第59話 船上ウェディング
空母からの警報が聞こえる特務第十小隊の臨時事務所。石川は鳴り響いた電話の受話器を握り連絡を受けていた。彼の後ろではレイたち四人が窓から祭り会場を眺めていた。机の上には夜食のおにぎりが置かれ、甘菜だけはおにぎりをしっかり確保し食べながら見ていた。
「わかりました。すぐに向かいます」
会話を終え受話器を置いた石川、彼は窓を見ている四人に声をかける。
「みんな。出動だ。マジックフレーム2を着用しろ」
石川の号令で四人は即座に外へと飛び出した。臨時事務所の前にスタンドに架けられているパワードスーツを各々装備する。
「準備しながら聞いてくれ」
パワードスーツを装備する、四人の背後で石川が話を始めた。
「祭り会場に青く光る男がイカ人間に化けた。女性三人を人質に取って櫓を占拠している」
「青く光る人間…… それって悟の時と……」
「あぁ。そうだ。おそらくイカ人間はユースレスアンブレラだろう」
振り向いて石川と会話するレイ、ユースレスアンブレラの名前を聞き表情をより厳するのだった。
「我々の任務はイカ人間を排除することだ」
石川が話を続け四人は、パワードスーツを装備しながら彼の話を聞いている。
「排除におけるイカ人間の生死は問わない。そして…… 人質もだ。我々の役目は速やかに事態を収拾すること」
「つまり俺たちの好きにやらせてくれるってわけだな」
「あぁ。好きにしろ」
レイが小さく右手をあげ答え他の三人も続くのだった。石川はそれを見て笑うと、臨時事務所へと戻っていった。一分も経たずに準備が完了し四人は輪になった集合した。すぐにレイが未結の右肩に手を置いた。
「先輩。視界の共有を……」
「了解です。皆さん私の肩に手を置いてください」
黒田は未結の左肩に手を置き、甘菜はレイの手の上に自分の手を置いた。未結が目をカッと開く、彼女の目は青白く光りだす。
四人のディスプレイに甲板の様子が見える。警備を担当していた部隊のパワードスーツの残骸がいくつか転がっている。
虎太郎は櫓の中央に居て、甘菜のプラズマシールドのような光の壁が、彼の周囲には展開されていた。彼の前には陽菜乃、清華、愛の三人が、空中に浮かぶ光の輪から出た触手に腕を縛られ拘束されていた。
「レイ君! 根岸先生と清華ちゃんと愛ちゃんだよ」
「本当だ…… クソ!」
縛られた陽菜乃を見て驚く甘菜とレイだった。ディスプレイを見ていた黒田が二人に尋ねる。
「こっちも君たちの知り合いだね?」
レイと甘菜がイカ人間となった虎太郎と見た。
「こいつは磯虎太郎だ。俺たちの高校の教師だ」
「そうか。陽菜乃くんところも…… 胸元をよく見るといい」
視線をイカ人間となった虎太郎の胸元へと向けるレイと甘菜、彼の胸にはペンダントが見えた。
「十字架に傘…… なるほどな……」
小さくうなずくレイ、虎太郎がつけていたペンダントはユースレスアンブレラ信者が身に着ける、十字架と傘が斜めに重なったデザインのものだった。レイは虎太郎が自分に突っかかって来た理由に合点がいった。
「先輩…… ここからイカ人間を狙撃できますか?」
「射角がとれないから無理ですね。標的の背後にある艦橋から狙います」
「了解。じゃあ…… あいつの気を誰かが引くか」
未結は自ら空母の環境から、狙撃することを提案し、レイは小さくうなずいて彼女の提案を受け入れる。二人の会話に黒田が割り込んでくる。
「待ってください。人質と彼らを囲む青い壁も気になります。あれは甘菜くんのシールドに似てませんか?」
黒田はイカ人間となった、虎太郎を囲む光の壁について指摘する。
「そうだな。姉ちゃん。あれはプラズマシールドと同じものかわかる?」
「うーん。似てるけど…… 違うような……」
「もし狙撃が阻まれるようなものだと人質が危険になりますね」
光の壁が狙撃の障害となれば人質の身に危害が及ぶ可能性が高い。レイはジッと光の壁を見て少し考えてから口を開く。
「よし…… 俺と姉ちゃんが桟橋側から接敵して調べます」
「なら僕と如月くんで艦橋側に回り込んでフォローしよう」
「姉ちゃんと先輩もそれでいい?」
黒田とレイが決めた作戦をレイは、甘菜と未結に確認する。甘菜と未結はすぐに返事をする。
「大丈夫だよ」
「はい。甘菜さんとレイさん気を付けて」
甲板を映していたディスプレイの風景が変わり、臨時事務所の周辺の砂浜の戻って来た。未結が千里眼とのリンクを切ったのだ。
「じゃあ先に行くか!」
「はーい」
レイは甘菜の方を向いて声をかけた。甘菜が返事をするとレイは、スラスターを点火して飛び上がり彼女も続く。二人は祭り会場へと飛んで行った。
「私たちも行きましょう」
「はい」
未結と黒田も飛び上がり祭り会場へと向かう。
