基地攻略戦
行軍は大貴族達のせいで非常にゆっくりである。
5万の大軍という事もあり1日に4㎞も進んでいないかもしれない。後ろに配置されているため、出発が昼過ぎになる事が普通になってきた。
さらに貴族同士の喧嘩、酒宴。さらには行軍を止めての狩り。ここから奪われた物資集積基地までは20㎞はあるそうだ。
辿り着くまで何日かかるのか。
夜が明けると陣は大騒ぎになっていた。
夜襲を受けて貴族が混乱を大きくし、大損害を出したという。特に大貴族のいた場所は被害も大きく、30人を超える貴族が死んだそうだ。
「酒宴の最中に襲われて死んだようですよ。さらに宝石を抱えて死んでいた貴族も。今回は被害が大きく隠蔽もできなかったんでしょう。」
男爵様も頭を抱えている。
今回は戦死と認められないという。
さらに処罰までありえる。
ようやくまともな進軍が始まった。
いや、疲れなんて考慮しない無茶な進軍だった。
基地までの20㎞を3時間で走破。さらに軍を整える前に突撃命令。当然攻城兵器も到着していない。
オルファン達が到着した時に見たものは炎上する基地であった。
「良かった!勝ったんですね。」
男爵様が無邪気に喜んでいる。
「主様、警戒を。これは油の臭いです。」
万見仙千代が警告を発する。
前方で悲鳴が上がった。
アテナイ都市連合国家は物資集積基地をエサにした。雪崩れ込むミカサ王国軍を誘い込み、門を閉じて火を付けた。さらに迂回させた兵で敵の本陣をつく。もとより死を覚悟しての侵攻である。
基地に残り、ミカサ王国兵と共に焼かれた兵もいる。死兵の突撃は凄まじかった。
「死兵にはあたるべからず。」
織田信実が呟く。
「彼らは燃え尽きる前の火ですな。勢いが衰えてから討つのが定石ですがの。」
永池筑後が解説する。
確かにあれに正面からぶつかると、こちらも只では済まないだろう。現に多くの兵や探索者、冒険者が討たれている。
男爵様を見る。顔が真っ青だ。
「な、なんとかならないかな。」
あれをどうにかしろと。
「前からではなく横と後ろから攻撃しよう。」
これならなんとかなるはずだ。
「正解ですな。」
どうやら自分を育てるために答えを言わなかったようだ。
「騎馬の稲津殿、佐脇、山口、加藤は回り込んで追撃じゃ。ワシと永池殿、三段崎殿、羽川殿、足立殿は横槍を入れる。オルファン様は残ってくだされ。蒲田殿と万見はオルファン様をお守りしろ。
服部殿は男爵殿に付いてくれ。」
織田信実が指示を出して駆け出す。
今はまだ一緒には戦えない。
でも、いつかは。
侍達によりアテナイ軍は確実に兵を減らしていく。
すでに本陣に侵入を許しているが少数だ。
「行こう。」
剣を抜いて駆け出す。
本陣の混乱が酷い。
これでは本陣が敗走してしまう。
貴族目掛けて降り下ろされた剣を剣で受け流す。
貴族達は戦いもせず逃げ惑っている。
いや、どっしりと構えて指示を出すオッサンがいる。この混乱で誰も聞いていないが。
貴族に襲いかかる敵兵を後ろから斬る。
未だにドレス姿の女貴族もいる。半裸の女性もいる。敵兵を見付けては斬る。
渾身の突き受け止められた。マズイ。
重心の乗った足が血だまりで滑る。
アッ!!
気付いたら敵の腹に剣を突き立てていた。
「パージェス将軍!!」
敵の動きが止まった。
敵の将軍を討ち取ってしまったようだ。
え?どうしよう。
敵の抵抗が弱まり勝鬨が上がったのは暫くしてからだった。
アテナイ軍6千は全滅。ミカサ王国軍はその数を3万に減らしていた。負傷者も1万近くいる。
苦い勝利である。
勲功第一は本陣で多くの貴族を助け、アテナイ三名将の1人パージェスを討ち取ったオルファン。
勲功第二は敵軍に少数で突撃し、本陣への攻撃を防ぎ続けた侍達。
勲功第三は前線を指揮して焼死した6人の貴族。
あれ?どうしましょう。