赤い夢とパステルカラーの日常
――肌寒い時期のことだった。
いつもなら空が高く冷たい空気を纏う漆黒の空が、醜い感情みたいな鼠色の何かを纏いそこにいた。
いつもなら街の街灯達の明かりが星を攻撃してしまい星が情けなくよろめいているが、今日星を攻撃しているのは街灯ではなかった。街灯の明かりのほうがまだ易しいかもしれない。
今にも泣きそうな空をしている繁華街の中心は人間の卑劣な感情モノに支配され今にも崩れてしまいそうだった。歩道には人間が出した不要物が散りばめられ、車道には車やバイクの出す汚い空気が漂っている。
「いっそ空の上にいる神様の涙が降ってこの汚い感情やモノが流ればいいのにな」とさえ思える。
そんな不純物に塗れた騒音ばかりの繁華街に佇む獣。
獣がニヤリと口を歪ました瞬間、画面が黒く塗りつぶされて何も見えなくなる。
視界が何も見えないこともあり、脳が、情報収集の為優先的に必要と判断した聴覚へ全神経の感覚が集中される。そうすると、聞こえきたのはグチュグチュと言った生々しさを帯びる擬音語とけたたましい声。やがて金切り声は分厚い防音性の壁に吸収されたみたいに小さくなってくる。
生々しい音もやがては消えた、静寂に満ちた暗闇になった瞬間だった。
突如街灯の明かりが消しゴムみたいに黒く塗りつぶされた視界を消してくる。
目が慣れた頃には今まで能力を発揮しなかった嗅覚が働き、思わず鼻を塞いだ。
そこにあったのは食い荒らした残骸。息をしている者なんていない。電話をしながら歩いていた帰路につくサラリーマンや彼氏に纏わりついて夢を見ていた高校生もみんな事切れている。
ふと、視線を感じた。そこにいたのは朱に濡れた獣、真紅の口紅を塗ったような大きな口をこちらに向けて言った。
「 」
その刹那、足元が抜けたような感じに陥り、深淵に叩きこまれる。
自分を支えていた意識の糸がブチッっと音を立てて切れてしまった。
*
――――さん……奥名さん!朝ですよ!!
アルトボイスが気持よく耳を通り抜けていく。
瞼がやっと持ちあげれるようになったので開いてみたら、いつもの白い天井。
覗きこんでくる小さな女性。
「ああ…夢か」
さっきの繁華街も、鼻を塞いでしまうくらいの血なまぐさい匂いも、死んでた人達もあの獣もみんな夢だった。
「おはようございます。千津絵さん」
いつものように看護師さんへの朝の挨拶、これが日常。
「おはようございます。奥名さん。朝の薬飲みましょうね」
そう言ってトレイに乗った、水入りコップと白い錠剤を一粒手渡した。
最近春が近づき日差しが少しずつ暖かくなって来て、少しコップに入った水がほんのり甘かった気がする。
―――これが日常。奥名 宏樹の日常。




