大蛇討伐後の報告
グレンを回収し町への帰路の途中ベルルカが思い出したかのようにローガに忠告する。
「ローガよ、お前は町に戻っても中に入ってはいかんぞ。お前はなぜか毒が効かんから忘れているかもしれないが、お前は今全身大蛇の毒の血でずぶ濡れだ。大蛇が死んだことで咒毒でこそなくなったがその血がいまだ危険な毒であることには変わりない。洗い落とすまでは町に入ってくれるなよ。」
「そういえばそうだったな。狩りで返り血は浴びなれてるからあんまり気にしなかったけどこの血には毒があったんだったな。」
ちなみにローガは普段狩りの時は血の匂いに惹かれて集まって来る魔物などを狩るためにワザと返り血を浴びることが多々あり全身血まみれでもでもあまり気にしない。
「仕方ないか確かこの森泉があったよな。ちょっと行ってくる。」
ローガが泉に向かおうとするのをベルルカが慌てて止める。
「ちょっと待て。お前まさか泉に入って全身を洗い流すつもりか?」
「そうだけど?」
「それは止めておけ。水で薄まるとはいえそれはど強力な毒だと泉の中の生物にどんな悪影響が出るかわからん。最悪泉の生態系が壊れるぞ。」
「む、魚が食えなくなるという事か。それは確かにダメだな。なら俺は雨が降るまで町の外で野宿でもしておく。」
「えらく極端な結論に達したな……。そこまでしなくても誰かに水を持ってきてもらえはいいだろう。」
「俺にそんなことを頼める知人はこの町にはいない。」
むしろ誇らしげにキッパリとそう言い放つローガ。
「悲しくなるような事を堂々と言うなよ。わかった後で俺が持って行ってやるよ。」
見かねたチェイスがギルドへの報告後に水を持ってくることを約束した。
「ギルドへのひとまずの報告はチェイスとシアンの二人で頼む。私とゴルドはこのままグレンを医者の所に連れて行く。」
ベルルカの提案にチェイスが頷く。
「わかった。そっちもグレンの事が片付き次第ギルドに来てくれ。おそらくギルドも全員の報告を聞きたいだろうからな。」
「私はそのまま解毒薬の精製に協力しようと思っているからそんなに早く報告にはいけないぞ。」
「わかった。それならゴルドだけでも来てくれ。あと出来ればローガの所に水を持っていくのを手伝ってくれれば助かる。」
「了解だ。」
ゴルドがいつも通りボソリと返事をして話はまとまった。
やがて、特に問題なく一行は町にたどり着く。
チェイス達が町の中に入っていくのを見送りながらローガは考えごとを始める。
(思いがけず時間が出来たな。今のうちにさっきの戦闘の時の感覚について思い返してみるか。まず、あの時の大蛇と対峙した時に感じた全身の毛穴がブワァと開く感じ、あれにはなんか身に覚えがある気がする。)
そう考えてローガは記憶の中を浚う。
(思い出した。確かアレは俺がまだ五歳位の頃、森の中で遊んでいて熊とばったり出くわした時にも感じたやつだ。)
ちなみにローガは今でも知らないがその時の熊はデスグリズリーという中型魔物に部類される魔物であり一対一ではランク6の冒険者でも死を覚悟するレベルの魔物である。
(でも俺、あんときの事よく覚えて無いんだよな……。確かあの時は例の全身の毛穴がブワァ開く感じがしてそれから………ためだ、やっぱり思い出せない。気が付いたら熊の首をへし折って狩り殺してたんだよな。これじゃ参考にならないな。その後のビュビュッと抜ける感じから先は全く覚えが無いし。)
そこでローガの腹の虫盛大に雄叫びをあげる。
(そういえば腹減ったな。なんか狩って飯にしようか。)
ローガはもともと物事をあまり深く考える質ではない。あっさりと考えることを放棄し空腹という欲求に従い狩猟本能を全開にして獲物を探し始めた。
この時にはすでに後でチェイス達が水を持って来てくると言っていた事はローガの頭の中には無かった。
「おいおい、アイツ何処に行ったんだよ。」
当然ながらギルドへの報告を急いで終わらせて水を持ってきたチェイスとゴルドは待ちぼうけをくらうことになった。
しばらくして、
「いやーわるいわるい。腹減っちまって我慢できなくてな。狩りに夢中になりすぎて水持ってきてくれるって言ってたことすっかり忘れてた。」
ローガが全く反省の色が見えない感じで謝罪する。あまりのフリーダムっぷりに二人はもはや怒るより呆れていた。
