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以前投稿した「異世界を着ぐるみで歩く」の続編です。
1作目をお読み下さる方は、作者名かシリーズ名からお願いします。
細かい設定はすっ飛ばして、カエ視点でのゆるっと異世界冒険話の続きです。
私カエデは着ぐるみバイト中、男子高校生たちの異世界召喚に巻き込まれた。
今は異世界生活で『カエル人間のカエル君』と名乗っている。
とても不審に思われそうだけれど、名乗りを聞いたみんな「沼地の一族なのか」と納得してくれた。
ハーイ、私は沼地の一族なカエル人間のカエル君です!
沼地の一族が何かは、今も謎なのだけれども。
着ぐるみで召喚されたら、ぬいぐるみとして放置された。
でもそのおかげで、不穏な話を聞いて、逃げることができた。
お城から逃げ、森の中で迷った私は、道案内を求めていた。
土牢に繋がれていたヒゲもじゃライ君を助けたことは賭けだったけど、あのときの自分は是非とも、褒めてあげるべきだ。
うん。あのときの自分用に、おいしいお菓子を買おう。
いったんお供えしたら自分で食べよう。そうしよう。
二人で別の国に逃げ延びたあと、ライ君は自分が捕まった原因を解決するために、単身元の国に戻って活動。
私は冒険者として異世界生活を開始。
そして一族の女王様を助けたライ君が、無事に帰ってきてから、およそひと月。
居着いた街での冒険者活動は順調だ。
今日ライ君は、ひとりでお出かけをしている。
Sランク冒険者として、何やら依頼が入ったそうだ。
その間、私はお裁縫タイムだ。
下着の制作や、新しい服の調整が必要なのだ。
私は普段、カエル君着ぐるみで異世界生活をしている。
なぜなら特殊な魔力を持つ、異世界の女とバレてはヤバそうだからだ。
実際どんなヤバさがあるのかは知らない。
でも男子高校生たちと召喚され、ぬいぐるみとして放置されていたあのとき、現地人が立ち話をしていたのを聞いたら、ヤバそうだと思った。
特殊な魔力を授かる異世界の女を、隷属させたい。
うん。物騒だ!
ライ君はたぶん知っている。
私は特殊な魔力をライ君に使ってしまったし、カエル君の中身である私本体も見られている。
なんなら今では毎日、着ぐるみを脱いで一緒に食事をしている。
でも何も訊いてこない。ありがたい。
「うん、このくらいあれば、いいかな」
布で下着もどきを作成して、着ぐるみの下に着るお洋服を調整して。
私が私としてお買い物に行ければ、こんな服の調整は必要ないのだろう。
でも着ぐるみの私が定着してしまった今、着ぐるみなしには異世界を歩けない。
「よし、動きにくかった肩の部分も大丈夫だ。いざ、お買い物にゴー!」
カエル君カバンは、亜空間収納の魔法のカバンだ。
美味しい物を買って、これに入れておくのだ!
というわけで、私は着ぐるみを着てカエル君になると、宿の外へ出かけた。
中の服は調整したばかりで、快適だ。
宿の前には可愛いお花の鉢植えがある。可愛くてキレイだ。
さあて、今日は何を買おうか。
定番はパンと串焼きと具だくさんスープ。
パンは新製品が出てるかな。
日替わりで作られる今日のスープは何かな。
串焼きは、今日はタレを買い込むか。いや、塩と半々にするか。
甘い物も欲しいなあ。
焼き菓子のお店に行こうかな。少しお高いけど、おいしいんだ。
ウキウキと食べ物のことを考えながら歩いていると、変なものが見えた。
道に葉っぱ? 枝?
なんだか植物らしきものが落ちているけれど、動いている。
魔物、じゃないよね。
植物の魔物ってたまにいると聞くけれど、こんな街中にいないよね。
よく見ようと、大きく開くことも出来るカエル君の口を近づけ、私の顔を少し覗かせたときだった。
その植物もどきが私に向かって飛び込んできた。
正確には、カエル君の口の中に飛び込んできた。
「うわあ!」
私も声を上げたけれど、もっと大きな声が少し離れた場所から聞こえた。
「お、お前、食べたな!」
食べた? 何を?
