第10話 灼熱のデスマッチ! 第3戦 鈴鹿・決勝
どうも!ラドロです!今回は比較的量の多い回にできました!
それでは、どうぞ!
ウェイトが軽いマシンが1−2−3を独占(?)した予選。しかし休憩を挟んだ(今回レース時間が長くなるため、予選が午前、決勝が午後と分けられた)鈴鹿は予選時と全く異なるコンディションだった。
『さあ結果が出ました。ものすごいことになってますよ。予選は気温22度、路温が25度だったのに対し、今はなんと気温35度、路温46度という大変な数値になっています!』
ポールを獲得した楽天等上位陣はソフトタイヤを履いていたと思われる。しかしそれではこの暑さの場合周回を重ねるのが難しいだろう。タイヤの硬さはグリップ力の高さや耐久性だけでなく本来のパフォーマンスが出せる温度も異なる。予選時はソフトが一番だったがこの暑さではミディアムでもギリギリと言ったところだろう。さて俺たちKONはというと
「…ハードで正解だったな」
「だな。ヒロが言い出したときはビビったが」
「事実Q2の時タイヤ温めるのかなり大変だったぞ」
「大祐でもそんなに…!」
そんなふうに俺たちが話す中、この大ギャンブルを持ちかけ、成功させた本人ーーヒロこと正宏ーーはマシンの状態を逐一確認してくれている。もしここで優勝できればライバルに圧倒的なポイント差を作れる。それがわかっているからこそ彼もかなり入念に準備しているのだろう。第1スティントの担当は俺だ。そしてピットインの回数義務は今回シリーズ最多の最低4回である。
「おし!確認終わり!創一、乗れ!」
早速俺はマシンへと向かった。
『さあ今、SCがピットに入りました。この周スタートです。全57周の鈴鹿ラウンド、最初で最後のボーナスポイント付きのラウンド。はたしてここで大量得点を獲得し、チャンピオンに1歩2歩抜け出すのは誰なのか、今シグナルグリーン!2台のLC500を筆頭に各車一斉に駆け出す!』
圧倒的加速力でポジションアップを狙ったのはマザーNSX 、加藤凛だったが無理はできず1コーナーでは変動がなかった。さて後続はというとかなり攻めるマシンが2台あった。
7番手スタートのタキオンと10番手スタートのアミューズメントだ。この2台は1コーナーで1つ前のマシンに仕掛けた。そしてこの2台はまさに天国と地獄の展開を迎える
『さあそして1コーナーでいきなりタキオンが仕掛ける!インをこじ開け、オーバーテイク!そしてアミューズメントも外から…ああああああ!!』
外側から一気に仕掛けたアミューズメントだったが前のスープラの左側面に当たり、弾かれてしまった結果、1コーナーのグラベルへと飛び出してしまった。
『早速出ました魔の1コーナー!!前戦の勝者、アミューズメントが1コーナーでコースオフ!』
なんとか復帰したアミューズメントだったが大きく優勝争いからは離れてしまった。
レース3周。この時点でトップのLC5002台はすでに3位以下に3秒の大差をつけていた。
スタートドライバーは楽天が佐倉太郎、NTTが足立琉真だ。双方に無線が飛ぶ。
「佐倉、足立。今3位が2人の3秒後ろ。KONがいいペースなんだがマザーが蓋してくれてるから今のうちにマージンを稼いでほしい。マシンに異変があれば教えて下さい」
これに対し佐倉は
「バランスに異常はないです。ただ摩耗が気持ち速いのである程度したら守りに回ります」
足立は
「了解。飛ばしますよ」
とと返答した。
一方後続のチームでも無線が飛び交っていた。
KONは
「創一、前の2台と今およそ3秒差。早いとこ抜いてくれたらクリアになるから」
「了解。頑張るよ」
マザーは
「凛、ここ踏ん張りどころだからね」
「わかってる」
すでに各チーム勝利・逆転に向けて動き出していた。
レース4周。逆バンクでKONがマザーに一気に近づいた。そして
『さあテールトゥノーズだ!マザーの真後ろにKONがぴったり付いている!デグナーではどうだ!1つ目はラインを完全にマザーが閉めている、2つ目でも…マザーがラインを塞ぎます!絶対に行かせないという意志が伝わってきます!そして立体交差をくぐりますが…アウトにKONが寄せている、マザーも軽く寄せて牽制してくる!そしてヘアピンでおおお!KONが一気にラインを変更してヘアピンでインを取った!
立ち上がりはどうだ!NSXが少し前に出たか!?いや、まだ並んでいる!次は緩やかな右コーナーが暫く続くがどうだ!?今度はマザーがインだ!加速で一歩前にでる!…しかしKONも負けてはいない!必死に食らいつく!そして今度のスプーンではそうなるとKONがインだが!?さあどうなる!…なんと一気にKONが前にでた!周回数4周目のスプーンコーナーでKONが完全にマザーの前に出ました!』
しかしマザーも諦めてはいない。凛はGT-Rの真後ろにつけ、バックストレートに入る。
ギアを1つ、また1つと上げてゆくたびに脳内のギアがどんどん上がる。そして
(これ130Rでワンチャンある…?)
