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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
36/50

Oblivion Episode 36 宿敵

【烈風の神槍】。

同じ【七星】の【樹海の番人】と【時の魔女】の兄妹とは幼馴染であり、【比翼の蒼緋】とも然程歳が変わらない若き将。

自然の力と時空の力と類稀な属性の使い手である兄妹と違い、彼は純粋に風属性を自在に操る。

2人の希少性に対し【烈風の神槍】はやや力が劣るのではと思われがちだが、裏を返せばスタンダードな属性である分極みに至りやすい側面も持つ。

加えて前回の戦いでも幼馴染2人が撃破されても殆ど動じなかった、武人気質の男である。

あの時は緋色の少女との属性相性を警戒し交戦を避けたが、今の彼はそんなことお構いなしに連合軍の行く手を阻む強大な壁として立ちはだかる。


烈風「猛き風の咆哮、【ヴァイオレントハウル】!!」

蒼の公子「氷室の結界、【クリスタルプリズン】!!」


唸りを伴う暴風が、2人を襲う。

蒼の公子は、氷の結界で防御を敷き対抗する。

所々ヒビが走るも何とか守り抜き、【ヴァイオレントハウル】の収束と共に【クリスタルプリズン】が解除されたタイミングで、緋色の少女の弓から矢が放たれる。


烈風「!?この風が止まぬ中で…!リーヴェの民は千里眼とでもいうのか!」


射出速度も申し分ない矢を、【烈風の神槍】は軽くいなす。

しかし当然それを見越した上で、2人は次の手を打って出ていた。

やはり相性上は有利とわかり切っている緋色の少女が、燃える剣を手に詰めてきた。


緋色の少女「はあっ!」

烈風「!見た目にそぐわずこの力…!あいつが力負けするのも、頷けるな…!だが!」

緋色の少女「!!」


緋色の少女の前では槍に風属性を展開しない戦法に打って出た【烈風の神槍】。

反対に鍔迫り合いの最中、別個で周囲に2本の創生した風の槍を展開させ、背後を狙いすます。

だが、今戦っている敵が単騎ではないことを失念する。


蒼の公子「やらせるものか…!清流の水刃、【アクアエッジ】!!」


蒼の公子の手で風の槍は打ち消され、代わりとばかりに水属性の攻撃を放つ。

研ぎ澄まされた弾丸は思いの外射出速度が速く、いち早く回避が最優先される。

しかし、目の前の緋色の少女がそれを許さない。


烈風「(!?こいつ、相方ごと…!?それどころか…)押し切れ、ない…!?」


緋色の少女を振り切れない。

下手に押し返そうものなら、彼女と自身、どちらに被弾してもおかしくはない。

このまま相討ちに持ち込もうとでもいうのか。


烈風(いや違う…こいつらは今の立ち位置が逆でも同じことをする。何故ならこいつらは…)


無論緋色の少女もそのつもりはない。

事前に打ち合せなくとも、目配せしなくとも、相方の考えていることを読むことができる、この戦争で一躍名を挙げたアリエル公国の双璧。

以心伝心の一言では表せない、最高峰の二人一組。


烈風「(【比翼の…蒼緋】…!)チィッ…!!」


攻防の末水の刃が先に緋色の少女に命中する手前、最小限にかわし【烈風の神槍】のみに命中する。

最初の2発は迎撃したが、3発目が被弾する。

体勢を崩され、よろけたところを容赦なく緋色の少女が打ち込んでくる。


烈風(やはり、無謀だったのか…?)


