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「ふぅ……、ふぅ……、ふゥゥ……―――。大女優との恋は……、まだまだ早いわよ、坊や――」
その女優は歩みを止めず、ただただ……。
「アナタにはまだ、アナタ自身の素材を超える力は全く無いわ。カオがそれで、演技もソレなら全く駄目よ。駄目駄目ダメ……………っ、素で突っ立ってるだけの良い男にも勝てないっ。もっともっともっと……もっとよッ」
しっかりなさいな。
観客が納得いかないエンドにはどうあがいても達しない、それが女優、それが義務。
息を切らしフキゲンそうにその……。
「台本について言う気はないわ。でもアナタ……、アナタは力業に出過ぎよ、役をやっつけてどうする気なの、余裕なさすぎよっ、話にならないわ! それにアナタはねぇ、最初から浮ついているっ……、明らかに波が見えるのよ、頑なだわ、少しは考えなさいよっ」
さぁ……、、でももう来たわ、行きましょう
「カーテンコール――」
そう言って幕を落とした舞台。
オーラもない、演劇に興味もなかった、不釣り合いだったろう、全てが足りなかった。経験不足だった。
足が震えた、震えあがった……。
「初めて見た……――。あの子の中の女優……アレが駄目出しした所……――」
涙して唇を噛む、終始あごに点々浮かび上がらせながら、観客を前に泣いた、泣きむせいだ。
その隣では輪廻が満面の笑みで、観客達のその顔を無垢に眺めるのだ。
「ありがとー、ありがとーっ! 皆のおかげだよーーっ、ありがとうございまーーーす♥」
少し有名になり出した彼女に群れる笑顔、元気に笑い返す純真で無垢な少女。
輪廻だけを残し、後は早急にはけて行く。それしかできなかった。
「グッジョブだよ、戸北――、君とは友達だろう、今からはね」
そう言うと道井戸先輩はすぐに着替えて出ていく。
彼は言ったらしい、もう2度と芝居はしないと。
「おぃ、おしかったな……」
――。
―――――――――。
「違うぞ……、本当におしかったぞ……。俺が火をつけたが、全く成功するなんて思ってなかった。でもあともう少しだと……っ、アレはそうだよ、少なくともそう見えたんだっ、良く戦えたんだっ! これは立派な演技なんだよッ!」
そう……だよな……――。
涙をにじませる木島。だが壮太は涙さえも……。
「ごめん……」
一人、どこへともなく消えて行く、それを止めれる者はいなかった。
「なぁ………、それで、俺は復帰しても良いかな……演劇に」
「ご自由に……。歓迎するわよ、もちろん雑用としてです、雑に死んで……――」
涙を拭いながら、灯火は眼鏡を上げるのだ。
「なぁなんでオマエ……、食っちまわなかったんだよ」
「良いじゃないですか、別に……―」
「はぁ……はぁ……はぁ……、そうか、まぁそうだよな……――」
出てきてしまった事を後悔した。何せ舞台の衣装が残っている、じろじろ見られてしまうのだ。
世界はどこも厳しいと感じる、一人。
すると突き飛ばされた――!
そのまま無理やり押し込められる、そこは関係者だけが入れる通路。そしてそのベランダの……。
「もぉ……、なんで行っちゃうのかなぁ、私の舞台を無茶苦茶にしてぇっ! はぁ……はぁ……でもやっぱりなんか考えてたんだねぇ……、もぉ~~~、なんかすっごく腹立たしいのねぇっ。ヤダなぁ~ヤダなぁ~~っ、ともちゃんもマイチ先輩もさぁ……っ!」
風に吹かれながらも、輪廻が喋り続けている。
だが気が気でない壮太、ただただ……。
「ねぇ、それであんなの初めてだしっ! 肉体関係での仕事はね、まだあなたには早いわ――、なんて言われたのっ。ねぇ……どうしたの、それでなんでこんな事したの壮太くんっ!? こんな事しちゃダメだよ、演目と違う舞台なんて駄目ッ!」
信じられないほど別人、それはでも……、もうきっと「あの………うん、ごめんね。一応頑張ってみたけどね、駄目だった……。だってあんなに下手に見えたからさ……。はぁ……はぁ……、あの程度ならいける、道井戸くらいなら俺でもなんとかなるかなって、そう思ったんだ。もうこれしかないなって……」
「それは……、でも無理だよ、きっと無理なの」
「そうなんだ。多分どんだけ頑張ってもそんなに上手くならないよ。本当にたまたまさぁ……、うん、さっきの劇のキメ台詞だってネットで見たんだ、アイーダの誰かの受け売りなんだよ。ごめん」
「そっか……」
「灯火とマイチ先輩にまで才能無いって言われた。なんとなくだけど、このままじゃどうにもならない気がする。だからいつまでも君の心に響かせる事は多分ないんだ……、きっと君の記憶に残る事はできない。ごめんね……」
――。
―――――――――――。
「ねぇ、それでなんで、そんな御託並べるの? 消化不良だよ――」
ちゅっ……――――――。「今しかないじゃない――、キス」
驚いてすくんだ、本当にびっくりしたんだ、だってスゴイ下手だったから……。
歯が当たったのを必死に隠した彼女の笑顔には、残念だが血が流れていたんだ。
まるで完全に田舎娘で、コッチに配慮を求めていて。
「あぁ輪廻、あの………っ、あのあのあの――――――!?」
「最初のキスの記憶になるのかな……、これが……。戸北くん、いや、壮太……――」
そう言うともう一度近づく、そして大きな涙雨が――。
「あぁヤダ……もっ、雨だよっ。こんな時にヤダもぉぉ~~~っ……――!?」
逃げざるを得ない、最悪のタイミングでの大粒の雨。
だが良いじゃないか。
女優も世界も、この雨だって、まだ今はソレで良いよ。
「あとは俺がどうにかするさ――」
このストーリーは演じ手を探している、このストーリーはきっともっと続くだろう。でも絶対絶対、最後には……。
あぁいや――。これは最初からストーリーなんかじゃありません。きっとそうなる、きっときっと羽ばたく。
記憶はいつだって美しい翼を広げるんだ、魂に刻まれたものはきっと消えはしないさ……。
そして張り出されるのだ。
『大女優の伴侶、完売です――』
あとがき
はい、猫板家工房のKです。
如何でしたでしょうか。
それでかなり前に描いたものなので、あとがきらしいのがありません、ごめんなさいね。
えと、それで。次作は恐らく12月ですね、コミケの時に合わせようかと。
多分この来訪者数だと当分ラブコメは書かないかな。その分だけしっかり来てくれた方が分かりましたが、ありがとうございました。
次はなろう系だと思います。ただ私の描くのは……まぁ、おおよそ違いますが。
楽しめると思います、何せ私が楽しめる奴しか書かないので。
私は比較的戦闘・バトルを描くのが得意です。
それでこの期にコメントや評価などを残していただくのはありがたいですが、返信は一切しませんので。
私は……、その人の感想を重視します。面白いと私が言ったら面白い箇所となってしまうので、別にそこで泣いても良いですし怒っても良いので。
ありもしない難くせ以外は反応しません。それも粛々と消すだけですし。
全て読ませてはもらいます。
ありがとうございます、モチベになりますから。
ではまた次のあとがきで、ではでは~~。




