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人狼村開拓記  作者: やまぐ
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狼男本気を出す

「さて、それじゃ索敵担当のローガくん。敵の気配を感じ取れたら報告よろしく。」

 森に入ると早速チェイスがそういってきた。

「了解、今のところはまだそれらしい気配はしないな。とりあえず昨日気配を感じた場所まで行ってみるってことでいいか?」

「私も索敵しよう。」

 二人の会話にシアンが割り込みどこからか笛を取り出して吹き始める。

「シアンちゃんはあの笛で蜂を呼び出して使役出来るんだ。いやーしかしシアンちゃんの生演奏が聞けるとはもうそれだけでこの依頼受けて正解だったな。シアンちゃん出来れば今度夜に俺だけのために演奏会を開いてくれちゃってりしない?」

 シアンはチェイスをがん無視し笛を吹き続ける。やがて森の奥から大量の蜂が現れチェイスを追いかけ始めた。

「ちょいちょい!場を和ませようとして軽いジョークだよ。勘弁して~。」

 チェイスは蜂から逃げ回りながらシアンのご機嫌を取り始めた。

 後の二人はわれ関せずといった態度で興味なさげにその様子を眺めていた。

「で、結局昨日の場所に向かうってことでいいのか?」

 ローガの問いに答える者は居なかった。

 



 しばらく進むとローガは昨日感じた違和感バリバリの気配を感じ取った。

「見つけた。こっちだ。」

「っ!もう見つけたの!?」

 驚愕するシアンを無視しローガは先陣きって歩き出す。

「ヒュ~さすがは先祖返り。頼りになる~。」

 チェイスのウザイ感じの絡みもスルーし歩く速度を速めながらさらに注意して気配を探る。

(む、微かにだがグレンの気配も感知できた。まずいな、例の蛇との位置が近い。それにこの臭いは…。)

 ローガはとりあえず今得た情報を報告する。

「グレンの気配も近くにある。それと微かにだが血の臭いがする。僅かに獣の血が混じったような人間の血の臭…状況からいってグレンの血の臭だろう。」

 報告を受け先程の軽口も出ない様子でチェイスがつぶやく。

「おいおい、そんな事まで分かるのかよ。ちょっと凄すぎじゃねえか?」

「グレンの方に蛇がじわじわと近づいて行ってる。このままちんたら進んでたらグレンがやられる。悪いがちょっと先に行くぞ。」

 そういってローガがスピードを上げる。

「おい、ちょっと待て!先に行くって俺たちを置いていく気か!」

 チェイスの言葉にローガは一瞬足を止め突然周りの木を爪で引き裂いた。

「俺が通った後はこうやって木に傷を付けながら進む。それを追って来てくれ!」

 そう言い放つと全力で駆け出した。

 ローガは凄まじい速さで森を駆けあっという間に見えなくなった。



 

「おいおい、ベテラン冒険者の俺たちを置いて一人で大型魔物の方に突っ込んで行くってどんな新人だよ。」

 チェイスの呆れ交じりのつぶやくにシアンがかみつく。

「なにを悠長な事を言っている早く追いかけなくては!やはり身の程を弁えない新人なんて連れてくるべきではなかったのだ。」

「身の程を弁えない新人ね……案外そうじゃないかも知れないぜ。」

 ローガが残して行った道しるべ。木につけた爪痕を見ながらチェイスはつぶやく。

 ローガが残した爪痕は走りながら木を引っ掻いたのであろうが、木に残った爪痕は引っ掻いた痕などと生易しいものではなく爪が通過した痕はボッコリと抉れていた。


 


 グレンは木の幹に体を隠しながら毒が回り朦朧とする頭で、まさに自分の現状を絶対絶命というんだろうなとどこか場違いな事を考えながら、絶対絶命のこの状況に至った経緯を走馬灯のように思い出していた。


 まず、ローガの情報を基に森を進み蛇の大型魔物を発見したまではよかった。

 次に『見たこともない新種の魔物だから生態を確認した方がいい』とダンが言い出し、それもそうかと納得してしまったのが過ちの始まりだったのだろう。

 当初グレンには魔物に気づかれて戦闘になった場合でも勝算があった。


 グレンの勝算それは種族特性『虎咆』であった。

 種族特性、それは先祖である神祖の能力を引き継いだ一部の者が使用できる特殊スキルでありその能力は先祖にあたる神祖によって様々な能力がある。

 グレンの『虎咆』はグレンの先祖である神祖『人虎神コウガ』が持っていた能力であり普段から臍下丹田に溜めていた気を咆哮とともに解き放ち一時的に身体能力を急激に引き上げるものである。

 