「おまえな~、一応俺たちは冒険者の先輩にあたるんだからもうちょっと敬意ってものをもってくれよ。」
「だから悪かったって、説明してなかったけど俺って本気で戦うとその後で急激に腹が減る体質なんだよ。」
ローガの弁明を聞きゴルドも口を開く。
「あの時の力の反動ということならばこちらもあまり一方的に責めるのは筋が通らないだろう。今回の依頼では我々は何もしていないに等しいからな。」
「あ~、それを言われると強くは言えないな。それじゃローガとっとと体を洗ってギルドに行くぞ。」
「わかった。ちょっと待ててくれ。」
ローガは手早く体についた血を洗い流しギルドへ向かった。
ギルドに着くと出発前にも通された会議室へ案内される。中に入るとあの時と同様にギルドマスターのモンドとガッデムが待っていた。
「よく来たな。さっそくで悪いが実施に大蛇と戦ったおぬしにいくつか質問したい。」
ローガが部屋に入るなりモンドが大蛇について聞いてくる。
「それは構わないけど難しい事はたぶん答えられないぞ。」
「構わんよ。大蛇の能力や特徴については調査隊を向かわせておるから死体を調べるうちにわかる事じゃろう。しかし、血が咒毒になっておるような異常な新種の魔物じゃ。古代種かそれに連なる魔物である可能性が極めて高いことになる。少しでも情報が欲しいのじゃよ。どんな些細な事でも構わん、実際に大蛇と戦ったおぬしが感じた事や気づいた事があれば報告してほしい。」
「感じた事?あぁ、ヤツの気配になんか妙な違和感があったこととかか何故かヤツの事が異常に気に入らないと感じた事とかか?」
「違和感と気に入らないと感じた?ほう、興味深いの。ぜひ詳しく教えてもらおうか。」
「といってもうまく説明できないぞ。なんというか………その……単に俺が感じただけの感覚なんだが……アレは…そう、本来なら未だこの世界に存在できないはずなのになぜか居るみたいな……悪い、自分で言っといてなんだが自分でも何が言いたかったのかわからん。ヤツの事が気に入らないと感じた事もなぜそう感じだのかうます説明できそうにないな。ていうかこんな事が何かの参考になるのか?」
「うむ、中々興味深い話じゃ。しかし、おぬし先程未だと言ったの……。」
「ん?俺そんなこと言ったか?」
「間違いなく言っておったぞ。」
近年では先祖返りは血を継いだ神祖の魂の一部を継承しているのではないかという説が有力視されつつある。現に先祖返りがポツリと神話の時代を生き抜いた者しか知りえないような情報を無意識に話したという事例が度々報告されている。
(先祖返りが無意識のうちに言った言葉か……単なる言葉のあやならいいんじゃがな。)
そこで今度は今まで黙って話を聞いていたガッデムが口を開く。
「大蛇の話も重要だが俺としては戦闘中にローガが見せたという種族特性と思われる力も気になっている。なんでも客観的に見たらどう見ても死んだとしか思えない状況からほぼ無傷で生還しそのまま大蛇を討伐したらしいな。」
「あの時のなぜ急にアイツの攻撃が効かなくなったのかは今思い返しても自分でもわからないんだ。」
「ふむ、攻撃を無効化した………か。そういえばそのような種族特性特性を持つ一族がいると聞いた事があるな。」
ガッデムの言葉にモンドが反応した。
「ガッデム殿、貴殿が言っておるのはおそらく獅子の獣人族のレグザリオ一族のことじゃろう。確か『獅子王の闘鎧気』という能力じゃったはずじゃ。効果は術者の力量で時間が変わるが数秒から数分間の間あらゆる攻撃を無効化出来るという能力じゃな。」
「へぇ~ギルドマスターだけあって爺さん物知りだな。」
ローガはド田舎で育ったため敬語を使うという習慣がない。というか警護というものの存在自体知らない。故にギルドマスターであろうと基本的にタメ口で話す。
そのため、昨日出会ったばかりのギルドマスターもすでに爺さん呼ばわりしていた。
モンドもローガがド田舎から出て来た事は知っているので言葉遣いぐらいは気にしない。
「ほっほっほっ、そう持ち上げてくれるな。といってもレグザリオ一族は獣人族の中でも最強と噂される者たちでその能力についても有名じゃ。わしが特別物知りという訳ではないぞ。」
「レグザリオ一族か………ローガお前実は狼の顔をしているが実は獅子の獣人だった、なんてことはないか?」
「ガッデム殿よ、それは流石にあり得ないじゃろう。しかし、もしかしたらその血が流れておる可能性はあり得なくもないの。」
