62.第一試験
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
いよいよ、一級魔導士選定試験の当日を迎えた。
会場となるのは、帝国立魔法学院の裏手に広がる広大な大演習場である。
土と青草の匂いが入り交じる風の中、かなりの数の受験者たちが集まり、ただならぬ熱気を放っていた。
演習場の周囲には、受験者の親類縁者や弟子、師匠など、様々な人々が見守っている。魔法学院の生徒たちもまた、未来のトップ魔導士たちの姿を目に焼き付けようと見学に訪れていた。
(たくさんの人が来てる。それだけ重要なイベントなのね)
ソフィアは、自分にできる最高の杖を仕上げた。
だが、それで公式杖職人としての仕事が終わりというわけではない。
魔法使いにとって、杖は必須アイテムであり、相棒である。
今回の試験では、受験生たちは普段の杖を使えないという厳しい縛りが課せられているのだ。
それがストレスとなり、本来の実力が出せないような事態になってはならない。
そうならないように、彼らをしっかりとサポートをすること。
(ガンダールヴル様も仰っていた。統一杖という試みは、職人である私が寄り添ってこそ完成するのだと。皆さんが安心して魔法を使えるよう、最後までしっかりと見守らなくちゃっ)
「フィー」
背後から呼ばれ、ソフィアはパァッと顔を輝かせた。
振り返ると、そこには軍服姿のギルバートが立っている。
「ギルさん。お疲れ様です」
「ああ、おつかれ」
いつもなら甘い雰囲気になる二人だが、今日のソフィアは真剣モードだ。
当然である。ここにいるのは愛しい恋人であると同時に、この試験の公式杖職人なのだから。
ギルバートもまた、彼女の姿勢を受けてすぐに仕事モードの顔つきになる。
今回の試験には、帝国軍人であるギルバートたちだけでなく、ゲータニイガ王国の騎士たちも護衛として多数参加していた。
「がんばれ、フィー」
「はいっ」
優しく微笑みかける彼に、ソフィアは力強く頷き返す。
そこへ、ジュリアンも合流して挨拶を交わした。
「それで、第一試験というのは何をするのだ」
「もうすぐ説明があると思います」
ジュリアンが視線を向けた先、演習場の中央には三人の八賢者が並び立っていた。
刃の賢者ラーズスヴィズ、光の賢者ガンダールヴル、そして竜の賢者ファフニールである。
「これより、第一試験を始める」
ラーズスヴィズの凛とした声が、ざわめく会場をぴたりと静まらせた。
「今回の三つの試験は、我ら三人の賢者がそれぞれ作った課題だ。すべてを突破できた者だけが、一級の魔法使い……すなわち、魔導士となる。では、まず第一試験だ」
彼女はそう宣言すると、車椅子からゆっくりと立ち上がり、腰に帯びた杖剣を静かに引き抜いた。
そして、何もない空間を鋭く切り払う。
キィン、と空気が鳴き、空間そのものがパカリと口を開けた。
「すごい」
ごくり、とギルバートが息を呑む。あまりにも速い斬撃だった。
若き天才魔法使いであり、軍の大佐クラスの使い手である彼ですら、目視できない一撃である。
空間に走った亀裂は、まるで黒い硝子が割れたかのように広がり、一人が通れるほどの禍々しい大穴を作り出した。
その奥には、演習場とは全く異なる荒涼とした景色が広がっている。
「一人ずつ、この切り取られた空間に入ってもらい、中にいる魔法生物と戦ってもらう」
魔法生物と一口に言っても多種多様である。
一体どんな恐ろしい魔物が潜んでいるのかと、受験者たちの間に動揺が広がった。
「余が用意した、可愛い竜どもだ」
ファフニールの言葉に、受験者だけでなくギルバートも僅かに目を見張った。
「いきなり古竜と戦うのか」
古竜とは、長い年月を生きた竜のことである。