あ、そうか。カエル君の口から飛び込んだから、食べたになるのか。
「食べてないよ」
私は言ったけれど、確かにあれは口から入り、今は私本体の首の後ろにいる。
どうしたものか。着ぐるみを脱ぐわけにはいかないし。
そう考えていると、大きな声を上げた人が、私に斬りかかってきた。
え、斬りかかるの? なんでそんな物騒なの!
咄嗟に防御態勢をとったら、カエル君着ぐるみの腕が、がっしりと攻撃を防いでくれた。
うむ。カエル君、今日も無敵だ。
そうするうちに、人が集まってくる。
「こいつが食ったんだ!」
「食べてないよ!」
相手の主張に、知り合いの冒険者が首を傾げる。
「カエルクン、変なもの食ったのか?」
「だから食べてないよ! 口に飛び込んできただけだよ!」
「……それは食ったことになると思う」
ああーっ!
どうしよう、この子をつまみ出せば、解決しそうだけど。
でもこの斬りかかってくる男の人を放置できない。防戦は必要だ。
着ぐるみから手を抜いて、自分の首の後ろに手を回すという行動ができない!
焦っていたところに、ライ君が来た。
「おい、カエ! お前カエに何してる!」
相手の男を、あっさり取り押さえてくれた。助かった。
「こいつが、せっかくの獲物を食ったんだ!」
「だから食べてないって。口から飛び込んだだけだって!」
ライ君は何かを察してくれた。
「獲物って何だ?」
訊くライ君に、途端に相手は歯切れが悪くなる。
「いや、あの、その……」
そして、逃げた。
え、逃げた?
「えー……」
言いがかりをつけるだけつけて、私に斬り付けて、逃げた。
この微妙な空気をどうしてくれるんだ。
残された私は、変な物を食べた疑惑の視線に晒されていた。
「カエルクン、腹を壊したら、ちゃんと医者に行くんだぞ」
顔見知り冒険者から、そんな忠告を受けた。
うえーん、違うよーっ! 食べてないよーっ!
仕方がないから宿に戻り、着ぐるみを脱いで、ライ君に私の首の後ろを見せた。
ぴったりと私に貼り付いたままの何か。
「あー……なるほど、解決した」
んん? 解決ってなに?
「そいつの捜索依頼が出ていたんだ。ドライアドの森に入って、乱獲していた奴らを捕まえたけど、子供ドライアドが持ち出されたままだって」
ドライアド、とは?
私の疑問の顔に、ライ君が説明してくれた。
植物の妖精みたいなものだという。
ふうん、としか言いようがなかった。
「清浄な魔力を好む奴らだ。カエの魔力は、こいつにとって気持ちいいんだろうな」
ほうほう、それでカエル君に飛びついたと。
正確にはカエル君の口から、私に飛びついたと。
「ドライアドたちは先に、彼らの森に返されたが、そいつの捜索を引き受けたんだ。でも今、解決した」
あー、ライ君への依頼だったのか。
「そいつを送り届ければ、依頼完了だ」
「おお、じゃあドライアドの森とやらに行くんだね」
「そうだな。カエ、付き合ってくれるか?」
「もちろん!」
旅は快適だった。
ライ君は旅慣れているので、色々と頼りになる。
夜は結界魔法を張ってくれるし、妖精の森の入り口をあちこち知っていて、知らない間にショートカット出来るんだ。
ライ君は、自分のことを古代種の一族だと言った。
なんと妖精界の入り口を守る役割を持つ一族なんだって。
そのため、世界の狭間の森に入れるそうだ。
よくわからないけれど、あの特別な森のフルーツは美味しい。
アダブの実の他に、苺みたいな実や、ブルーベリーみたいなのもあった。
「これは魔力の実だな。こっちは活力の実」
なんだかRPGでゲットしたい実の名前だ。すごい!
