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Lv.1のチートな二人  作者: RYO
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フラグ回収1



「魔法とは、エレメントの力を借りて放つ力の事です。エレメントが力を送るのに相応しい器が必要になります。」


その器というのが武器の事だ。ティアは武器に魔力が込められないので、自分の身体に魔力を込める。身体から放たれるオーラのような淡い光が魔力だ。

ロゼ先生の場合、杖の先に付いた宝玉が淡い光を帯びている。


「魔法を放つ時、イメージを膨らませてください。イメージは鮮明であればあるほど、魔法の威力が強くなります。」


何故火が燃えるのか、何故水は冷たいのか…そんな化学的原理は俺にはわからない。やっぱり、常識範囲の勉強くらいはしておくべきだったかな。

ティアは成績が良い方だったから、ちゃんと理解出来てるみたいだ。


「そのイメージをエレメントに伝えます。それが詠唱です。例えば…ファイアーボム。」


ロゼ先生の構えた杖から炎の塊が生み出され、少し離れた地面で爆発した。焼け跡からは、まだじりじりとした熱さが残っていた。


「下級魔法も、魔力の差で威力が増しますよ。」


ティアのステータスから魔法の表示をする。すると、無数の魔法が表示される。大体火属性から順番に並んでいるので、左上にあるファイアーボムが一番低レベルの魔法ではあるのだろう。

たしか、ティアは無詠唱で魔法が使えるはずだ。しかし、エレメントにイメージを伝えるのが詠唱なら、無詠唱だとイメージを伝えられないんじゃないか?


「えっと…ファイアーボム…?」


ティアが言うと、左右に六つの炎の塊が出来る。出来上がった炎は驚くほど熱く、近くにいると触れていないのに火傷をしそうだ。

呟いて作られた魔法にしては、かなり大き過ぎる気がする。


ー…レティシア…ー


「…え?」


誰かの声が聞こえた。

ティアが気を緩めた途端、六つの炎の塊は遠くの岸壁に向かって飛んでいく。

爆発し、その暴風で吹き飛ばされる岩がティアに向かって飛んで来る。


「ティアっ!」

「っ…!!」

「目を背けてはいけません!レティシアさん、彼を守ってください!」

「!!」


俺達はお互いを抱きしめた。何が起こったとか、考える余裕すらなかった。ただ、身体は勝手に動いていた。


(もう死なせない…!)


その瞬間、パンッと何かが弾けた音がした。

落ちてくるはずの衝撃も痛みもない。ゆっくりとお互い離れると、粉々の岩が散らばっている。俺達は無傷だ。

ふとロゼ先生を見ると、時が止まったように動かない。


「…何が起こったの?」


ー…人の姿をした、新たなエレメントよ…ー


「え?私が…エレメント?」


さっき聞こえて来た渋い爺さんの声だ。まさかこの声、エレメントなのか?

感情があるとは聞いていたが、言葉を発するなんて聞いてないぞ。


ー…汝は力、力は汝…汝が望むままに、力は溢れる。…ー


「私が…力…?」

「ちょっと待て。全ての魔法が使えるエレメントって、そんなの有りか?」


ー…ゼロ…新たな神よ、全てはあなたの望むままに…ー


「は?!神って…俺の事か?!」


いやいや、ちょっと待て。何がどうなってる?

ティアがエレメントで、俺が神?

じゃあ俺達が出会った女神は一体誰なんだ?

そもそもこの声はなんなんだ?


「…もう、聞こえないね…。」

「ったく…なんなんだよ…。」

「二人共、怪我はありませんか?!」


どうやら、止まっていた時間が動き出したようだ。ロゼ先生は驚いたように俺達を見ているが、それもその筈。

岩は俺達を大きく避けて周りに散らばっている。


「大丈夫です、先生。」

「レティシアさんは、神の盾をすでに使いこなしているのですね。」

「そっか…これが神の盾なのね…。」

「えぇ。あなたが触れている間は、敵の攻撃は全て無効になります。」


神の盾は最強だけど、守れるのはティアが触れる二人だけ。それはそれで便利だが、俺だって男なんだから甘える訳にも行かないよな。


神のスキルというのは、神官の人間で、その中でも魔力に優れた選ばれし者にしか使う事は許されないとされる力。

アリーヤで神の力が使える人間は、ロゼ先生を含めても五人しかいないと言う。

そんな先生ですら、大量の魔力を削らなければ使用する事が出来ないとんでもない力を、俺達は魔力を消費しない“スキル”という形で使えるのだ。それは言ってしまえば、有り得ない事だ。