視線の先には、加勢しようと迫ってくる蒼の公子が目に映る。

彼だけなら、前回の戦いでも互角に持ち込めた。

今は、目の前の緋色の少女の猛攻に風の槍なしで応戦しており、ここに彼が加わろうものならもはや厳しい。

少なくとも【樹海の番人】と【時の魔女】…2人がいなければ話にならなかったと、【烈風の神槍】は悟る。


烈風「(だが、俺も諦めが悪くてなぁ!)ここで、お前を道連れに…!!」

緋色の少女「!?」


【烈風の神槍】が、一度槍で受け止めた緋色の少女の剣を素手で引き寄せ、もう片方の腕で持ち替えた槍で彼女を貫こうとする。

振り解こうにも、彼の風属性の魔法による拘束がそれを許さない。

如何なる反撃をも許さない決死の魔法が炸裂しようとしたその瞬間だった。


烈風「!?」


緋色の少女に一矢報いようとした矢先、腕と両足が一瞬にして凍り付いた。

蒼の公子の得意とする戦法の一つ。

予め水属性の魔法を打ち込み、周辺や身体に飛散した水分を離れた場所から凍らせ拘束する。

かつてその技で、僅か12歳にして敵を屠ったこともある。


烈風(さっきの【アクアエッジ】の残骸か…!)