そして美味しい! そこが大事。
効果はわかるような、わからないような。
でも美味しいから、わからなくてもいい。
「カエ、この実は売ったらすごい金額になるんだぞ」
「言わないで! 言われたら食べれなくなるから、言わないで!」
そこらに実っている果実だと思うから、存分に食べられるんだ。
高級フルーツと知ったら、怖くて食べられなくなるんだ。
そう主張すると、ライ君はうははと笑った。
「カエは楽しいな」
なんだよ、楽しいって。面白がっているのか。
「妖精界になんとか入り込んで、この実を奪い取りたいという奴は、けっこういるんだぞ」
「物騒な話しないで! おいしい話だけにして!」
美味しい果物を食べながら、そんな物騒な話はいらない。
そう主張すると、また楽しそうに笑われた。
「だからカエのことは、安心してここに連れて来ることができるんだ」
んん? 近道だから来てるんじゃないの?
まあでも、稀少植物とか色々とあるこの森は、確かに変な人を連れて来たら危険だよね
採り尽くされたら困るよね。
あのドライアドの子供は、私に懐いてくれている。
なので、リョク君と呼ぶことにした。
緑の葉っぱがついているので。
我ながらいいネーミングだ。
今日から君はリョク君だよーと話していたら、ライ君が額を抑えて天を見上げていた。
名前をつけては、いけなかったらしい。
「名付けをしてしまったら、絆が出来る。オレのカエが……」
やってはいけないことをしてしまったのなら、申し訳ない。
リョク君は嬉しそうだけど、ライ君が深刻な顔をしている。
「今後何か、リョク君に悪影響があるのかな」
リョク君の将来に影響するのかと私は心配したのだけれど。
「いや、まあ……悪影響はない。大丈夫だ」
深刻な顔だったライ君だけど、悪影響はないみたいだ。
それならヨシ。
そんな話をした日の夜のことだ。
私が焚き火の傍で寝転がっていたら、ライ君が真剣な顔で私を覗き込んできた。
「カエにとって、オレは特別だよな」
「もちろん!」
ライ君は、私にとっての第一異世界人だ。
この世界のことを教えてくれて、とっても頼りになる人だ。
そして冒険の相棒だ。
カエル君の中身の私のことも知っているので、色々と気が楽だ。
そんな思いを込めて頷いたのに、ライ君は微妙な顔をしている。
「カエはオレに、倒れてしまうくらいの特別な魔法を使って助けてくれた。オレにとっても、カエは特別なんだ」
ライ君は、最初はヒゲもじゃだったくせに、ヒゲを剃ったら顔が良かった。
こうやって真剣な顔を向けられると、ちょっとモゾモゾする。
「オレは頼られるばかりだったから、カエが倒れてまで助けようとしてくれて、しかも中身はこんなに可愛くて……特別なんだ」
なんだか気恥ずかしくて、逃げたくなる。
「ライ君はヒゲもじゃ、ライ君はヒゲもじゃ、ライ君はヒゲもじゃ!」
そう唱えて、ヒゲもじゃライ君を思い出す。
うん。平常心に戻った。
「あー、変な空気でびっくりした。よしライ君、変なこと考えてないで、もう寝よう」
「変なこと……」
ライ君は、覗き込んでいた姿勢を崩して、地面に横たわった。
うん。寝よう。
「おやすみー」
「……カエ、倒れるほど無理して魔法かけてくれたのに、オレのこと特別じゃないとか……」
なんかライ君がぶつくさ言ってるけど、寝よう寝よう。
明日も元気に歩かなくちゃ!
翌日は、さらに不思議な森を進み、妖精というものを初めて見た。
光の粒みたいなのが、ふわふわしていた。
彼らは基本、妖精界に住んでいるけれど、この狭間の森にも遊びに来るらしい。
手のひらに魔力を集めたら来るよと言われて、魔力を集めたら、ふわふわ寄ってきた。
なんか可愛かった!
ライ君以上に私の方に集まってきて、優越感だった。
おおお、妖精に好かれている! すごい!
「カエの魔力は、妖精に好かれるんだな」
ライ君にもそう言われて、私は得意な気分だ。
なぜかリョク君まで、私の手のひらの魔力に寄ってきていた。
ヨシヨシ。リョク君にはあとでまた魔力をあげるからね。
ひとつ目の街は、以前も来たことがある街だった。
ライ君と冒険をするとき、たまに遠出もする。
そんなときによく来る場所なんだ。
でも今までになかった出来事がひとつあった。
なんと、沼地の一族とやらに出会ったのだ。
私はカエル人間だと名乗るたびに、沼地の一族かと納得された。
両性類だと言うたびに、沼地の一族かと納得された。
ちなみに両性類は言い間違いではない。
カエルはもちろん両生類だが、私は両性類だと言い張っている。
中身が人間の女性とバレないためにも、あえて両性類と名乗るのだ。
その沼地の一族は、ネズミっぽかった。
あれ、沼地の一族って両生類とか爬虫類じゃないの?
