パーティーを組んでみた
「はぁ~~~。」
ローガは武器屋に入った時とはまるで正反対のテンションでため息をつきながら武器屋からギルドへの道を引き返していた。
(結局ここでも俺が使えそうな武器はなかったか……。)
ローガが落胆している理由は結局この一言に尽きる。
これは別に武器屋が悪いわけではなかった。実際ローガの馬鹿力で振り回しても強度的に問題ない武器はいくつかあった。
しかし、ローガはそのことごとくをうまく使う事ができなかった。
武器というものは当たり前だがその威力を十分に発揮させるためには熟練を要する。
ローガは幼いころからずっと素手で狩りをしてきた。これは村にローガの馬鹿力に耐えられる武器が無かったためだが、そのせいでローガの体は素手で戦う事が染みついていた。
(店に入った直後は物珍しさもありテンションが上がったが、いざ使ってみる事を想定するとどれもピンとこないというか、切るのは爪で十分だし砕くのは拳でやった方がやりやすいしな。あと、村のみんなは簡単そうに使ってたけど弓って案外難しいんだな。)
弓は使いこなすのに熟練を要する武器の中でも最たるものであろう。よほどの才能があるならともかく、今日初めてまともに弓を持ったローガがまともに使えるはずもなかった。
結果、ローガは何も買うことなくこうして落胆しながら武器屋を後にする事となった。
依頼がてら狩りにでもしようかとギルドへ向かっている途中で誰かが声をかけて来た。
「ローガ殿?」
振り返るとそこにはグレンの姿があった。
「やはりローガ殿であったか。先日は助けていただきありがとうございました。」
「おお、グレンじゃないか。もう体はいいのか?」
「毒によるダメージが大きかったが外傷ははとんど無かったので毒さえ抜ければご覧のです。」
「そっか。元気になったみたいでよかったよ。ん?今日は一人なのか?」
「はい。私以外の二人は人間種なので私に使ったような強い薬は使えないようでまだ回復しきれていません。」
「そういえばグレンは人虎族の血を継いでいるんだったな。」
「はい、ですのでこうして二人よりも早く動けるようになったのでリハビリがてら簡単な依頼でもこなそうとギルドに向かっている途中です。」
「それならちょうどいい。俺も依頼がてら狩りにでも行こうかと思ってたところだったんだ。良かったら一緒に行かないか?俺は冒険者になってから日が浅いから一度誰かと組んで色々教わりたいと思ってたし。」
「そういう事でしたらぜひ一緒に行きましょう。私もローガ殿にどうやって恩返ししようかと頭を悩ませていたところです。私で良ければ仲間が回復するまでパーティーを組んで冒険者のノウハウを御教えしましょう。」
「よし、じゃあ決まりだな。」
こうして二人は臨時のパーティーを組むことになった。
二人はギルドで薬草採取の依頼を受け西の森に来ていた。
「さて、薬草採取の前に一狩りして腹を満たそうかと思うんだがいいか?」
「私は構いませんが……もしやもう獲物を捕捉したのですか?」
「ああ、向こうの方に食いがいがありそうなやつがいる。」
「流石は先祖返り……わかりました。てきれば後学のためにローガ殿の戦いを拝見したいのですが。」
「わかった。俺の後についてきてくれ。」
そういってローガは捕捉した獲物の方に歩き出した。
ローガが捕捉した獲物はデカい熊だった。
「グレードベア……この辺に生息する中型魔物の中ではかなり強い魔物ですな。ローガ殿に限って万に一つは無いでしょうが一応気を付けてください。」
木陰からローガが捕捉した魔物を確認しながらグレンが小声でローガに囁く。
「問題ないさ。ちょっと一狩りしてくる。」
そう言い残しローガは音もなくグレードベアの背後に忍び寄る。
しかし、運悪く風向きが変わりグレードベアは臭いでローガに気づき立ち上がって威嚇しはじめる。
ローガは奇襲をあきらめグレードベアに対峙した。
ローガの戦闘スタイルはシンプルだ。魔物すら凌駕するその圧倒的な身体能力でにものをいわせ、わかっていてもまともに反応できないスピートで動き、防御しても無意味なまでの馬鹿力で攻撃する。
今回の戦闘もそれであっさりと片がつく。
地を蹴り爆発的に加速したローガはその勢いのまま心臓めがけて抜き手を放つ。
かろうじで反応できたグレードベアは腕をクロスし心臓を守ろうとする。
そのかいあってローガの攻撃で五メートルほど吹き飛び両腕を犠牲にしたが命だけは助かった。
しかし、獲物に対しローガは慈悲の心を待たない。防がれた時点ですでに追撃に移っていた。
再び地を蹴り爆発的に加速すると今度は吹き飛んで姿勢を崩し先程よりも低い位置にある頭部めがけ膝蹴りを叩き込む。
両腕も使えず姿勢を崩したグレードベアにこれを防ぐ術は無く、頭部の骨を粉々に砕かれ絶命する。
ローガはグレードベアの死体を軽々と担ぐとグレンの下に戻りにこやかに微笑む。
「さて、飯にしようか。」
戦いを見ていたグレンは絶句しながらかろうじで頷いた。
「ローガ殿の戦い方は確かにすごいが少々力任せすぎるように見受けられる。」
グレードベアの血抜きと下ごしらえをしながらグレンは先程のローガとグレードベアの一戦についてをそう評した。
「ん?なんかまずかったか?」
「まずいという訳ではありませんが、体術などを習得し織り交ぜればより良くなると感じたので。」
「体術ねぇ………。それって凄いのか?」
