老兵
ガシャドクロの進行を阻めず、スケルトンには数で押される。ゴースト達は自由に出入りし、ゴーレムは城壁を壊していく。オーガは死を振り撒き、数多の魔物はグルーン目掛けて進軍を行う。されど魔物の混成は魔物同士の殺し合いも誘発し、戦いは混迷を深めていく。
ここに1人の老兵在り。
「さて、この老骨も死んでくるかのぉ。」
かつて名を馳せた探索者であるゲドー。歳を重ねてもダンジョンに潜り続けていた。何度か財宝を手に入れて話題になった事もあった。しかし、足を負傷してからは商人トーマスの元でスカウトをしていた。経験を生かして才能ある若者を見極め、トーマスの陣営に誘うのだ。必要ならば指導も行っていた。
ちなみにこの老人のオルファン評は「センスは欠片も感じられない。今の力はたゆまぬ鍛練によるもの。計算や読み書きが出来る等、高い教養を持つ。どこかで高度な教育を受けていると思われる。」であった。
都市の代表の1人であるトーマスの元にも全ての情報が入っているわけではない。今把握できているのはガシャドクロを始めとする死者達とゴーレムであった。
「神殿は避難民の保護と負傷者の手当てで精一杯ですか・・・。通常の倍のお金を出します。聖水と護符を神殿から貰えるだけ貰ってきてください。至急です。」
部屋にはトーマスが1つ1つ指示を出していた。
「犯罪奴隷共を連れて行くぞぃ。」
ゲドーはそれだけ声を掛けて出て行こうとする。
「まだ数が集まっていません。今、亜人達も集めているところです。もう少し待ってください。」
「既に先手を取られとる。さらに押し込まれれば都市は灰塵と帰すぞぃ。時間は稼ぐ。後は任せたぞぃ。」
議論は無駄。戦わねば負けるのだ。簡単な装備を与えられた犯罪奴隷達が中庭で待機していた。
「おぅ、クズ共。都市のために死んでもらうぞぃ。」
向かう先は戦場である。
「いいか、燃やせぃ。ウッドゴーレムは油を掛ければ良く燃える。まずはウッドゴーレムを燃やせぃ!!」
ゲドーは犯罪奴隷達に油と松明を持たせ、ウッドゴーレムに突撃を敢行させた。奴隷が死んでも油は拡がり、炎でウッドゴーレムが焼かれていく。非情な策であり、普通ならばしない。だが今は時が惜しいのだ。
「ここで食い止めよ!!死んで役に立てぃ!!」
都市の代表であるトーマスもマグリットも優秀だ。時間さえ有れば対策を練るだろう。都市にいる探索者達も強者が多い。軍に匹敵するような集団もいる。あの不器用な小僧も竜人を引き連れて都市に戻ったと聞いた。
「ふん。このグルーンは陥ちんよ。」
ゲドーの目前には火の海が拡がり、黒煙を上げている。ウッドゴーレムは早々に燃え尽き、炭と化した。
「生き残った者はクレイゴーレムに突っ込めぃ!!」
熱により、クレイゴーレムの水分は失われている。弱い衝撃でも脆く崩れるだろう。ゲドーの策は2段構えであった。普通に戦えば奴隷達では太刀打ち出来ぬウッドゴーレムとクレイゴーレムを滅した。されどここまで。ストーンゴーレムとアイアンゴーレムは未だに健在である。
「ここまで、かのぅ。」
未だに立ちし者はゲドー1人のみ。足が悪いため、逃げる術などない。いや、元より逃げるつもりはなかった。杖代わりの槍を構える。
「楽しかったのぉ。」
ストーンゴーレムがゆっくりと近づいてきていた。