名前から、そんな気がしていたのだけれど。
「あっちの奴も沼地の一族だよな」
あちらもそんなことを呟いて、私を見ている。
そして首を傾げて、挨拶をしてきた。
「はじめまして、ネズミ一族のチュウと申します」
「あ、はじめまして。カエル人間のカエル君です」
「カエルニンゲン…族? まあ、色々おりますからな」
色々、いるんだ。
どういうことかな?
疑問に思いながらも、挨拶をして別れた。
するとライ君がちょっと笑いながら、説明してくれた。
川の向こうは獣種の土地だという。
一方川のこちらは主に、人種が住んでいる土地だとか。
川の向こうでは、獣種の中で優劣を競い、序列があるそうだ。
単純に強い種族もいるけれど、ずる賢く生きる種族もいる。
そしてあるとき、強かったりずるかったりしない、生き残る力の弱い獣種が迫害され、住みにくい沼地に追いやられた。
ある程度強くても、少数で見た目が変わっているために迫害された者もいた。
つまり沼地の一族は、獣種の主流の人たちに追いやられた、はみだし獣種ということらしい。
小動物系もいれば、爬虫類や両生類的なものもいる。
つまりカエル人間がいても、不思議ではない。
そして私が両性類だと言い張っても受け入れられたのは、沼地の一族には変わった種族もいて、単独繁殖が出来たり、性転換が出来る種族までいるそうだ。
おお、なるほど。少数獣種は多彩だね!
思えば私は、カエル人間と名乗ったけれど、実はフカフカまふまふ系の触り心地だ。
両生類っぽくはない。
なので沼地の一族と言われて、いいのかなと思ったけれど、いいらしい。
今回沼地の一族が何かを知ったことで、堂々と沼地の一族を名乗れそうだと思った。
そして堂々と両性類と名乗っても平気だと知り、安心してこれからも名乗ろうと心に決めた。
それにしても、川向こうのあちらは獣種の国だったのか。
召喚されたあのとき、男子高校生たちがゴリラゴリラと言っていたけど、あの国はゴリラの国だったのかな。
「ああ、あそこは猿族の国だな」
私の疑問に、またもライ君が答えてくれる。
やはり実際にゴリラがいたのか。
あの高校生たちは、元気にゴリラたちに馴染んでいるだろうか。
元気に過ごしていてくれたまえ。
私は遠い空の下、一緒に召喚された男子高校生たちに思いを馳せた。
どっち方向か、実はよくわからないけれども。
「さて、ここらがドライアドの森だ」
ライ君が宣言した。
異世界の森の区分が私にはわからないので、とりあえず頷いておいた。
なんだか空気がおいしい気はする。
あと奥の方でわさわさ動いている木がある。
あの生きている木がドライアドだろうか。
「もう少し奥に行ってから、そいつを下ろそう」
ライ君に言われて、森を奥の方まで歩く。
動く木は、別に攻撃などはして来ず、わさわさと枝を揺らしていた。
踊っているみたいで、ちょっと楽しい。
そしてしばらく行った場所で、ここらでいいかと言われ、リョク君を地面に下ろしたら。
「うわっ」
見る見るリョク君が根を伸ばし、ちょっと小ぶりの木になった。
おおお、こうやって大きくなって、あの動く木になるのか?
あれ、木の魔物ってトレントっていうのが何かのゲームでなかったっけ?
