アケーシャの叶わぬ恋と時戻り -14-
「きっと、今日の卒業パーティーで婚約破棄をされるわ」
印を授からないこと以外の理由は思い当たらない。自分が虐めの標的にされても耐え、ミモザのことも徹底的に避けてきた。
「だけど、何が起きるか分からないもの。できるだけエイデンから離れないようにしましょう」
もしかしたら、エイデンとはもう二度と会えなくなるかもしれない。今度こそはきちんとお別れを言いたいから。
そして、卒業パーティーが始まった。
(また、お揃いの衣装……)
ダニエルがミモザをエスコートして会場に入った瞬間、一気に会場が騒ついた。
(やっぱり、この視線は本当に嫌ね。二度目でも慣れないわ)
だけど、隣ではエイデンが笑っていてくれる。それだけで心強かった。それに、今回は少しだけ特別。
「姉様のドレス姿、とっても綺麗です。会場の誰よりも」
「ありがとう。エイデンとお揃いで仕立ててもらったんだけど、嫌じゃなかった?」
この日のために、使用人のみんなに協力をしてもらい、ドレスを仕立てていた。エイデンの分もこっそりと。
エイデンなら、必ずエスコートを申し出てくれると思っていたから。
「本当に驚きました。だけど、それ以上にとても嬉しかったです。まるで、本当の恋人同士になれたみたいで……」
「ふふ」
同じことを思っていた。だけど、言わない。微笑むだけに留めた。
そして、卒業パーティーが終わりに近づいてきた頃、ダニエルがミモザを自分の背中に隠しながら、アケーシャの前に立った。
(とうとう、この時が来たのね)
ごくりと息を呑む。だけど、隣にエイデンがいてくれる。だから、覚悟を決めることができた。
「アケーシャ、お前との婚約を解消する」
「なっ……」
ずっと隣にいてくれたエイデンが、アケーシャの代わりに文句を言ってくれようとしたのを、黙って首を振り静止した。
ただ、アケーシャも驚きはしたが、すぐに答えは決まった。
「はい、承知いたしました」
素直に受け入れた。今後の自分がどうするかは、もう決めたから。
(私は、修道院に入るわ)
アケーシャは「婚約解消された自分を嫁に欲しがる者はいない、自分は公爵家の汚点だ」という理由で、修道院に自ら入ることを決めた。
それは、前の人生で貴族牢に入っていた時に、見張りの者に教えてもらったこと。今の人生がはじまった時から、ずっと視野に入れていたことだった。
(生きてさえいれば、離れていてもエイデンの家族でいられるわ)
******
「これから、修道院に行ってくるわ。もうここには来ることはできないけれど、エイデンのことをよろしくね。エイデンの願いが叶いますように」
今日もまた、あの祠に来ている。最後の挨拶をしに。
あたたかい風が優しく包み込んでくれた。いつもよりも、ぎゅっと抱きしめられているように感じて、別れ難くなってしまいそうになる。
「心配してくれてるの? ふふ、寂しくないと言ったら嘘になるけど、人生をやり直せたおかげで、私はたくさんの幸せを見つけることができたわ。きっと修道院に行っても、今の私なら幸せを見つけられると思うの。そう思えるのも、あなたのおかげね。本当にありがとう」
深く礼をして、その場を走り去った。長く居すぎると、きっと離れたくなくなってしまうから。
ざわわ、と風が吹いた。一度だけ振り返ると、アカシアの木が大きく揺れていた。まるで、大きく手を振ってくれているようで、涙が零れ落ちた。
******
修道院での生活は、アケーシャにとって存外に楽しい時間だった。
奉仕する傍ら、自分たちの手でご飯を作ったり、掃除をしたりする。他愛のない会話をしながらお茶をする時間もあった。
ごく当たり前のことだけど、全てが新鮮だった。
もちろん大変だと思うことばかり。だけど、こんな幸せもありかもしれないと思えた。
何より幸せを感じられたのは、エイデンから送られてくる手紙。
そこに書かれているのは、エイデンのことや家のこと、使用人たちのこと。
使用人のディーマが辞めてしまったと聞いた時は、とても悲しい気持ちになった。
そして、手紙の最後には決まって
ーーーー必ず、迎えに行きます
と書かれていた。
その手紙を抱きしめて、遠い未来を夢見る。
「エイデンにも、私の作ったお菓子を食べてもらいたいな」
料理をはじめたことで、新しい夢を持つこともできた。一緒に食べたお菓子の美味しさには負けるけど、修道院の仲間に教わった隠し味の量だけは負けないと思った。
しかし、なぜかこの幸せが続くことはなかった。
「エイデンからの差し入れ? これって、あの時のお菓子だわ!」
それは、王都の広場でエイデンと食べた“あんこ”入りのお菓子。
「いただきます」
あの時のことを思い出して、少しだけ顔が赤くなり、思わず口元が緩む。だけど、一口食べてすぐに違和感に気がついた。
(粒あん……?)
その瞬間
「うっ、ぐ!?」
突如として、得体の知れない苦しさに襲われる。踠いても捥がいても、苦しさは増すばかり。呼吸もできない。
ぷつり、と意識が途絶えた。