「みんな…… 逃げてる…… 怖かったよね…… お母さん大丈夫かな……」
「大丈夫。きっと無事だよ。俺たちは俺たちがすべきことをしないと…… 叔母さんとの約束だ」
「そうだね。行こう!」
桟橋方面から祭り会場へと向かう甘菜とレイに逃げ惑う観客が見える。桟橋の上を不安な表情で歩く観客や泣き出す子供たちが見える。さらに桟橋の広くなった場所では怪我人の応急処置も行われていた。
惨状を見た二人は決意を新たにし飛ぶ速度を上げるのだった。
祭り会場の中央部に木で組まれた櫓。陽菜乃、清華、愛の三人は櫓の前に床から二メートルほどの高さに、両手を上にし拘束されていた。三人の前で虎太郎は胸の前で手を組んで祈りを捧げていた。
「離せよ! 磯せん! あんた何してるかわかってんの!?」
愛が虎太郎を怒鳴りつける。虎太郎の眉毛がぴくっと動いた。直後に触手が一つ彼女の手の上に浮かぶ輪っかから下りて来た。そのまま愛の首に触手が巻き付いて締め上げる。
「うぐ!! くっくるしい!!」
「メグ!! おい! 礒せん! メグをはな…… うぐ!!!」
同じように清華にも触手が下りて来て首を絞める。組んでいた手を下し、苦しむ二人を怪訝な顔を見つめる虎太郎だった。
「静かにしろ。これから神聖なる儀式が始まるんだぞ」
「磯先生! やめてください! 二人が死んじゃいます!」
悲痛な表情で陽菜乃が虎太郎に懇願する。虎太郎は優しく陽菜乃にほほ笑み右手を上にあげる。すると二人の首に巻き付いていた触手が外れ光の輪の中へと戻っていく。
「はぁはぁ」
「なっなんだよ…… あいつ」
顔をしかめて虎太郎を見つめる二人。横を向いて陽菜乃が二人が無事なのを見てホッと安堵の表情を浮かべる。すぐに陽菜乃は真面目な表情に変え虎太郎に顔を向けた。
「二人を離してあげてください。私はどうなっても構いません。お願いします」
「ちょっ!? ひなっち!?」
「そうだよ。ダメだよ」
「いいのよ……」
縛られながら必死に頭を下げる陽菜乃。彼女を見つめ虎太郎は困った顔をする。
「ダメですよ。私たちの結婚を証明してもらうんですから」
虎太郎の体が青白く光り出し、彼の足が伸びていき陽菜乃の近くまでやってきた。陽菜乃に顔を顔と近づけた虎太郎はニコッとほほ笑む。青白く光る彼の顔は人間に見えず陽菜乃は恐怖で震え出していた。
「けっ結婚って…… あっあなた…… なにを言ってるの!?」
「根岸先生…… 僕とあなたは結ばれる運命なんだ! さぁ誓いを聖獣様に! この力をくれたヘスティア様へ純潔を捧げ祝福されましょう! さあ!」
口をすぼめた虎太郎はキスをしようと、陽菜乃の唇に自分の唇を近づける。陽菜乃の本能が彼とのキスを拒否する。
「ペッ!!!」
陽菜乃はつばを吐き出した。つばは虎太郎の顔にかかる。
「きゃははは! 嫌われてやんの」
「鏡みてこいよ。礒せん!」
清華と愛は虎太郎をあざ笑う。陽菜乃はとっさに出た自分の行動に少し驚いているようだった。わなわなと怒りに震える虎太郎は陽菜乃を睨みつける。
「この!」
「キャッ!」
大きな音がする拳を握った彼は陽菜乃を殴ったのだ。陽菜乃の顔が大きく横に振られた。
「おい! 何しやがるんだ礒せん!」
「さいてー!」
殴った虎太郎と非難する清華と愛だった。虎太郎は三人を睨みつける。
「もういい! どうせすぐに僕たちは結ばれる! 上を見てみろ…… あれ……」
肘を曲げた状態で、両手と顔を空に向けた虎太郎。清華と愛も視線を上に向ける……
「とりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
三人に見えたのは青い光越しにモーニングスターを、振りかざして降下してくる甘菜だった。
「チッ…… 穢れた傘どもめ」
ガーンという大きな音が響いた。モーニングスターが振り下ろされた。しかし、青い光の壁には傷一つつかなかった。
「レイ君! ダメだ。やっぱりこれ硬いよ」
「わかった! うん。俺の方も無理だな。瞬間移動できない」
「私のプラズマシールドと似たようなもんだね」
「なら…… あいつの出番だ! 加菜さん!」
櫓から十メートルほどのところにレイが着地した。レイは甘菜の結果を受け、自身の特殊能力である瞬間移動で光の壁の中へ侵入を試みたがうまくいかない。瞬間移動は万能ではなく、レインデビルズの魔法障壁や結界などえ侵入を阻害されることは多々ある。
甘菜はレイの元へ飛んで行った。虎太郎は二人が壁の中に侵入できないのを見てホッと安堵の表情をし、勝ち誇った表情でレイを指さし叫ぶ。
「温守! そこで黙って見ているがいい! はあああああああああああああああああああ!!!」
再び虎太郎は肘を曲げ両手を空に向け、強烈に青白く光り出したのだった。




