更なる変異
突如として暴れまわるのを止めたレッサードラゴン変異体。それと同時にレッサードラゴン変異体から感じられる雰囲気がガラリと変わる。
先程までは知性が無い獣そのものと言った感じであったが、今のレッサードラゴン変異体からは明確な意志と知性が感じられるようになったのだ。
(なんだ?雰囲気が変わった。)
突然の変化に戸惑うローガ。
それをよそにレッサードラゴン変異体の体がまた変異を始めた。喉から背中にかけての躯幹に血管の様な管が浮き上がり体の器官そのものを急速に作り替え始める。また、まるでその変異の代償であるかのように両手・両足が干からびるようにして萎んで縮み始める。
(チッ!なんかヤバい感じに変異し始めたみたいだ。だが、完全に変異し終わるより俺の攻撃の方が速い。変異が終わる前に息の根を止めてやる!)
見た目は狼男の怪人チックなローガだが、敵が変身中には攻撃しないという怪人特有の紳士協定に加入しているなんてことはない。
微塵の容赦も躊躇も無く心の中の宣言通りに攻撃を仕掛けようとした。
しかし、
「……モ……リ…ノ…オオ…カミ…ノチノモノカ。」
唐突にレッサードラゴン変異体が口を開き意味のある言葉を発した。
初めは慣れていないせいか酷くぎこちない様子で言葉を発していたが次第に慣れたのか聞き取り辛くも流暢に喋り始める。
その言葉がまるでトリガーだったかのようにしてローガの脳裏に突如自分のものではない記憶が流れ込む。
生物が死に絶えた世界/互いの命を削りあうようにして戦う狼と大蛇/ただただ目の前のこの大蛇の事が気に入らない/だから殺す/滴り落ちる大蛇の血で世界が穢されていく/その穢れすらも喰らう狼
フラッシュバックする記憶。
『貴方の兄弟達とお母さんを守ってあげてね。--モリのオオカミ。』
最後に誰かの声が聞こえた。
その言葉は自分が今の自分では無かった頃に初めて聴いた言葉。
始まりの言葉。
ローガが一瞬の白昼夢の様な光景から我に返るとレッサードラゴン変異体の二回目の変異は7、8割方完了していた。
(何なんだ…今のは……。いや、それよりも今は目の前の敵を殺すのが先か。まだ完全じゃないようだが、一応闘えるって程度には変異が終わった感じだな。さっきの変な記憶のせいで攻撃のタイミングを逃しのは正直イタイな。)
ローガの推測を裏付けるようにレッサードラゴン変異体の口内からチリチリとしたドス黒い紫に近い色の火の粉の様なものが零れ落ちていた。
「ワレラガアルジノオンテキ、ココデケシサッテクレヨウ。」
宣言と共に口を開き大きく息を吸う。
その様子を見た野次馬となった冒険者の誰かが悲鳴の様な声を上げる。
「ドラゴンブレス……だと!変異種とはいえレッサードラゴンなんかがそんな大技をだせるなんて……。」
ドラゴンブレスは上位のドラゴン種のみが放つことが出来るドラゴンの固有の魔法である。圧倒的な威力と壊滅的な攻撃範囲を誇るその魔法は一度放たれればその周囲に地獄を生み出すとされるほど代物である。
途轍もない攻撃が来る。そう直感的に悟ったローガ瞬時に打開策を模索する。
その結果、ローガが取った行動は回避でも防御でもなく足下の地面に対し攻撃するといったものだった。
スライムの変異体を相手に実験した爪に闘気を乗せて放つ遠距離攻撃『飛気裂き』(試し打ち後その場にいた冒険者達による多数決の結果飛気裂きになった。)を爪を横一列に揃えて手刀のようにして横一文字に爪を振り抜き石畳に大きな切れ込みを作り出す。
そこにすかさずつま先を入れ蹴り上げるようにして石畳をレッサードラゴン変異体に向かって蹴り飛ばす。
「コシャクナ!シカシワズカニオソカッタナ!」
ローガの予想外の行動に一瞬虚を突かれたレッサードラゴン変異体であったが、すでにブレスの溜めは終わっていた。
「ガレキトトモニクテハテロ!」
その言葉と共にブレスが放たれる。口内から吐き出されるドス黒い色の炎の奔流はローガが蹴り上げた石材程度なら僅か数秒で塵も残さず焼き尽くせるであろうという程の威力を秘めていた。
盾としては脆く攻撃としては僅かに遅い石材の蹴り上げ。
打開策としては下策と言わざる負えないような行動であったが、ローガは選択を謝ったとは考えていなかった。
(これで大丈夫だと俺の直感が告げている。そしてなんとなくだが何とかなる気がする。だからこのまま突っ込む!)