 本来ならダン達に注意を引き付けてもらい、その隙に『虎咆』を使った状態からの全力攻撃を繰り出し一撃で勝負を決めるつもりであった。

 しかし、グレンは今回たまたま臨時パーティーを組むことになっただけの関係のダンとドムを信用しきれていなかったため自分の種族特性の事を話していなかった。

 

 その後、ドムがうっかり音を立ててしまい戦闘に突入した。

 戦いは魔物の硬い鱗で攻撃が阻まれまともにダメージを与えられずじりじりと押され始めた。

 そんな中、グレンが「切り札を使うから少しの間注意を引き付けてくれ」と指示を出したが二人はそれを無視して二人であっさり逃げ出した。

 おそらく、切り札などほんとは無くこちらに注意を引き付けさせておいてその隙に自分達だけ逃げ出すつもりだと思われたのだろう。

 これによりグレン達は切り札を使うタイミングを失い防戦一方となった。

 

 じりじりと後退しつつ戦っていたが不意打ちぎみに魔物が吐き出した毒液をレンが浴びてしまった事で均衡は一気に崩れた。

 グレンはソーヤにレンを連れて逃げるように指示をすると『虎咆』を使い力技で魔物を森の奥へ押し込んでいった。

 ソーヤ達と十分距離を離したところで、今度は自分が生き残るために一か八かの捨て身の攻撃を繰り出した。

 その一撃は功を奏し見事鱗を切り裂いてダメージを与える事に成功する。

 しかし、それが逆に事態を悪化させた。

 傷口から噴き出したどす黒い血。それにとてつもない悪寒を感じとっさに体をひねるが全てを躱すことは出来なかった。

 そして、その返り血を浴びて理解した。この血がとてつもない猛毒であることを。

 ダメージを与えたら与えただけ毒にやられる。『虎咆』の効果ももうそう長くはもたない。つまり勝ち目は全くない。

 その事を理解してからの行動は早かった。『虎咆』の効果が続くうちに出来るだけ距離を取りながら近くにいる小型魔物に死なない程度の傷を負わせていく。小型魔物の血の臭いで攪乱するのが目的だ。

 そうして体が動く限り距離を取り続け、とうとう動けなくなり今に至った。

 

 …。

 ……。

 ………。

 

 不意にハッと意識が覚醒する。どうやら走馬灯を見ながら気絶していたようだ。

 意識が戻ったのは毒による激痛のためだ。先程までは『虎咆』の効果により痛みに耐性が出来ており痛みを認識できたいなかったようだ。

(まずいな……。また意識が飛びそうだ。)

 実際何度か意識が飛んでいたのであろう。痛みで気絶し痛みで覚醒する。地獄のような無限ループだった。もはや時間の感覚も全くない。

 とうとう毒が肺にまで回ったのだろう。激しく咳ごみ始め吐血する。

(吐血……本当にまずいな。血の臭いで気づかれる。無理やりにでもここを離れなくでは。)

 激痛の中そう考えていたところで再び意識を失った。

 

 次に目を覚ますと死が目の前に迫ってきていた。先程の血の臭いを嗅ぎつけてきたのであろう蛇の大型魔物が咢を開き丸呑みにしようと迫ってきていたのだ。

(体が動かん。さすがにもうダメか………。ならばせめてコウガ一族の戦士として死ぬ瞬間までコイツをにらにつけておこう。)

 そう考えて目最後まで目を逸らさなかったからその瞬間を見る事ができた。


 突如空から飛来した何かが迫りくる咢に上からぶつかりそのまま地面に叩きつけクレーターを作った。

 轟音とともに砂塵が舞う中、飛来した何かことローガが笑みを浮かべながら

「ギリギリ間に合ったみたいだな。」

 と声をかけてきた。


 グレンは数舜遅れてローガが空から奇襲の踵落としを叩き込んだ事を理解した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は『神祖』についての補足説明をします。

この物語の時代のはるか前に『神話の時代』とよばれる時代があります。

今では伝説として各種族、各部族に語り継れている事がが本当に起こっていた時代でありこの時代に生きていた者たちが神祖としてあがめられている人たちです。

この時代に生きていた人々(亜人含む)は例外なく皆特殊な能力を持っておりこの特殊能力が遺伝したものが種族特性で種族特性がより強く発現した者を先祖返りと呼んでいます。

しかし、現代に至るまでに他種族と交わり混血化を繰り返しているため現代では全ての人が種族特性を持っているわけではありません。

また、『神話の時代』は現代では考えてられないような強さを持つ魔物が数多く存在し、他にも大陸の覇権を狙う他種族との戦争が日常化していた時代でもあります。

まとめると、神祖とは神話の時代に生きていた凄い力を持った人たちで魔物や他種族と戦いに明け暮れっていたご先祖様という感じです。


次回の読んでいただけたら幸いです。

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