「良ければ食後に組み手をして体術を習得するとどう違うのかをお見せしましょう。」
「面白そうだな。でもグレンはまだ病み上がりだろう。大丈夫か?」
「なに、ごく短時間なら問題ないでしょう。」
食後、薬草の採取をそっちのけにして二人は対峙する。
「もう始めてもいいのか?」
ローガの問いにグレンは待ったをかける。
「少々お待ちください。ローガ殿に相対する以上、万全を期しておきたいので『虎咆』をつかわさせてもらいます。」
「虎咆?」
「私が血を継いでいるコウガ一族の種族特性の一つです。効果は……口で説明するより見ていただいた方が早いでしょう。」
そういうとグレンは深呼吸をして一度心を落ち着ける。自分に流れるコウガ一族の血に呼びかけながら臍下丹田に貯めていた気を咆哮と共に一気に解放する。
「グル…ガアアアアアァァァァァァァァァァァァァ」
全身の体の表面に虎を思わせる紋様が浮かび上がりグレンから感じられる闘気が爆発的に膨れ上がる。
その様子を見てローガは知らずに獰猛な笑みを浮かべていた。
「どうやら手加減の必要は無さそうだな。もういいんだろ?」
「はい、準備は整いました。何時でも、何処からでもどうぞ。」
「なら、遠慮なくいかせてもらう!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
(手加減の必要性は無さそうだとは言ったが、グレンは武器を使わないで体術とやらのみで戦うみたいだからな。俺も爪を使うのはやめておくか。)
そう考え、小手調べに先程のグレードベアとの戦闘と同じように地を蹴って一気に加速し距離を詰めながら拳を握る。
グレンに肉薄し勢いのままに拳を繰り出すがグレンは腕に手を添えるようにして拳の軌道をそらしながら自らも動く。その場で回るようにして拳の軌道上から退きながらもう片方の腕でエルボーを繰り出しローガの後頭部を狙う。ローガの勢いを自らの回転エネルギーに変えて繰り出したその一撃は完璧なかたちでローガの後頭部を捉えた。
ガンッと骨と骨がぶつかったにしてはあり得ない音が響く。ローガは前めりに倒れるようにして吹き飛んだ。
グレンとしては十分手後頭部を強打したごたえがあったが響いた音からしてこの程度では終わらないことは容易に予想できた。
「いっっってぇぇぇぇ」
案の定ローガは後頭部を抑えながら割と平気な様子であっさりと立ち上がる。
グレンは内心舌を巻く。
(完璧なかたちで後頭部を捉えたはずだが………そうか、あれで痛いぜ済む程度のダメージしか与えられないのか………。)
グレンの内心をよそにローガははしゃぎだす。
「なんだいまの!?すげえな!もっと見せてくれ。」
「いいでしょう。どんどんかかってきてください。」
その後もローガ仕掛ける、グレン躱しながらカウンターをきめる、ローガ防御もできずクリティカルヒット、グレン確かな手ごたえを感じる、ローガ割と平気そうにあっさり立ち上がる、グレン驚愕する、の繰り返しがグレンの虎咆の効果が切れるまで続けられることとなった。
「体術ってスゲーな。良かったら教えてくれよ。」
依頼の薬草を採取しながらローガはグレンに頼んでみた。
「いいでしょう。もっとも私は体術はかじった程度なのでそこまで本格的な事は教えられませんが。」
「そっか。それなら俺が本格的に体術を覚えようとしたらどうすればいいかな?」
「まず、前提条件としてローガ殿の身体能力に着いて行ける者はそういないでしょうからね……。格闘技や体術の指南書を読んであとは魔物などを相手にひたすら実践を繰り返すのがいいのではないでしょうか?」
「なるほど。指南書か………読めるかどうか不安だけどやってみるか。」
こうしてローガは武器を使う事をあっさりとあきらめ格闘技を習得していくことにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
前回武器屋に行っておきながらまさかの結末。
しかし、ローガの武器は素手オンリーなのはプロットの段階から決めていました。
じゃあなんで武器屋に行かせた等のツッコミはなしでお願いします。
今回はあまりに素でスルーしていて説明を忘れていた冒険者の二つ名について説明。
大蛇討伐の前の自己紹介の時、チェイス、シアン、ベルルカ、ゴルドがそれぞれ名乗っていますが、これはけして自称という訳ではありません。
冒険者は頭角を現していくと自然と周りからその戦闘スタイルなどを比喩した二つ名を周りの冒険者からつけられる習慣がこの世界のギルドにはあります。
そのため、二つ名が付けられる=周りの冒険者から一目置かれているという図式が成り立つので冒険者同士の自己紹介の時は二つ名を名乗って自己紹介するのが冒険者の習わしとなっています。
となみに、影が薄いなどの理由で実績があるのに二つ名が着かない冒険者も中にはおり、その場合はそのギルドのギルドマスターが着ける事になります。
さらに、蛇足知識として過去にある町ではギルドマスターが二つ名を着けたが、あまりにネーミングセンスが無さ過ぎて悲惨な二つ名が着いてしまいそれを苦にして冒険者をやめた者が出た事があり、それ以降ギルドマスターになる条件としてネーミングセンスがいいという条件が追加されたとかいう都市伝説が冒険者の間に広まっています。
次回も読んでいただけたら幸いです。




