?・?章 ??????????
「思いのほか早かったな、淡島」
くつくつと笑う影が、どこかの玉座で全てを見下ろす。
黒い襤褸布を身に纏っただけの、ひどく貧相ななりをした男だ。
頬は痩せこけ、長い黒髪は痛んでいる。布の隙間から覗く身体はあばらが浮き出るほどに痩せ細っており、骨の上にそのまま皮が張り付けられているようですらあった。
だが、中でも特徴的であるのは男の四肢であろう。
肩から先、そして脚の付け根から先が木製なのだ。
義手、義足。
男は欠損した四肢を古びた木製の器物で補っていた。
総じて、男がまともな状態ではないと分かる。電界人の命の残量を示す《魂命》も、おそらくそう多くないはず。確実に三桁を切っている。
しかし、それほど切迫した状態であるにも関わらず、男の落ち窪んだ瞳には喜悦の色が浮かんでいた。
「近い、近いな」
男はそれを拒んでいるはずであった。
それを否定することこそが男の命題。
男はそれを憐れんだ。
男はそれを哀しんだ。
そんなものに縋り続けている全人類に海溝よりも深い同情を抱いたからこそ、彼は全てを構築したのだ。
しかし――今この時ばかりは、その矛盾を肯定しよう。
己を哀れと嘆きながら、彼らと同じく打倒すべきそれに身を任せようではないか。
敗北には慣れている。彼は我が友であり、そもそも拒むものでも遠ざけるものでもない。
彼はこれまでと同じく底辺から見下しながら、〝成った〟鍵を愛おしそうに眺めている。
ギィ……ッ、と軋んだ音を立てながら、古びた木製の手を顎にやった。左手の指でカタカタと玉座のひじ掛けを叩きながら、相貌に浮かぶ笑みがさらに深く刻まれる。
それらの所作、ひとつひとつから気品が滲み出している。
億人に聞けばその全てが彼を弱者であり、虐げられる底辺の存在であると断じるであろう容姿。しかして、その奥より溢れ出し空間を満たす神気・神威は真であり、もしもここに人がいれば、その威光にとも呼べぬ昏い光に魅せられ、畏怖と畏敬を胸に首を垂れ、忠誠を誓うことであろう。
「我が愛する平等のために」
真に求めた理想を胸に、男は矛盾を自覚しながら誓いを立てる。
「真なる平和を築くがために」
遥かな過去に道は定めた。
長い年月を掛けて入念に準備も行った。
一度として、一秒とて気を抜いたことなどない。
故に、男の理想は成就する。
「君たち全人類を、その檻から救い上げるために」
世界は動き始めた。
最後の歯車を得たことで、停滞した秒針は救済へと進み始めた。
歪み、歪んだ、歪な世界構造を正すために。
哀れな子羊を救うために。
男の計画は緩やかに滑り出す。
「さあ――、やり直そう。我らが求めた真なる無色はすぐそこに」
この者、かつて五柱ありし神秘の反逆者、その最後の柱なり。
担うは『零化』――故、男の理想がまともなものであるはずがなく。
しかして、混沌も創造も平均も可逆もおらずとなれば。
男が理想を掴むか否か、もはや論ずるまでもないだろう。
真なる無色はすぐそこに。
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真・序章 無色なる理想の担い手