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不自然なほど長い一話目で、気づいた方がいらっしゃるでしょうか。
私、短編を投稿したつもりで、連載一話目を投稿しておりました。
予約投稿されたあと、連載になっていたと知り、どれだけ驚いたか!
既に感想も頂いて、取り下げるのもなんなので、短期間で数話で完結させます!
元の街に戻ったとき、人の獲物を食べたという風評被害はなくなっていた。
「カエルクン、変な物を口に放り込まれたんだってな。腹壊さなくて良かったな」
そんなふうに変化していた。
「だから、食べてないってば!」
「口に放り込まれて飲み込んじゃったんだろ。あ、無事に出たのか? なら良かったな」
乙女になんてことを言うんだー!
出たってなんだ、下からか、上からか。
どっちでも乙女に言うことじゃないよー!
まあ、皆からしたら両性類なので、乙女じゃないんだろうけど。
久しぶりに顔を出した元の街の冒険者ギルドを、私はむっつり口を引き結んでプリプリ怒りながら出た。
まあ、着ぐるみに隠れて、不機嫌顔はみんなに見えないんだけどね。
こういうとき、着ぐるみは不便だ!
「あ、カエちゃん! うちに寄ってくの?」
不機嫌にスタスタ歩いていたら、上機嫌なミロくんに声をかけられた。
パン屋の看板娘エマちゃんの弟だ。
最初は着ぐるみのカエル君に人見知りしていたミロ君だけど、最近はよく声をかけてくれる。
ときどき抱きついてきて、懐かれたみたいだ。
うん、わかる。
ふかふかマフマフのカエル君ボディは、魅惑の着ぐるみボディだからね。
子供は抱きつきたくなるよね。
今も私は不機嫌だったのに、ミロ君はニコニコして手をつないできた。
カエル君グローブと手をつないで、私をパン屋へ引っ張っていく。
ん、まあ、そうか。
着ぐるみがスタスタ歩いていても、不機嫌っぽく見えないからね。
ミロ君から見たら、カエル君が元気に歩いている状態だったのだろう。
元気に歩く着ぐるみと手をつなぎたくなるの、わかるわかる。
着ぐるみは異世界でも人気者なのだ。
ここは気を取り直して、パン屋でおいしいパンを買って食べよう!
旅の途中に他の街のパンを購入したけれど、ミロ君のところのパンがやっぱり一番おいしい。
私が「こういう商品が食べたい!」と言ったものを再現してくれたので、食べたい商品が色々あるんだよね。
惣菜パンを食べたい気分になってきた。
「今日の日替わり商品は何かな」
ミロ君に聞くと、ハンバーグパンだという。
なるほど。おじさんの焼いたハンバーグパン、おいしいよね!
よし、ライ君の分と、リョク君は食べないけど、余分に買っておこうかな。
カエル君カバンに入れておけば、食べたいときに食べられるしね!
『カエ、ご機嫌なおったね!』
リョク君が着ぐるみの中から飛び出し、カエル君の頭の周りをクルクルと飛ぶ。
「うわっ、なんだコレ!」
薄く透けているリョク君が姿を見せて、ミロ君が驚いて下がった。
ちょうど大通りを歩いていたときだ。
目の端で、勢いよく走ってくる馬車がいるから危ないなあと思っていたところだった。
「うわああ、ミロ君!」
私は慌てて踏み込んで、ミロ君の手を引き体でかばった。
ドン、と私に馬車がぶつかる。
衝撃に目をつむったけれど、カエル君ボディは頑丈だった。
大きな音がしたけれど、体に痛みはない。
「ミロ君は、怪我はない? 大丈夫?」
抱き込んでいたミロ君を放し、怪我を確認する。
「う、うん。大丈夫。でも、あっちの馬車が」
ミロ君の視線に振り返ると、馬車が横転していた。
しまった。無敵のカエル君ボディに当たった馬車が無事じゃなかった!
「うわああ、大事故だ! 中の人、大丈夫ですかー!」
御者の人は、地面に尻餅をついているけど無事みたいだ。
馬もブヒヒンと元気に嘶いている。
でも横転した馬車の中が心配だ。
慌てて駆け寄り呼びかけ、横転している馬車の御者席から覗き込む。
と、縛られている子供がいた。
んん? 縛られている、子供?
