第61話 恨みは晴らしておく
レイが障壁に穴をあける少し前、ここは祭り会場となっている空母に建つ艦橋の屋根の一部。屋根のヘリにしゃがんだ姿勢の未結が居てスナイパーライフルを櫓へと向けていた。彼女の視線の先は標的の虎太郎ではなく壁の前に立ってエンジンカッターを使うレイに向けられている。
必死に障壁を破壊する彼を見つめ、未結はそっとつぶやく。
「人質を救出する気なんですね。本当に優しい人…… じゃあ私は…… エーテル鋼弾を抜かないと」
構えをといて左手でマガジンを抜き、別のマガジンへ換装する未結だった。彼女が抜いたマガジンにはエーテル鋼弾が最初に発射されるようになっていた。エーテル鋼弾は貫通力が高く魔法障壁を簡単に貫通する。
マガジンを換装した未結は、再びスナイパーライフルを構えるのだった。
「よっと」
魔法障壁の前から姿を消したレイは、障壁内で拘束されている三人の真後ろへと移動して来ていた。彼の両手は消えた時は、何も持ってなかったが太刀が握られている。姿を現すとほぼ同時に彼は、横に一閃と太刀を振りぬいた。三人を拘束していた触手は切り落とされた。
「キャッ!」
「いたーい!」
「もう優しくしてよ!!」
三人はほぼ同時に尻もちをつくような姿勢で甲板へと落ちた。尻を押さえ清華と愛は少し不満げだった、レイはそのまま黙って振り返り左手を腰へと持っていき拳銃を持つ。
「温守!? 貴様ーーーー!!!」
「黙れ!!!」
虎太郎が叫びながら足を伸ばした。レイは拳銃を抜いて引き金を引く。銃声が轟いて虎太郎の肩に銃弾が命中する。虎太郎の体の硬度が増しているのか銃弾は弾かれてしまった。
「うぐ!」
銃弾を弾いたがそれなりの衝撃と痛みがあるようで、虎太郎は苦痛に声をあげ、当たった衝撃で体をのけぞらせて後ずさりをした。
レイは何発か銃弾を虎太郎に浴びせた。虎太郎は痛みに耐えきれずに彼から距離を取る。
「姉ちゃん! 三人を救助した連れて行ってくれ!」
銃口を虎太郎に向け牽制しつつ、甘菜へと連絡をするレイだった。
「はーい!」
「みんな! しゃがんで頭を下げて顔を地面に向けろ!」
連絡を受けた甘菜が、スラスターを全開にして飛んで来た。彼女は頭の上でモーニングスターの鉄球を回転させている。飛んで来た甘菜はレイがエンジンカッターで斬りつけた、場所にモーニングスターを振り下ろした。
「とりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
気合を入れた甘菜。彼女のモーニングスターが障壁の傷を叩きつけた。激しい音と衝撃が祭り会場が広がり若干船体が揺れる。同時に魔法障壁に亀裂が入っていく。蜘蛛の巣のようなヒビがあっという間に全体に広がり、ガラガラと音をたてて魔法障壁は崩れた。
「お待たせー」
「後を頼む」
「お姉ちゃんにお任せ!」
甘菜は三人の前に立って腰をかかがめて頭を前に出した。
「立てますか?」
「うん…… 私は大丈夫」
「うちも! でもさーやが……」
「いてて」
三人がそれぞれ返事をする。清華が足を痛めて立てないようだ。甘菜は清華の足を見て小さくうなずく。
「足をひねったみたいだね。でも、大丈夫だよ」
「わっわ!?」
甘菜は持っていたタワーシールドにモーニングスターを収納し、タワーシールドを地面に置いて清華を軽々と持ち上げ抱きかかえる。
歩ける二人を連れて虎太郎から離れるのだった。逃げ去る三人に気付き、悔しそうに虎太郎が顔をしかめるのだった。彼は前で自分に銃口を向けているレイを睨む。
「貴様! だましたのか!!!! 何が救出はしないだ!」
「任務に救出は入ってないと言ったが助けねえとは言ってねえよ」
虎太郎の言葉にレイは拳銃を向けたまま堂々と答える。
「舐めおって小僧が!!!」
レイに向かって右手を伸ばす虎太郎、彼の足の一つが素早く伸びてレイの拳銃に巻き付いた。力強く拳銃を押さえつけられてしまいレイの拳銃は打てなくなった。
「おっ!? やるじゃん……」