「となると、ローガお前まさか二重特性持ちか!?」
「二重特性持ち?」
また新しい単語か出て来な、っとローガは自分が問われたのに他人事のように呆然と聞き返す。
もちろんド田舎育ちのローガはこの単語が何を意味するか知らない。
そんなローガを放置してガッデムとモンドは勝手に話を進める。
「しかしガッデム殿、今まで先祖返りで二重特性持ちなど聞いた事がありませんぞ。そもそも、先祖返りの特性上二重特性持ちなどあり得ないはずじゃ。」
「確かにそう考えるのは早計すぎるな。そもそも、ローガが使った能力が『獅子王の闘鎧気』であったかどうかすら定かではないしな。」
「うむ、むしろ今は伝承にすら残っておらん失われた神祖の血が隔世遺伝したと考えたほうが自然じゃろう。」
「失われし来歴を持つ神祖か……それはそれで興味深い話でだな。」
「もしそうだとするとまた謎が増えた事になるのう。ローガの詳しい能力はわからんが攻撃を無力化する、あるいはそれに準ずるような能力の種族特性を持っていることはほぼ間違いないじゃろう。そのような強力な種族特性を持つ神祖の伝承が今に残っておらんというのは不自然じゃ。」
その後も二人で大蛇の話もそっちのけでああでもないこうでもないと話し続ける。
完全に蚊帳の外におかれる形となったローガは一人つぶやく。
「大蛇の話はもういいのか?というかなんか話が脱線してないか?」
そのつぶやきを耳にしたモンドは咳払いをして弁明する。
「コホン、ローガよ我々の話は別に脱線していたわけではないぞ。先祖返りであるはずのおぬしがあの大蛇に対し何か感じる所があったというのなら過去におぬしが血を継いだ神祖とあの大蛇の種との間に何かしらの因縁があったと考えられる。故におぬしのが血を継いだ神祖がどのような者であったかがわかればそこからあの大蛇の正体がわりだせるかもしれんと考えてのことじゃ。決して下世話な野次馬根性という訳ではないんじゃよ。」
「そうだったのか。それで何かわかりそうなのか?」
「いや、残念ながらおぬしの祖についてはわかららない事が多すぎる。おぬし本当に親から何も聞いていないのか?」
「う~ん。あっ、そういえば昔母ちゃんから『あなたには森の神の加護がついている』って言われた事があったような。」
「ほう、『森の神』……か。神話の時代の書物を紐解けばなにかわかるやもしれんな。」
「まあ、どの道ここで議論したところ結論はでないと言う事だな。」
ガッデムがそう結論を出しこの場の議論はお開きとなった。
「ところでさっきから神話の時代とか二重特性持ちとか言ってたけどそれってなんなんだ?」
ローガは最後までマイペースだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は半ば説明会のパート2という内容になりました。
今回出て来た二重特性持ちですがこの言葉だけでどのようなものかある程度わかると思いますが一応説明しおきます。(作中では全く触れていなかったので)
その名の通り二種類の神祖の種族特性を発現した者のことです。
ちなみに極めて稀ですが三重特性持ち、四重特性持ちも存在します。
しかし、二種類以上の種族特性が発現した場合一つ一つの能力の出力や性能が低下していきます。これは継いだ血の割合が関係するからです。
例えば神祖Aと神祖Bの二人の祖を持つ二重特性持ちがいた場合、彼の種族特性の発現の仕方は神祖Aの種族特性が50%神祖Bの種族特性が50%といった具合にそれぞれの神祖の持つ種族特性が半分ずつ発現します。厳密には遺伝の仕方で必ずしも50%ずつになるわけではありませんので、神祖Aの種族特性が60%神祖Bの種族特性が40%など発現の仕方は様々です。
そのため、三重特性持ちや四重特性持ちの能力は基本的に一つ一つの能力がしょぼくなります。
ちなみに先祖返りはこの割合が親からの遺伝の割合など関係なしに無条件で100%になります。
今回のモンドとガッデムの会話の中で先祖返りの性質上二重特性持ちはあり得ないと言っていた理由はそのためです。
また、神祖の持つ種族特性は一種族につき一つと限定されているわけではありません。中には複数の種族特性を持つ神祖も存在しています。
次回も読んでいただけたら幸いです。