単なる勘を頼りにローガは無謀にも蹴り上げた石材を盾にドラゴンブレスに自ら飛び込んだ。
その勘がただの勘違いだったら致命傷待ったなしのな状況だが、危機的状況下で働くローガの野生の勘的なものは今まで外れた事がない。
呪いと穢れが込めらたドラゴンブレスは盾にした石材を表面から塵も残さず消し飛ばしていき、その余波がローガの紅い獣毛を蝕み始める。
やがて予想通り数秒と持たず石材は消失し未だに放たれ続けるブレスがローガを直撃する。
勝敗が決したと思われたその時、全身の獣毛を紅黒く変色させたローガがブレスを正面から突っ切り姿を現した。
「バカナ!ワガコンシンノブレスヲウケテモシナヌダト!」
器用にブレスを放ちながら驚きの声を上げるレッサードラコン変異体。
そんなレッサードラゴン変異体の驚愕を無視してローガ容赦無く攻撃に入る。
まずは未だにドラゴンブレスを放ち続ける口に踵落しを叩き込み強制的に口を閉じさせる。これによりブレスが強制終了する。
後はひたすら拳の乱打だった。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
拳の乱打を受けて頭部が地面に叩き落とされる。
しかし、ローガの拳は止まらない。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
地面に叩き落とされた頭部が拳の乱打を受けて地面にめり込み始める。
この間レッサードラコン変異体も必死に抵抗しようとしていたが、ドラゴンブレスを放つ為に無理な変異を強行したせいで既に前足は退化したように縮んで干からびている。かといって尻尾はレッサードラゴンのベースのままで頭の前に攻撃出来る程しなやかに曲がらない。
ぶっちゃけ今のレッサードラゴン変異体の体型はほとんどツチノコみたいである。
なので成すすべなくローガの拳を受け続けることしか出来ないのであった。
必死で身をくねらせて逃れようとするがローガの拳は慈悲も容赦も無く降り下ろされ続ける。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
ここでとうとうレッサードラゴン変異体の頭蓋骨が陥落した(というか陥没した)。
頭部に深刻なタメージを与えられレッサードラゴン変異体の抵抗が徐々に弱くなっていく。
ローガは止めとばかりにひたすら、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
とうとうレッサードラゴン変異体が抵抗を止めて動かなくなった。
それを確認したローガはようやく殴るのを止めフゥと満足気に息を吐き汗を拭う。いい仕事をしたと言わんはかりの雰囲気である。
これにてこの戦いにも決着が付いたかに思われた。
「どうやら戦いも終わったようですね。」
一連の戦いを見終わってロイドがポツリと呟いた。
『ああ、そのようだね。私としてはドラゴンブレスを正面から突破した件以外は特にめぼしい収穫が得られなかったから少々不満だがね。せっかく魔導具まで準備したのだから出来れば第三段階からのエネルギーの放出位は見たかったのだが……。』
通信用の魔導具越しにレイザールの少々不服気味な声が響く。
「そういえばドラゴンブレスを正面突破したのってやっぱりローガって奴の種族特性が関係してるんですか?」
バステラルがさきの戦いで疑問に思ったことをレイザールに問いかける。
「バステラル!レイザール閣下に質問など畏れ多いぞ!」
ロイドがすかさず同僚をたしなめるがレイザールは特に気にした様子では無かった。
『いや、かまないよ。先程の質問の件だが答えはイエスだね。あれは石材に身を隠しドラゴンブレスの余波だけを先に受けた事で、種族特性が第一段階から第二段階に移るまでの時間を稼ぎ且つ攻撃の性質を体で覚えたのだろう。ローガ君が自分の種族特性がどういったものか正確に理解しているかどうかは知らないが少なくとも本能的な部分でどうすれば能力を発動させれるか理解しているんだろうね。』
「で、結局ローガって奴の種族特性ってどんな能力なんですか?」
バステラルが調子に乗って遂にその質問を投げかけた。
『ここまで付き合ってくれた君達には話してしまってもいいか……。ローガ君の能力、それは……。』
ここまで話したところでまたローガに動きがあったようだ。
『ほう、どうやらまだ終わった訳では無いようだ。悪いがこの話はまた今度にしよう。』
いところで焦らされる形になったが、状況に進展があったことでそちらに集中してしまったレイザールに二人に反論する事は出来なかった。
なんとか予告通りに更新できました。
次回も10日後を目標に投稿します。
よろしくお願いいたします。