竜は年を経るごとに知性と魔法力を高めていく。数百年、数千年と生きた古竜が備える力は、もはや一般の魔法使いが単独で相手にできるレベルを遥かに超えていた。
「当然だ。魔導士ともなれば、竜との戦いなど日常茶飯事だからな」
事もなげに言い放つファフニールに対し、ギルバートは怪訝そうに眉をひそめる。
「ファフニール様はそれで良いのですか。相手は同胞では」
「弱い同胞などいらん。人に負けるような奴は特にな」
竜の王としての冷酷なまでの実力主義に、ギルバートは息を呑んだ。
古竜と一対一で戦う。その事実だけで、集まった魔法使いたちの顔色が悪くなっていく。
「あの。辞退しますっ」
一人の受験生が震え上がりながら手を挙げた。
それがきっかけとなり、数人がすでに同じように辞退を宣言し始める。
「ふんっ。臆病者が」
ファフニールが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
大魔法使いから直接なじられたのだ。辞退を宣言した魔法使いたちは、己のプライドをいたく傷つけられ、ガックリと項垂れてしまった。
見かねたガンダールヴルが、まあまあ大師匠、となだめるように白い髭を撫でる。
「己の分を弁えるのも、また必要なことじゃて」
にこり、と受験者たちに向けて、ガンダールヴルが優しく微笑みかける。
「己が命が最も大事じゃ。わしは、君たちの判断を否定しない。むしろ、勇気と無謀を履き違えぬその聡明さを、評価したい」
その温かい言葉によって、辞退宣言者たちは少しだけメンタルを回復させた。
一方、ラーズスヴィズとファフニールはフン、と鼻を鳴らす。
「相変わらずバカ弟子は甘すぎる」
「珍しく意見が合ったね。まったくあんなのでは強い魔法使いが育たぬではないか」
三人の間にある力関係が、なんとなく透けて見える。
ラーズスヴィズとファフニールが極端に厳しく、ガンダールヴルが宥め役に回っているようだ。
「して、若き魔導士候補者たちよ。挑む者はいるか」
「はいっ」
一人の若いモブ魔法使いが手を挙げ、前に進み出た。
「よし。では、健闘を祈る」
男が、切り取られた空間の中へと足を踏み入れる。
すると、ガンダールヴルが杖を掲げ、光の魔法を発動させた。
空中に巨大な光の膜が張られ、中の様子が鮮明に映し出される。
「なるほど、外の様子をこうして監視、というか観戦できるのだな。まるで見せ物だ」
ギルバートの言う通り、一級試験には興行的な側面も多分に含まれている。
警備を担当しているからこそ、帝都に流れ込んでくる人間の数が明らかに増えていることを実感していた。
この試験を娯楽として捉える者。リクルートのチャンスだと目を光らせる者。そういった人々を相手に商売をする者。
集まった大衆が楽しめるようにという配慮もまた、実行委員の重要な仕事なのだろう。
(そういう細々とした調整はジュリアンがやっているのだろうな。フィーは杖しか作っていないし)
視線を向けると、ジュリアンが恐縮ですとばかりに頭を下げる。
なんとも仕事のできる、それでいて謙虚な男だった。
さて、一番手の男はどうなったのか。
映像の中で、男が足を踏み入れたのは、赤茶けた土が広がる荒野であった。
魔法によって生み出された別空間であり、そこへラーズスヴィズが道を作って繋げたのだ。
『どこに竜が』
男は警戒しながら周囲を見渡す。竜の姿は見当たらない。
あるのは巨大な岩山だけだ。だが、その岩山がゴゴゴと重低音を響かせて動き出した。
岩の表面がひび割れ、巨大な四肢と凶悪な顎が姿を現す。
「地岩竜、ベヒーモスだと」
ギルバートだけでなく、観戦者たちも驚愕の声を上げた。
かつて一つの都市を容易く消し飛ばしたという、災厄の化身である。英雄アインが討伐して以来、単独でこの巨体を打ち倒した者は歴史上に存在しない。
『こ、こんなの無理だっ。無理ぃっ』