「はははっ!? 貴様ごとき私一人で!!!」
拳銃を奪われ困った様子のレイ、虎太郎は勝ち誇ったように笑い。今度は左手を彼に向けた、さらに一本の足がレイへと向かって伸びていく。しかし……
「ぎゃ!」
銃声が轟いた。レイの拳銃を捕まえていた、足と彼に向かっていた足が銃弾に貫かれた。肉片が飛び散り血のような青い液体がレイの体にかかえる。銃弾の貫通した足は、皮一枚だけでつながっていたが自重によりすぐに皮はちぎれ足の先端が甲板に転がる。
「おっと! 邪魔な障壁が無くなったので僕も参戦しますよ」
虎太郎の右から構えた、二丁の拳銃を銃口から煙を漂わせて黒田が現れた。レイは左手を大きく上下に振った、絡みついていた虎太郎の足を振りほどくと拳銃を腰にしまう。
近づく黒田と前にいるレイを交互に見つめ、虎太郎は眉間にシワを寄せた。彼は右腕を前にだしレイを指した。
「卑怯だぞ! 温守!!! 僕と一対一で戦え!」
「さきほど空から自分の仲間を呼び出して、ばら撒いた人に言われるのは心外ですねぇ。レイ君……」
「あぁ。そうだな。お前に比べりゃ俺は正々堂々としているよ」
「なっ!?」
言い返されると思ってなかったのか、たじろぐ虎太郎。今度はレイが右手に持った太刀の切っ先を彼に向けた。
「磯虎太郎! 傷害と器物損壊と夜間騒乱罪でお前を拘束する!! 抵抗する場合はその命は保証されない!!!!」
甲板にレイの言葉がこだました。虎太郎は彼の言葉を聞きうつむき、肩を小刻みに震わせていた。
「クソがアアアアアアアアアアアアアア!!! 穢れた人殺しども風情ががなめるなぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
顔を上げた虎太郎が地面につけた、二本の足を伸ばしてレイへと向かって来る。彼は二本の足を鞭のようにしならせ、左右からレイに叩きつけようと伸ばした。レイは冷静に左右から迫る虎太郎の足を見つめていた。タイミングを合わせ瞬間移動で消える。レイに迫っていた虎太郎の二つの足は、彼が居た場所で空振りし交差する。
「なっ!?」
レイは虎太郎の背後に姿を現した。太刀をふりかざし虎太郎を静かに見つめている。
「あぁ。俺は人殺しだ。俺が守ると決めたものを傷つけるやつは排除する。それがなんだというのか!!」
叫ぶと同時にレイは太刀を横に振りぬいた。吸盤で地面に固定され伸ばしていた虎太郎の二本の足が太刀によって切り裂かれていく。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
支柱となっていた足が無くなった虎太郎は、バランスを崩し前のめりにこけた。彼は叫び声を上げながら前に転がっていく。手をついて体を起こし、振り向く虎太郎は太刀を構えて近づいていくるレイに向かって口をひらく。
「きっ貴様…… 何を言ってるのかわかってるのか? お前の理想のために人を排除するなどあってはならない。人間は全て等しく平等に生きる権利が……」
「じゃあお前はそのために何をしたんだ? 血に汚れた俺たちの手に守られ自分と相いれない俺を排除しようとしてたじゃねえか!!!」
太刀を構えて叫ぶレイ。虎太郎は彼の迫力に何も言えず、尻もちをついたような姿勢で後ずさりをする。レイはゆっくりと彼に近づき剣を振りかざした。
「自らの手も汚さず。理想だけを語るな!!! 偽善者が!!!!」
「ヒッ!!」
叫びながらレイは太刀を振り下ろした。自分の最後を感じ取り目をつむる虎太郎だった。しかし、首の手前でレイの太刀は止まった。自分がまだ生きていることを信じられずに、虎太郎はゆっくりと目を開けた。
「知り合いのよしみだ命だけは許してやる。罪を償え……」
太刀を首につけたままレイが話す。にやりと虎太郎は笑った。
「チッ!」
舌打ちをしたレイ、虎太郎は残った足を彼の太刀に絡ませた。
「はははっ! 温守! 貴様も甘いな!!! 何が偽善者だ! 私は正しいのだ!!!! お前は…… お前が間違っているんだ!!! だからぼぐはただじい! だからお前をごろじでも」!!! お間だげばあああ……」