ドライアドは妖精というから、トレントとはまた別なのかな。
根を下ろしたリョク君は、小さいながらも枝をわさわさ揺らす。可愛い。
そうして小さなリョク君の木から、少し透けた幽霊みたいな男の子が出て来た。
『カエ、ありがとう!』
どうやらそれがリョク君の分身体らしい。
話せるようになったのは、成長の証だとライ君が言った。
『ボクの本体はここに根を下ろすけど、分身体のボクはカエと一緒にいるからね!』
そう宣言するリョク君の声は、なんだか不思議な響きだ。
でも可愛い声だ。リョク君らしい。
私たちはしばらく、この森に滞在することになった。
ライ君は、ドライアドを狙う奴らを捕まえるという。
「捕まった連中が、ドライアドたちを狙った全員ではなさそうなんだ」
「あのときリョク君を連れていた人も、悪い奴だよね!」
私がリョク君を食べたと言いがかりをつけた男の人は、悪い奴だった。
変な物を食べるカエル君。そんな濡れ衣を着せられた。
今その恨みを思い出した。
ええい、足の小指をどこかにぶつけてしまえ!
「いや、あいつは一味の下っ端だろう。この森に根を下ろすドライアド本体を連れて行くなんて、本来なら出来ないはずだ。それなのに乱獲された。特別な能力を持っている奴がいる。捕まえた中にそれらしき人物がいなかったらしいから、そいつを捕まえないといけない」
特殊技能を持つ元凶の人を捕まえれば、ドライアドが連れて行かれて売り払われる事態を防げるそうだ。
なるほど、頑張ってねライ君。
私は森でおいしいもの探しだ。
そのついでに、ドライアドたちと仲良くなる予定だ。
果実の木が本体のドライアドは、美味しい実をくれるんだ!
あと森の美味しい茸なんかも教えてくれる。
『うふふふ、その実、熟しているのは全部採っても大丈夫よ。熟す前のものをそのままにしてくれたらいいから』
きれいなお姉さんドライアドが、採ってもいい範囲を教えてくれる。
むしろこの木の実を間引いて欲しいとか、要望してくるくらいだ。
あと熟した美味しい頃合いなんかも教えてくれる。
うふふふふ、この森の美味しい物をいっぱい収穫して、美味しい生活をするんだ!
私が動くたびに、リョク君がくっついて来る。可愛い。
ライ君がちょっと拗ねているけれど、犯罪者の捜索なんて私は役に立てない。
少しは煮炊きも出来るので、美味しい茸を採ったら焼いて塩かけて、ライ君にもあげている。
お野菜や香草の美味しい組み合わせまでドライアドたちが教えてくれるので、食事は私に任せてくれたまえ!
そんな役割分担で、私たちは森の生活を過ごしていた。
リョク君以外の若いドライアドたちが、私にあれが美味しい、これが美味しいと教えてくれる。
ちゃんと人間が食べられる物を教えてくれるので、ありがたい。
ところが私たちの役割分担は、犯人たちには関係なかったらしい。
「若いドライアドが固まってるぞ! 術を展開する、囲め!」
そんな声を上げて、変な人たちが集まってきた。
うわあ、大変だ!
「こらあ、やめなさい!」
私としては、迫力満点で飛び出したのだけれど。
「なんだこいつ。弱そうだな」
鼻で笑われ、攻撃魔法を仕掛けられた。
風の鋭い刃攻撃が飛んでくる。
痛みに身構えたものの、無敵のカエル君着ぐるみは無傷だった。
ふはははは、カエル君強い!
お返しにカエル君パンチとカエル君キックで暴れたら、彼らは簡単に吹っ飛んだ。
フハハハハハハハ、カエル君強い!
やんやとドライアドたちが褒めてくれる声に応えていると、倒れていた人が立ち上がって。
「こんな場所にこんな強い奴がいるとは、罠だったか。仕方がない、禁術なら効くだろう」
そんな物騒なことを呟いた。
えー、待って待って。
禁術なんて響きは、さすがにヤバそうだ。どうしよう。
オタオタする私に、男が唱えた呪文で発生した不気味な光が迫る。
どうすればいいんだ、これって避けられるのかな。
そう右往左往していたら、なんとリョク君が私の前に飛び出してきた。
そして彼の放った魔力の光がリョク君に当たった。
「リョク君!」
リョク君はぎゅっと顔をしかめたあと。
私に向かってにっこりと笑って、消えた。
え、消えた?
「え、嘘! リョク君、リョク君!」
私は焦って呼びかけるけど、どこからも答える声はない。
リョク君が、消えてしまった。禁術とやらで。
「うわああああっ!」
リョク君が消えた。
私を庇って飛び出したリョク君が、禁術とやらにやられた。
消えたのは、死んじゃったってこと?