亀のごとき重厚感と、岩石で覆われた強固な外殻。
あれが若き古竜なのかと、外で見守る者たちは絶望的な溜息を漏らす。
「はじめ」
ガオォオオオオッ。
空気を震わせる咆哮に、魔法使いは「ひぃいいっ」と悲鳴を上げて飛翔魔法で逃げ惑う。
だが、ベヒーモスは鈍重そうな見た目に反して素早く追いすがる。
放たれた強烈な空気弾が、空間の壁に激突した。
しかし、見えない壁はビクともしない。
「どうなっているんだ」
「ラーズスヴィズ様の切断魔法です」
驚くギルバートに、ソフィアが静かに解説する。
「空間を完全に切り離して独立させているので、中でいくら暴れても外には影響がないんです」
「さすがは余の一番弟子であるな」
解説を聞きつけたファフニールが、これ見よがしにドヤ顔で胸を反らした。
映像の中では、ベヒーモスが大暴れしている。
魔法使いは中級魔法である火炎連弾を放つが、全く歯が立たない。
「あの竜、魔法を乱す特殊な外皮を持っているようです」
一瞬で本質を見抜くソフィアの的確な観察眼に、ギルバートは感心するばかりだ。
魔法が通じないと悟った男は、恐怖のあまり泣き喚き始めた。
そして、ベヒーモスの巨大な爪が彼を引き裂こうとした、その瞬間。
シュンッ、と音を立てて、男が空間の外へと転移して弾き出された。
「不合格」
ラーズスヴィズが冷たく言い放つ。
腰を抜かしてへたり込む男を見て、ギルバートは目を丸くした。
「今のは」
「私の作った統一杖に搭載した、強制離脱の術式です。使い手が生命の危機を感じると、杖が感知して自動で外に転移するシステムになっています」
とんでもない神業をさらりと言ってのけるソフィアに、周囲の者たちはあんぐりと口を開けて絶句した。
地面に這いつくばる魔法使いは、完全に心が折れてしまっていた。
ファフニールが冷酷な視線を下ろす。
「不合格だ」
「少し厳しすぎるのではないですか」
見かねたギルバートが声をかけると、ファフニールは鼻を鳴らした。
「馬鹿者が。一級の魔導士とは、一般の魔法使いの頂点に立つ者だ。民を守る強固な盾であり、最強の矛でなければならん。折れず曲がらずの強い精神を持っていなければ、話にならんのだ」
正論で一喝され、ギルバートは言葉に詰まる。
「この程度の絶望で心が折れるようでは、論外だ」
厳しい言葉を浴びせられ、魔法使いの男はボロボロと涙をこぼした。
もう魔法使いなんてやめてやる、と自暴自棄になっている。
そこへ、ソフィアが小走りで近づき、預かっていた彼の杖をそっと差し出した。
ピカピカに磨き上げられた、美しい杖である。
「なんだよ」
「本当に良い杖ですね。今回は確かに残念でしたし、一級には届いていませんでした」
ソフィアはそっと膝をつき、男の目を見て優しく微笑む。
「でも、杖を見ればわかります。あなたは、戦いにはあまり向いていない。その代わり、治癒魔法がとても得意なのではないですか」
「な、なんでそれを」
「杖が教えてくれたんです」
それは比喩表現であった。
魔力の通りやすさや、使い込んだ魔法の属性。杖に染みついた微かな痕跡から、ソフィアは彼の適性を正確に見抜いていたのだ。
「一級魔導士には、どうしても苛烈な戦いが必須となります。だから、別の道を探すのも一つの手です。たとえば、治癒師を目指すのはいかがでしょうか」
ソフィアは幻の犬耳をふわりと揺らし、温かい声をかける。
「戦えずとも、誰かを癒す魔法を使える時点で、それはとても素晴らしい才能なんですから」
その言葉に、男はハッと顔を上げ、大粒の涙を拭った。
絶望の淵から救い上げてくれるような職人の眼差しに、ギルバートとジュリアンはただ静かに感嘆の息を漏らすのだった。
【おしらせ】
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