こちらを見て怯えた顔をしている。
「……誘拐?」
呟いたら、御者の人が立ち上がり、殴りかかってきた。
ええーっ! 最近こういうの、多い!
いきなり暴力を振るうのはダメだよー!
御者の人だけでなく、馬車の中にいた男の人も、出て来てカエル君に殴りかかってくる。
「うわーんっ!」
怖い顔で向かってくる人たちに、ミロ君が泣き出した。
ええい、こうなったら応戦だ!
カエル君パンチ! キーック!
ミロ君をかばって、男の人たちに攻撃したら、彼らは簡単に気絶した。
あれ、けっこう弱かったな。
馬車の事故と乱闘騒ぎに、街の巡回騎士さんがやってきた。
この街では、ライ君不在の間もそれなりに長く過ごしていたので、すっかり顔見知りの人たちだ。
「ミロ君が馬車にひかれそうになって体でかばったら、馬車の方が倒れてしまって」
まずは事故の経緯を簡単に説明すると、騎士さんが額に手を当てて天を仰いだ。
「まあ、カエルクン、強いからな。非常識に」
ちょっと、非常識ってどういうことなのか。
「街中であんなスピードで走る馬車が悪いと思う」
「まあ、そうだろうな。そういうことにしておこう」
ちょっと、そういうことにしておくって、どういうことだ。
「それで、馬車の中の人が大丈夫かなって思ったら、縛られている子供がいて」
「あーっ! 誘拐だーっ!」
私と同じく御者席から馬車の中を覗き込んだ騎士が、大きな声を上げている。
だよね、やっぱり誘拐だよね。
馬車から出されて助けられた子供は、縛られていた縄を切られて立ち上がると、きりっとした顔つきになった。
そして騎士さんと話す私に、不思議そうな顔を向けてくる。
「彼は沼地の一族ですよ。カエル人間のカエルクンといって冒険者なんです」
「ほう、冒険者か。奴らの一味ではないのだな」
口調もしっかりしている。
小学校高学年くらいに見えるのに、ずいぶんしっかりした子供だ。
「カエルクンは優秀な冒険者ですよ。マット商会の跡取り夫婦が魔獣に教われているところを助けたり、領主のお嬢様が襲われているところを助けて下さったこともあります」
「お嬢様の件は、政治的に泣き寝入りするしかない相手が差し向けた連中だったんですが、カエルクンはこう見えてSランク冒険者の相棒でしてね」
「彼自身は冒険者登録して一年にもならないのですが、ご覧のとおり馬車にぶつかっても無傷という頑丈さと、子供を庇いながらでも相手を倒せる強さです。Sランクの方の相棒として遜色ありません。そのためお嬢様の件も、相手が手を引いてくださって助かりました」
「今も馬車にひかれそうになった子供を助けたことで、あなたが誘拐されていることが発覚したんです」
おお、騎士さんたちの扱いが、迷惑な事故を起こしたカエル君扱いから、誘拐被害の子供を助けた英雄カエル君になっている!
私は鼻高々になりながら、ミロ君の手を引いて立ち去ろうとした。
男の子は騎士さんが身元確認をして保護するみたいだから、私はいなくても大丈夫だろう。
事故が起きなければ、パン屋に行く予定だったんだ。
あまり遅くなると売り切れてしまうから、私は行かなければならないのだ。
そう思っていたのに。
「おい、冒険者なら護衛として雇うから、家へ戻る手伝いをして欲しい」
誘拐されていた子供が、そんなことを言ってきた。
ええー、面倒だなあと思って、聞こえないふりで立ち去ろうと歩き出す。
「待て、カエル人間!」
男の子は騎士さんたちを振り払い、追ってきた。
「やだよー、パンが売り切れちゃうよー!」
私は逃げた。
「そうだね。そろそろ夕方になるからね」
ミロ君もそんなことを言うので、彼を抱き上げて私は駆け足になる。
抱き上げられて運ばれるミロ君に、リョク君が話しかけた。
驚いていたミロ君だけど、可愛いリョク君の話し方に、すぐに馴染んでおしゃべりをする。
おお、もう友達になった!
