47.美しき竜の解放
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
ソフィアが竜の心臓を見抜いた直後。
ファフニールは口元を三日月のように歪め、楽しげに言った。
「面白い。仮合格の祝いに、特別に許可してやろう」
彼女は小さな手でソフィアを指差した。
「小娘。貴様に、余が【魔法を使うのに必要な】杖を作る権利をやろう」
「えっ!?」
声を上げたのは、リサとヨランダだった。
二人は顔を見合わせ、色めき立つ。
「凄いわソフィア! 六大陸魔導協会・会長の杖よ!?」
「歴史的快挙ですわ! これを作れば、工房の名は世界中に轟きます!」
二人が興奮するのも無理はない。
世界最強の魔法使い、牙の賢者ファフニールの専用杖。それは職人にとって、この上ない栄誉であり、到達点だ。
だが、ガンダールヴだけは沈黙を守っていた。
彼の目には、緊張の色が浮かんでいる。
(……これは『試練』じゃ。ソフィア嬢。それを理解しているか否か……)
ギルバートも固唾を飲んで見守る中、ソフィアは静かに口を開いた。
「いいえ。お断りします」
「……は?」
リサたちの歓声が止まった。
ソフィアは、表情一つ変えずに首を横に振った。
「貴女に、杖は必要ありませんから」
ファフニールの目が、すぅっと細められた。
琥珀色の瞳が、獲物を狙う爬虫類のように輝く。
「……ほう? 言ってみろ、その訳を」
「はい。簡単なことです。人の魔法と、竜の魔法では、その在り方が根本的に異なるからです」
ソフィアは淡々と、しかし確信を持って解説を始めた。
「人は、体内の魔力を『杖』という外部回路に通し、増幅・変換して魔法を発動させます。杖は、人にとって必須の『増幅器』です」
「うむ」
「ですが、竜は違います。竜の魔法は、体内だけで完結している」
ソフィアはファフニールの体を真っ直ぐに見つめた。
「竜の体は、それ自体が巨大な魔力回路であり、完成された『杖』そのものです。これ以上、外付けの杖など不要。むしろ、不純物を混ぜれば出力が落ちます」
外部に杖を求めるのは、人の理屈。
最強の生物である竜に、補助輪は必要ない。
ソフィアの言葉を聞き終えると、ファフニールはニヤリと笑った。
「……合格だ。よく勉強しているな、ヴィルの孫」
試されていたのだ。
リサとヨランダが「ひえぇ……」と脱力して座り込む。
「ただ」
ソフィアは言葉を続けた。
これには意外だったのか、ファフニールが目を丸くする。
「ただ? なんだ?」
「強いて言えば、ファフニール様の杖、つまりその『体』は、重大な不具合を抱えています」
「……ほう? 余が病気だと?」
「病気というか……その小さな体に、大海原のような魔力を押し込めるのは『窮屈』ではありませんか?」
ファフニールが言葉に詰まった。
図星だったからだ。
「貴女の魔力量は規格外です。人に化けている間、その膨大なエネルギーを常に圧縮し、暴発しないよう抑え込んでいるはず。……それじゃあ、体を動かすのも億劫でしょう?」
「……ふん。流石はヴィルの血筋か。その通りだ」
ファフニールはふてぶてしく脚を組んだ。
「人の姿は、人社会で暮らすのには便利だが、不自由極まりない。少し感情を昂らせれば、周囲が消し飛ぶからな。全力で走ることすらできん」
ギルバートの脳裏には、先ほど、ファフニールが溜息で、魔物の群れを追い払った姿がよぎる。
ただの息であのレベルの災害を引き起こすのだ。
彼女は、人間社会で暮らすために、常に「爆弾」を抱えて生活しているようなものだった。
「でしょう? ですから、どうしますか?」
「どうするも何も、我慢するしかあるまい」
「いいえ。解決策はあります」
ソフィアは作業机へ向かい、一本の杖を取り出した。
それは、黒く淀んだ水晶が埋め込まれた、奇妙な杖だった。
「これを使ってください」
「……なんだそれは。魔力の通りが悪そうな杖だな」
「ええ。これは『吸魔の黒水晶』と『魔喰い樹』で作った試作品です。魔力を吸いすぎて魔法が発動しない、失敗作でした」
ソフィアはそれを差し出した。
「この杖は、魔法を撃つためのものではありません。『捨てる』ためのものです」
「捨てる……だと?」
「現状、ファフニール様は人化の制御を、ご自身の精神力のみで行っています。それを、杖に任せるのです」
ソフィアは説明する。
「貴女の有り余る魔力を、常にこの杖へ流し続けてください。そうすれば、貴女の体内に『余白』ができます。圧縮する必要がなくなり、体が軽くなるはずです」
それは、逆転の発想だった。
杖を「増幅装置」としてではなく、余剰エネルギーを逃がす「排熱ダクト」として使うのだ。
「……非効率極まりないな。魔力を垂れ流すなど」
「ええ、それがいいのです」
「……くくっ、面白い」
ファフニールは興味深そうに笑い、その杖を手に取った。
「では、試してみるか」
彼女が杖を握った、その瞬間。
ズズズ……ッ!!