「俺にも出来るのか?…ファイアーボム…っ?」


試しに呪文を唱えてみた。俺の思い描く通りの大きな炎の塊を作る事が出来、遠くに飛ばす事も出来た。

しかしその瞬間、意識が飛んだ。



▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


ー羽人族の翼は、魔力コントロールに必要なものなんだ。ー


ーだからオレは魔法が使えない。ー


ー魔法なんて使わなくても、強くなれるさ。ー


ー僕が教えてあげるよ。ー


△▲△▲△▲△▲△▲



どれくらい眠っただろうか。頭がボーッとする。

さっきのは夢か?あの二人は一体誰だったんだ?

薄ら目を開けると、涙目のティアの顔がある。誰だよ、ティアを泣かせたの。…あれ?俺、何してたんだっけ?


「ゼロ!」

「…ティア…?」


目を覚ますと、ティアが抱き付いて来る。頭がついていかない俺は、ロゼ先生を見上げた。


「魔法を使って、魔力を全て使い切ってしまったみたいです。ワタクシの聖水で回復させました。魔力はなくなると2、3日は目覚めないので、気を付けてください。」


そう言ったロゼ先生の手には小瓶が握られている。

なるほど…そういえば俺、全てのMPと引き換えにどんな魔法も使えるんだって言われてたっけ。しかし、低級魔法でMPがなくなるのはダサいな。

今後は魔法はあんまり使わない方が良いな。


先生が俺にくれた聖水は、とある条件がなければ作る事が出来ない珍しい物のため、市販では売っていないと言う。

どうやら、回復アイテム系は全て高価な代物のようだ。


「…その聖水、もしかして…。」

「これが最後の一つでした…。ですが、この地では魔物は出ませんので、大丈夫です。」

「……」


嫌な予感がする。これ、何かのフラグとかじゃないよな?

不安な気持ちを抱きつつも、先生に魔法とスキルを教わる。

ティアのMPの回復は異常なまでに早い。魔法を使ってもすぐに回復していく。連続して使ったとしても、少し時間さえ稼げればまた魔法が使える。


「…?!」


嫌な予感も忘れかけていた頃、突然背中に突き刺さる視線を感じた。俺だけじゃない、先生やティアも感じ取っている。

急に先生が身構えたのだ。辺りを見回しても何もないが、何かが起こる予感がした。


「来ます!」


先生が言うと同時に、突然地面に二つの魔法陣が描かれて赤く光り出す。すると、魔法陣から二体の魔物が現れた。


[ミノタウロス: 牛の頭をした人型の魔物。

特徴: 身体が硬く、武器である大斧の打撃はどんな硬い鉱物も砕くと言われている。魔法防御が得意。

弱点:視野が狭い

コア:肩]


[スライム: 粘液状の魔物。

特徴:物理攻撃を受けると分裂する。

弱点:雷魔法

コア:体内]