子供同士はこういうの、早いよね。
パン屋に駆け込んだら、ハンバーグパンは残り三つだった。
慌てて三つとも確保して、新しく品出しされていたコロッケパンも買う。
「明日は焼き肉パンにするからね」
「おおーっ! あの豪華な焼き肉を載せたパンだね。前に食べたやつ、美味しかったからねー!」
エマちゃんの予告に、私は明日も買いに来ることを心に決めた。
「カエちゃんが教えてくれたレシピだからね。多めに焼かないとすぐ売り切れちゃうんだ」
「明日は朝いちばんに買いに来るよ!」
私が「こういうのを食べたい」と言ったのが発端だけど、美味しいパンとして実現したのは、この店の人たちが熱心に試行錯誤したからだ。
彼らは売り上げが増えて、私は食べたい物が食べられて、いいこと尽くしだ!
買ったパンをカエル君カバンに入れて、意気揚々とパン屋を出たら、騎士たちを従えてさっきの男の子が待ち構えていた。
「助けてくれたことには礼を言うが、無視をするな!」
プリプリ怒っている。
正直に言えば、見た目が可愛い男の子なので、怒ってもあまり怖くない。
でも頭を撫でたら怒られそうな雰囲気だ。
「だってパンが売り切れるところだったんだよ!」
私が言うと、彼はさらに眉をつり上げる。
「食い物程度のことで、私を無視したのか!」
「程度じゃない! ごはんは、とっても大事だよ!」
私が言い返すと、彼は口を曲げてしばらく黙り込んでから。
ぐうっと、お腹の音が聞こえた。
あれ、私じゃないよね。
お腹を鳴らしたのは、男の子の方だった。
「あー、誘拐されててお腹が減ってるよね。串焼きでも食べに行こうか」
パンを買ったので、次は広場の串焼きを買いに行きたいのだ。
串焼きは何種類かお店がある。
今日は久々なので、いろんな串焼きを買う予定だ。
今夜食べるのは、鳥串かな、牛みたいなやつもいいな。
「いや、カエルクン、彼に串焼きはちょっと……」
騎士さんが困った顔になっている。
あー、だよね。
いい服着てるし、たぶん貴族の子供だよね。
この世界は領主様とか、国王様とかがいるみたいだ。
貴族とか、庶民とはまったく違う世界の人だよね。
領主の娘さんは私に好意的だけど、屋台の串焼きとかは食べないよね。
むしろ上品なお店に招いてもらって、個室でごはんをご馳走になった。
「串焼きか。いいだろう、食おう」
騎士さんたちは止めたけれど、男の子は串焼きを食べる気まんまんになった。
あれ、いいのかな?
そう思いながらも、私は串焼き屋さんの並ぶ広場に向かう。
「おじさーん、この鳥のタレを、えーと……十本ください!」
これはパンと一緒に食べよう。
ライ君も食べるから多めにしよう。
「あとこっちのお肉の、塩のやつも十本!」
牛肉みたいなコレも美味しいんだよね。
男の子は、自分で買うでもなく私の行動を見ている。
あれ、もしかしてお金持ってないのかな。
そうかも知れない。誘拐されてたんだしね。
「この牛串、一緒に食べる?」
ひとりだと食べにくいだろうから、広場のベンチで私も食べることにする。
手を引いて連れて行き、ベンチに腰掛けて牛串を一本渡した。
彼は串焼きを手に、戸惑う顔をしていた。
ここは私が食べてみせるべきか。
あ、しまった。着ぐるみのままだと食べにくい。
でもまあ、口から突っ込めばなんとか食べられるかな?
カエル君の口を大きく開けて、串を奥まで突っ込めば、お肉が私の口元に来た。
うん、美味しい!
「おい、お前、大丈夫か!」
男の子が慌ててカエル君の口を覗き込んでくる。
あ、ヤバイ!
「こんなに口の奥まで串どころか手を突っ込んだら危な……」
声が止まった。
というか、カエル君の口から串を突っ込み、自分の口で食べている私と、目が合った。
合ってしまった。
というわけで、あと一話か二話か、短い連載にします。
一話目だけの短編のつもりだったので、自分でもびっくりです。
なぜ間違ったかわかりません!
他にもカエル君用のメモは残っていたので、なんとか連載を続けて、この三連休で完結に持っていきます。
即座にご感想くださった方がいらして、あと数話連載として成り立たせようと思い切りました。
ご感想くださってありがとうございました。
あれがなかったら、いっそ短編として再投稿していた気がしております。
さあて、短期間でがーっと行きますよ!




