大丈夫。ささっと通り抜けちゃえばいいんだから」
歩きながら頭上を見上げると、今までと岩肌の雰囲気が違うことにすぐに気が付いた。突出していた岩がなくなっていたから。
「え? もしかして、とうとう崩落しちゃったの? 嘘、通れるかな?」
だけど、今さら引き返そうなんて思わない。そのまま少し歩くと、無残にも崩落した岩石の残骸が道を塞いでいた。
「違う道は絶対に嫌だもん。そんなに歩きたくない。……うん! これくらいなら行ける!!」
昔から木登りをしたり、川に飛び込んだり、山を駆け回ったりと、お転婆娘そのものだったミモザは、これくらいの岩石の残骸は、軽く乗り越えられると判断した。
案の定、ひょいひょいと軽い足取りで、岩石を上手に乗り越えていく。
「ふふ、やっぱり大丈夫そう! それに意外と楽しいし!」
その途中、ふと足元を見ると岩石の下に潰された“何か”があることに気が付いた。何となく嫌な予感がして、目を凝らして覗き込む。
「えっ!?」
一瞬にして、ミモザは青褪めた。
その“何か”が、馬車だったから。