「…何故、ここに魔物が…。」


やっぱり、ここに魔物が出る事は通常有り得ないのか。

だから先生は、MPがギリギリになるのを覚悟して俺達に神のスキルを使って教えてくれた。


しかしこの魔物、魔法陣から現れる所を見る限り、誰かに召喚された類の魔物じゃないだろうか。

誰かが俺達を狙っている?しかし、この場所に来たのは俺達三人だけのはず。

ここに繋がる道が学園以外にもあるのか?それとも、俺達の後から誰かが来たのか…俺達を狙っているのが相当な力の持ち主なのか…。

考えるのは後にしよう。今は、こいつらをなんとかしないといけない。


「ゼロさん、引力は遠距離武器に使用してください。銃弾や矢は放っても引力によって戻って来ます。」


引力は人と人、物と物、ありとあらゆる全てのものを引き合わせる。

こればかりは、バカな俺でも理解出来る。つまりは、磁石と同じだろう。


試しにガンマを召喚して敵に向かって撃つ。ミノタウロスには斧で弾かれ、スライムには全く効かずに銃弾は飲み込まれて行った。

銃弾の位置を把握してシリンダーに集中すると、本当に戻って来た。しかし、体内から取り出してもスライムにはダメージを与える事は出来なかった。


「……」


ティアに向けられた殺気に気付き、ティアを抱えてジャンプする。

身体強化1と、さっき教えてもらったばかりの引力を応用しているためか、全く重さを感じなかった。


「お、重くない…?」

「ははっ、軽い軽い。一回これしてみたかったんだよなぁ。」


漫画やアニメでしか表現されない、お姫様抱っこしながらの移動。本当はされたい側だったけど、実際やってみると頼れる男っぽくて悪くない。


「先生、顔色悪いけど大丈夫かな?」

「MPはあんまり残ってない。けど、神の力さえ使わなければ大丈夫だろう。」


そこまで言って気がついた。ロゼ先生の身体が透けて来ている。


「強制送還、ですか…。」

「先生!」

「また明日、学園で。信じていますよ。」


そう言い残して、ロゼ先生の姿は白い霧になって消えて行く。


「まさか、死んじゃったんじゃ…。」

「いや、MPはかなり減ってたけど、死ぬレベルじゃなかったはず…今はそれより…」


暴走気味のミノタウロスが斧を振り回していた。斧は重い武器のため、振り下ろしてすぐスキが出来る。そこを狙って斧を蹴り飛ばす。


「ティア、スライムの弱点は雷魔法だ。ミノタウロスの方は俺に任せろ。」

「……」

「?どうした?」

「…変わったね。」


決して嫌味ではなく、嬉しそうにティアは言う。確かに、女だったらこんな事言えなかったかもしれない。


私は、もう悲劇のヒロインぶっていた小鳥遊蒼空ではない。

人生をやり直すチャンスをもらった。チートスキルも手に入れて、大切な親友を守る事が出来る。

もう後悔はしたくない。こうなったら王様にでも魔王にでもなってやる。


「幸香…。」

「蒼空?」

「…例え姿形が変わっても…幸香の事、ずっと親友だと思ってるから。」

「…うん、私も。」


俺とティアにだけ聞こえた爺さんの声は、ティアが人の形をしたエレメントで、俺が神なんだと言っていた。

あの声の正体は分からないが、俺達はきっと、それ程の力を持っているのだろう。

スキルは、俺達が望む通りに使える特別なもの。先生達と違って、使って減る物は何もない。だから、その力で守るべきものを守る。


「ぐっ…。」


殴られて吹っ飛ばされたけど、あんまり痛くないな。身体強化してるからか?

HPが一瞬だけ減ったと思ったら、すぐに回復する。そう簡単には死なない身体という訳だな。ありがたい。

ティアは雷魔法を上手くコントロール出来なくて苦戦しているが、こちらも回復の速度が尋常じゃないから大丈夫だ。


「ミノタウロスの斧はなんでも壊すんだったな…。」


思い当たった俺は蹴り飛ばして地面に刺さっている斧を引っこ抜いた。身体強化1だと結構重いが、持てない程度じゃない。

俺は斧をミノタウロスに向かって、思い切り振り下ろした。


グシャァァッ


頭から真っ二つになったミノタウロスの血が頬に飛んで来る。


「ぅ…!」


自分でやっておきながら、なかなかのグロさだ。何も食べていないはずの胃から何かが逆流してきそうで口元を手で押さえた。


「っ…カッコ悪…。」


「サンダーディセンド!」


稲妻の塊がスライムに直撃する。プルンとなんとも気の抜ける音が聞こえ、シュワシュワと炭酸ジュースのように溶けて行った。


「ゼロ、大丈夫?!」

「っ…だ、大丈夫…。」


なんとか唾を呑み込んで、吐くまでには至らなかった。

モンスターを一体倒すだけでこんな風になるなんて、耐性つけないと今後厳しいかもしれない。

転がって動かなくなった2匹の魔物を見て、改めてそう思った。





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