黒水晶が妖しく輝き、ファフニールの体内から猛烈な勢いで魔力を吸い上げ始めた。
「……ほう? これは……」
「今です。体の制御を解いてください!」
ソフィアの合図と共に、ファフニールの全身から眩い光が溢れ出した。
ボウン!!
店内に白煙が充満する。
「げほっ、げほっ! な、何!?」
「どうなったの!?」
リサとヨランダが慌てる中、煙が晴れていく。
そこに立っていたのは、先ほどの幼女ではなかった。
「……ふぅ。久々に、背筋が伸びたな」
豊満な胸、くびれた腰、そして白磁のように滑らかな肌。
翡翠色の長い髪を揺らす、絶世の美女がそこにいた。
年齢は二十代半ばほどだろうか。その美しさは、人ならざる神々しさを放っている。
「なっ……!?」
ギルバートは絶句した。
これが、ファフニールの本来の(人型の)姿なのか。
「おお……! 体が軽い! 魔力を練らなくても維持できる!」
ファフニール(美女ver)は、自分の手を見つめ、歓喜の声を上げた。
杖が勝手に魔力を吸ってくれるおかげで、無理な圧縮から解放されたのだ。
「どれ、少し試してくる」
「え?」
「外へ出てくる」
ドンッ!!
衝撃波と共に、彼女の姿が消えた。
フクロウ亭のドアが開け放たれ、強烈な突風が吹き荒れる。
「うわぁっ!?」
ギルバートたちが強風に耐えていると、数秒後。
スタッ。
何事もなかったかのように、ファフニールが戻ってきた。
その右手には「極北の氷塊」、左手には「南国の果実」が握られている。
「大陸を一周してきた。……良いな、これ」
バリバリ、とそれらを豪快に食べるファフニール。
「なんてことだ……すごすぎる」
ギルバートは呆然と呟いた。
数秒で大陸一周。音速どころの話ではない。
魔力から嘘かまことか判別できるソフィアだけは、それが嘘ではないと理解していた。
「人の体で、ここまでの飛翔、久しぶりだ。なんとも良い心地だった」
「りゅ、竜の姿になればいつでも空を飛べるのでは?」
とギルバートは至極当たり前の疑問を抱く。
「大陸の人間を無闇に、刺激するようなことは避けてるんですよね?」
ソフィアの回答に、ファフニールがニコニコと笑うだけで答えた。
ソフィアもまた嬉しそうに笑ってる。使い手、そして杖、どちらもが満足できる結果を得られた。良い仕事ができた、とソフィアは笑ったのである。
「気に入っていただけましたか?」
「ああ、気に入った」
ファフニールは上機嫌で、美しい顔をソフィアに近づけた。
「ソフィア。お前は竜の構造を、竜以上に理解している。……合格だ」
彼女は、ソフィアの頬に手を添えた。
「余の弟子となれ。八宝斎の名を継ぐに相応しい場所へ連れて行ってやろう」
【おしらせ】
※3/1(日)
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