緋色の少女「これで…!」

蒼の公子「終わりだぁぁぁ!!」


拘束が解かれた緋色の少女と、蒼の公子による渾身の一撃が【烈風の神槍】を捉える。

自律行動で動く3本の風の槍をも再度破壊し、致命傷を与えた。

膝から崩れ落ちる音がした。

それは聞き間違えではなく、蒼の公子と緋色の少女はそれ以上の追撃はかけなかった。


烈風「強い、な…寸分の狂いもない、唯一無二の連携…」

蒼の公子・緋色の少女「「…」」


己の槍に絶対的な自信があった【烈風の神槍】だったが、この二人の前では全く以て歯が立たなかった。

反面比翼の蒼緋からしたら、彼は十分に脅威であった。

自分の身を顧みない攻撃で、事実緋色の少女は危機に陥った。

蒼の公子がいなかったらどうなっていたことか。

結果は失敗に終わり、今正に文字通り地に斬り伏せられている。


烈風「情けねぇ、な…」


そこで【烈風の神槍】から声は聞こえなくなった。

誇りある武人を制し、2人はその場を去った。

【烈風の神槍】の敗北は、ウルノ帝国軍に衝撃を与え士気が大幅に低下した。

それ程までに【七星】の一角をものともしない彼らの連携は圧巻であったのだ。

道を阻む者以外の敵には目もくれず、そのままこの戦場を支配していた【虚空の探求者】の元へと急ぐ。



帝国兵「報告!両翼の戦いは拮抗、しかし中央の連合軍の勢いが止まらず、戦線が崩壊の一途を辿っています!!」

虚空「…散発の隕石では戦局を変えるまでには至らないか。」


蒼の公子の大号令により、帝国軍とは対照的にアリエル連合が異様なまでに士気が上がり盛り返していた戦場を持ち堪えさせるべく、彼は自らも星の力を奮いつつ指揮していた。

だがそこへ、自陣奥深くだというのに味方を次々と薙ぎ払い、無双してくる人影が2つ。

それが一体、何を物語るか。


虚空「まさか…【烈風】が負けるとはな…!」

蒼の公子「後は…貴方だけだ!!」


味方が障害になり得ず、斬りかかろうとする蒼の公子と、彼に追随する緋色の少女。

彼らとの距離は、すぐそこまで迫っている。

戦況を見極める以前に、歴戦の【虚空の探求者】ですら対処に追われざるを得ない。

まだ手はある。


虚空「(狙うのはリーヴェの娘…!)満天の箒星、【シューティングスター】!!」

緋色の少女「!?」

蒼の公子「なっ…!?」


先行する蒼の公子を他所に、【虚空の探求者】は後方の緋色の少女を狙った。

対象を中心に星屑をドーム状に展開し一斉に狙う、星の魔法の中でも上位に位置する【シューティングスター】。


蒼の公子「___!!」

緋色の少女「私は大丈夫ですから!行ってください!!」

蒼の公子「くっ…!!」


無数に襲い掛かる星屑を捌きながら、緋色の少女は訴える。

その眼は決して諦めてはおらず、蒼の公子に【虚空の探求者】への対処を託した。

彼女の想いを無駄にできず、彼は再び単身立ち向かう。


蒼の公子「どいつもこいつも、___にばかり…!!【虚空の探求者】…覚悟!!」

虚空「天空の民の脅威は、お前が一番知っているであろう?万有の神秘、【コズミックヴェール】…!」


【コズミックヴェール】。

星の力を司る結界を展開し身を守る防御系の魔法。

【虚空の探求者】程の熟練者ともなるとその結界を破るのは極めて至難の技で、蒼の公子を以てしても割ることが困難だ。

しかし押し負けてもいない。

この激戦に終止符を打つべく、蒼の公子は全ての力を出し切り打ち破るつもりだ。

その気迫に、絶対的な強固さを誇る【コズミックヴェール】に亀裂が走る感覚すらも覚える。

【虚空の探求者】が、立て続けに一手を投じる。


虚空「こやつめが…圧し潰してくれる!崩潰の陣、【グラビティ】!!」

蒼の公子「ぐうっ…!?」


【コズミックヴェール】を展開しながら、もう一つの魔法を行使する高度な技、【ダブルスペル】が炸裂する。

【虚空の探求者】は、重力を操り蒼の公子の勢いを止めにかかる。

しかしそれでも、彼は重力に抗い、膝をつかない。

目線はずっと、【虚空の探求者】を捉えたまま。

あまりの執念に、彼はは驚嘆すらも覚える。


虚空(ここまでやれるのか…リーヴェの民でもない公国の人間が…)

蒼の公子(絶対に負けられない…!!踏ん張ってくれている___のためにも!!)

蒼の公子・虚空「「オオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」」


意地と意地のぶつかり合い。

蒼の公子の剣と、【虚空の探求者】の守り。

決着の時は、突如何かが割れる音と共に迎えた。


(ガキーン…___)


堅牢さを誇った【コズミックヴェール】が、打ち破られた。

同時に呆気に取られる【虚空の探求者】と、力を使い果たし倒れ込む蒼の公子の姿。

痛み分け、いや、まだ【虚空の探求者】が動ける。

誰しもが彼の勝利を確信した、その時である。


蒼の公子「後は…任せたよ、___!!!!」

緋色の少女「っ…!!」

虚空「馬鹿な…あの星屑の雨を潜り抜けたというのか…!?」


満身創痍の緋色の少女が、倒れ込む蒼の公子を横目に突っ込んできた。

その真紅の両眼には涙が浮かび、しかし決意を胸に剣を手にする。

今すぐにでも、その身を粉にして【虚空の探求者】への突破口を開いてくれた蒼の公子の元へと駆け付けたい、無事を確認したい。

そんな想いをしまい、彼に託されし振り下ろされる剣を止める手段を、【虚空の探求者】は持ち合わせていなかった。


緋色の少女「はあああああああ!!!!」

虚空「ッ…!!(ここまで、か…)」


緋色の少女の剣が【虚空の探求者】を捉えた時、即ちそれは後世でこの動乱の中でも熾烈を極めた激戦に数えられる【ヴィシュヌの会戦】の終結を意味する。

ヴィシュヌ平原を舞台に、始まりは無数の隕石が降り注ぎ、それでも連合軍の両翼の騎馬隊が持ち堪え、中央の部隊が勇敢に帝国軍の正面を切り開き、最後はアリエル公国が誇る【比翼の蒼緋】が【七星】の二角を撃破する。

帝国軍が撤退する中、その瞬間を見届けた者から歓喜が波及していくのだった。

・白銀の翼

緋色の少女…戦乙女 Lv45+

蒼の公子…ノーブルロード Lv45+


・七星

【虚空の探求者】…ソーサラー Lv48

【烈風の神槍】…槍戦将 Lv44

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