太刀を押さえた虎太郎は、レイを殴ろうと拳を握り後ろに引いた。失望したような表情でレイは右手を太刀から離すと指先を虎太郎に向ける仕草をした。
ほぼ同時に銃声が轟き、レイの目の前で笑っていた虎太郎の顔の右半分が、えぐれるように穴が開きちぎれていく。周囲に虎太郎の肉片と骨と脳が飛び散り赤い鮮血が周囲にぶち巻かれた。虎太郎は糸が切れた人形のように全身の力が抜けて甲板の上に倒れた。
レイの足元に生暖かい虎太郎の血がたまっていく。
「排除完了です」
未結の淡々とした口調の通信がレイの耳に届く。レイは振り向くことなく右手をあげ彼女に答えた。
「さっさと撃ってくれてもよかったのに…… 先輩ならいくらでもチャンスがあったろ?」
頭を吹き飛ばされた虎太郎に視線を向け、未結に連絡をするレイだった。
「だってレイさんは彼に恨みがあったでしょう? 晴らさないで排除したら後悔するかなって…… だから……」
先ほどの力強い口調と違い少しおどおどしながら確かめるような口調で未結が話す。レイは彼女の言葉にほほ笑む。
「ふふふ。そうか。ありがとう。やっぱり先輩は頼りなるな」
「えっ!? そっそんな……」
頼りなると言われた未結は、顔を真っ赤にして答えるのだった。
「レイくーん! お疲れ様」
「如月君もお疲れ様」
清華を甘菜がレイの元へと駆けて来た。黒田も彼の元へと歩いて来る。甘菜の後ろには清華と陽菜乃と愛が三人が付いて来た。清華は愛と陽菜乃の二人に支えられていたが自分で歩いていた。
「温守くん!」
「レイっちー! やっぱりかっこいいね」
「本当! 惚れちゃいそう!」
「はぁ…… 適当だな本当に」
「「えへへ」」
清華と愛の軽口をたしなめるレイだった。黒田と陽菜乃は笑っていたが、甘菜と未結は二人を苦々しく見ていた。
「うわぁ。これ磯せん? グロいね」
「あんまりいいもんじゃねえからな。トラウマになるからまじまじと見るのやめとけよ」
「うん! そうする……」
虎太郎の死体を見て清華が顔をしかめるのだった。清華の横にいた陽菜乃も虎太郎の死体を見た。
「ねぇ。温守くん。磯先生は…… なんであんな姿に?」
「さすがの俺もわからねえな。これから調査することになるかな。ユースレスアンブレラの奴らがなんでこんな力を持っているか」
「そっか…… あのね……」
顔をあげ陽菜乃は自分の胸に手を置き、記憶をたどりながら話を始める。
「彼はヘスティア様に私を捧げるつもりだったみたい…… その人って彼の仲間なの?」
「ヘスティア…… いや…… 知らないな……」
レイはヘスティアの存在を知らずに首をかしげる。二人の会話に黒田が反応する。
「女神ヘスティア。ユースレスアンブレラで信仰されている神と言われてます」
「そっか……」
黒田の言葉にうなずいてはいるが、どこか納得がいかないという表情をする陽菜乃だった。彼女の様子が黒田は気にかかった。
「どうしたんですか。陽菜乃くん? 何か気になることでも?」
「いえ。なんとなくなんですけど磯先生はヘスティアに会ったことがあるような感じだったんです。笑顔とか言ってたんで……」
「なるほど……」
顎に手を置いて小さくうなずく黒田だった。
「レイ君。女神なんて本当にいるのかな?」
「居ても不思議じゃねえんじゃねぇ? 現に俺たちの目の前にイカ人間が転がってるだろ…… それにエル……」
「レイ君!!! ダメですよ!」
「おわ!?」
慌てて口を押える仕草をするレイだった。陽菜乃は彼の仕草に首をかしげた。
「どうしたの? 温守くん?」
「何でもない。とにかく調査してみるよ。情報ありがとう。もしかしたら話をもう一回聞くかも知れないからよろしく」
「わかったわ」
陽菜乃は笑顔でうなずく。遠くから複数のV428の飛行音が聞こえ、レイたちが居る空母の甲板へと向かって来ていたのだった。夜祭りでの事件はこれで終わったはずだった……