あいつら、リョク君を殺したんだ!
なんであんな奴らが、リョク君たちを好きにしようとするんだ!
嫌だ嫌だ嫌だっ!
「うわああああああああっ!」
叫ぶ私の声に魔力が乗る。
あんたたちみたいな奴らは、こんなところに入っちゃいけない。
この森はドライアドの森。恵みの森。
ドライアドを傷つける欲まみれの奴らは、森から放り出されてしまえ!
二度と森に入れないようになってしまえ!
「うわあああっ」
私の叫び声は突然途切れて、森は静寂に包まれた。
そして私は、地面に沈んだ。
ああ、そうか。
私、あの特別な魔法を使ったんだ。
召喚された人間の女に使える、願いを叶える特別な魔法。
もっと早く使えば良かった。
そうすれば、リョク君は。
久しぶりに、ずいぶん大きな願いだったのだろう。
私はそのまま気絶した。
目が覚めたら、着ぐるみが外れて、視界の端にカエル君が横たわっていた。
慌てて起き上がったら、ライ君がすぐ側にいた。
「カエ、起きたのか」
そうか。ライ君が着ぐるみを脱がしたのか。
じゃあ大丈夫だ。
そう思ってから、大事なことを思い出した。
「うああああっ、リョク君! リョク君!」
リョク君が死んでしまった。可愛い子だったのに。
禁術とやらに、やられてしまった。
大きな声で泣き出した私に、ライ君が膝をつく。
「カエ、何があった」
「リョク君が!」
わんわん泣きながら、私はなんとかライ君に説明をする。
「禁術とやらにやられて、リョク君が消えてしまったの!」
泣きながらも、リョク君が私をかばって、禁術の犠牲になったことを話した。
「そうか。あいつの分身体が、禁術に……」
わんわん泣く私に、ライ君は困った顔になっている。
しかもなんだか微妙な顔だ。
なぜだライ君、リョク君に情はなかったのか!
私が泣きながら怒り出したら、説明するからと言って、私の手を引いて立たせた。
私はエグエグ泣きながら、ライ君について歩く。
もうまとわりついて来るリョク君がいない。寂しい。
連れて行かれたのは、リョク君の本体が植わっていた場所。
リョク君の若木が、折れている。
ああ、リョク君。なんてことだ。
分身体が禁術にやられたせいで、本体まで折れちゃったんだ。
「リョク君……」
私の涙がボタボタと落ちる。
「リョク君、リョクくーんっっ!」
ありったけの声で大きく私が叫んでいたら。
『なあにー、カエ!』
リョク君が、目の前に出て来た。
ちょっと縮んで幼児になっているけど、リョク君だ。
え、あれ?
「ドライアドの分身体がやられても、本体は死なない」
ライ君が説明する声が、横から聞こえる。
「弱ることはあっても、死なない。大丈夫だ。安心しろ」
『ボク、カエのこと守れたー! 偉かったよねー!』
ドライアドは分身体がやられると、本体もちょっと弱るけど、死ぬわけではないそうだ。
そういえば折れている長めの若木の横に、細い若木が伸びている。
つまりリョク君は生きている!
あああ、良かった! リョク君が生きている!
安心したら、お腹がぐうって鳴った。
ちょっと恥ずかしくなりながらも、カエル君カバンからパンを出して。もそもそと食べた。
周囲のドライアドが、木の実を落としてくれた。
ドンマイと言われているみたいだ。
慌ててしまって恥ずかしい。
騒いでしまって申し訳ない。
ライ君はドライアドたちが落としてくれた木の実を集めて、私の前に置いてくれた。
あ、前にももらった果物、とても美味しかったやつだ。
パンのあとはあれを食べよう。
リョク君が私の魔力を欲しがったのであげたら、細い若木がちょっと太く大きくなった。
おおお、いっぱいお食べ!
「このドライアドの森は、狭間の森よりはこちらの世界に近くて、今まで普通に人間が入ってきていたんだよなあ」
ライ君が、周囲を見回しながら言う。
「なのにいきなり、強固な結界が張られたから、驚いたんだ」
あー、私のお願い効果かな。
異世界の女は、願いを叶える特別な魔力を持っているというやつ。
乙女の祈り魔法だね。
純真な乙女の祈りは天に届くのだ! なんてね。
まさか、私の寿命は削られていないよね。
とんでも効果な魔法を使うたびに寿命を削られていたら、どうしよう。
ちょっぴりだけ心配になるけど、まあいい。今は美味しい果物を食べよう。
「結界の境目を調べていたら、男たちが倒れていたから拘束した。あれがたぶん、カエが森から放り出した奴らだったんだな。しばらく目覚めないようにしたから、帰りに回収して帰ろう」
説明してくれたライ君は、ありがとうと私にお礼を言って、アダブの実を取り出した。
妖精の森を通ったときに採っておいたやつだろう。
いつになく丁寧に皮を剥く動作を、じっと見る。
ライ君が食べるのかな。アダブの実はとても美味しくて好きだ。
この梨みたいな果物を食べ終えたら、私も欲しいな。
そう思って見ていたら、食べやすいようにナイフで切り分けたアダブの実が、私の口元に差し出された。
おおお、ライ君てば、私のために剥いてくれたんだ!
私はありがたく、差し出されたアダブの実を食べる。
うん、相変わらず美味しい。アダブの実、好きだ!
実はライ君がせっせと私に食べさせるアダブの実の効果で、私の寿命が意外に伸びていたことは、このときの私の知らないことだった。
古代種というライ君は長寿種族で、私に寿命が延びるアダブの実を食べさせて、自分と同じくらい長生きさせようと画策していたらしい。
ずいぶん後になってから、私っていま何歳だろうと考えたときに、ようやくライ君が教えてくれた。
とっくに熟女になっている年齢で、召喚されたときとそう変わらないことに気がついて、ライ君に訴えたら判明したのだ。
そして乙女の祈りというのが、あながち外れていないことも、ずいぶん後になって知る。
こうであればいいのにという強い願い。
特にこの人を守りたいから、こうなって欲しいという願いは、多少の無茶でも叶いやすい。
異世界の女性の特別な魔力は、乙女の純粋な願いが叶うもの。
それが欲だと認識したら、叶わないらしい。
淡い願いも、効果はないらしい。
なので隷属させては、願いは叶わない。
それは猿たちも知らないこと。
ドライアドの森から元の街へ帰るとき、ひと悶着あった。
分身体でついてくるというリョク君が心配で止める私と、邪魔だからと止めるライ君と、行くと言い張るリョク君で揉めたのだ。
本体から離れて大丈夫なのか心配になった私だけれど。
分身体はどれだけ本体から離れても平気なのだと、大人のドライアドから説明されて、納得した。
だから連れて行ってあげてねと、お姉さんドライアドは優しく私たちを諭してくれた。
リョク君と私の間に、特別な魔力の絆が出来ているから、離れる方が可哀想なのだとか。
そして本体さえ無事なら、分身体に何があっても復活するらしい。
おお、実はリョク君も無敵だ! やったね!
「これからも一緒だね!」
『いっしょーっ!』
二人でニコニコしていたら、ライ君が肩を落としていた。
「オレだけのカエがーっ!」
そしていきなり叫んでいる。
なんだライ君、情緒不安定なのか?
「さあて、帰ろうか!」
『あ、みんなが木の実、持って帰ってって。くれるって言ってるよ』
「おおー、ありがとう! 嬉しい!」
ドライアドたちは美味しい物をたくさんくれて、木をわさわさ揺らして見送ってくれた。
この世界はファンタジーで、不思議に満ちている。
カエはご機嫌に、異世界を着ぐるみで歩く。
一作目を読んで頂けた方に、またお楽しみ頂けたらと続編です。
ちょっとあれこれしんどいときに、ゆるっと気が抜けるお話として書いてます。
他にも色々と異世界のお話を書いているので、よろしければ作者名からのリンクでご覧頂けたら嬉しいです。
書籍化作品もありまして、実は本日11月1日発売の書籍があります!
異世界召喚された菓子職人修行中だった聖女と、ズレたヒーローな竜王。
よろしければ、下のリンクからお付き合い下さると、嬉しいです。