そう思い仕掛けるも、コーナーでの速さはどうしても叶わず、シケインの立ち上がり、メインストレートで詰め寄るもコーナーで差を作られ、結果として6周目にはKONに1秒の差がついてしまった。
「ごめんなさい。もう無理です」
「いいよいいよ、ここからしっかりね」
レース7周。KONのピットが実況の声にすこし緊張が走る
『さあ、7番手スタートだったタキオンが5番手にまで上がってきました。クイーンZとの対決です!』
「創一、今タキオンが結構速い。タイヤどうかな?可能ならペース上げてほしいんだけど」
「タイヤは厳しい。多分マザーとのバトルで消耗した」
「了解。けどあと5周は粘ってもらうよ」
「わかった」
そして今まさにタキオンと直接対決しているクイーンー望美ーはちょうどバックストレートの中腹を通過したところだった。
(ハンディはうちらの方が軽い…絶対行かせない)
そう思いながら彼女は鈴鹿の名所、130Rへ差し掛かった。おそらくここでも並走すると読んだ彼女はインを攻める。予想通り並んで130Rを抜けた2台だったがここでタキオンが突如彼女の視界から消えた。シケインに差し掛かりブレーキを踏みながらミラー越しに見るとリアを滑らせてそのままスピンしていた。その車体はこちらへと向かっており…
(ぶつかる!)
とっさにそう判断した私はアクセルをとっさに踏んだ。しかし同時にエンジンは直前にパドルへと入力された信号に従ってシフトダウンをしていた。この相反する動作がとんでもない事態を引き起こす。
(…なんで...?エンジン音がおかしい。)
「大丈夫?!ギリギリで避けたけど」
「なんかエンジンがおかしい。ピット入る」
そうして何とかピットロードに入るもすでにエンジンはガガガガと異音を上げている。なんとかピットストップ。
「エンジン再起動してうまく行けば即出るよ?」
「OK!急いで!」
手早くエンジンを切り、再びスタートボタンで再起動させる。これでいつも聞き慣れた音が鳴り響くはず……という期待も虚しく
ブゥゥガダガダガダ…
と異音が響いた。試しにクラッチを踏んでふかしてみる。するとまたしてもガガガガ…と異音を上げるばかりだった。しかし走れることには走れる。そう思って発進させようとすると
「ストップストップ!」
突然無線が鳴り響き反射的にアクセルを離す。なんで、と聞く前に理由はわかった。というのも突然マシン右にシュー…という音が響いたのだ。目線を合わせるとNPCが消火器を使っている。そしてマシンの右側にはエキゾーストパイプーエンジンから出た排ガスを排出する所ーがある。ということは…
(火災…!)
しかしすぐに
「OK!行って!!」
と指示が飛ぶ。アクセルを踏み、発進させるがすぐに止めてしまう。なぜなら
(煙…!)
「やっぱ降りて降りて!エンジンから火が出てる!」
その言葉を聞く前からすでに行動に移していた。スタートボタンの下にある消火器ボタンだけ押し、マシンから脱出する。
出るとそこには由衣が立っていた。
「…エンジンブローだね」
「…ごめんなさい」
「謝罪はいい。原因は?」
「タキオンがこっちにスピンしてきてたからシフトダウン中にアクセル踏んだ…」
「なるほど。…まあなんにせよもうダメだね」
「そういえば…タキオンは?」
こちらの異変に気を取られていたが元はと言えばタキオンが130Rでスピンしたのだ。あのあとどうなったのか…
「シケイン前でクラッシュしてSC」
「…了解」
これでタキオンの鈴鹿ラウンドは幕を閉じた。
鈴鹿ラウンドはレース7周でSCという展開を迎えた。これにより各チームの戦略が良くも悪くも変わる。まず姉妹チームで1,2だったLC500の2台は
「最悪だよ。なんでここでSCなんだよ〜」
と嘆いていた。というのも彼らの作戦は2つあるテンプレ的作戦のうちの1つ、ソフトタイヤによる先行逃げ切り作戦を敢行していた。タイヤの寿命が短いためピット回数は5回になるがペースはいいので後ろとの差が大きく確保でき、結果的に周りよりもピット回数が多くても前に出れるという作戦だったのだ。しかしSCによって今まで築いていた差がなくなり、それも不可能に近づく。かといって今更変更もできない。よってこのSCは優勝から大きく遠ざかることを意味するのだ。
一方これに歓喜するのはKON。彼らが選んだ作戦はもう1つのテンプレ作戦、4回ピットによる我慢の走りだ。ピット回数は最低限ですむがタイヤはグリップの低いハードを履き、燃料も満タンに入れながらも極力節約して走る必要がある。しかしSC中は速度が80キロ以下に制限されるので燃料の減りが少なくカツカツだった給油に余裕が生まれるのだ。そこで正宏監督は決断を下し、無線で伝える。
「創一。アンチラグ、使っていいよ」
「本当?いけるの?」
「ああ。ピットまで猛プッシュしろ」
アンチラグ。それはアクセルを踏んでからエンジンに動力がかかるまでに発生するラグを減らすものだ。これはペースを上げられる反面、燃費が低下する。なので我慢の走りをしているKONには本来なら使えないものだった。しかし燃リスによる最高速を代償に手にした燃費向上とSCによる給油の余裕のおかげで数周程度ならそれも可能となったのだ。
レース9周で再開。ここで創一がいきなり仕掛ける。
『さあレース再開です。周回数9周目!各車メインストレートをフルスロットルで駆け抜けていくが…おおっとお?KONがNTTにテールトゥノーズだ!LC1,2を崩しにかかる、1コーナーどうだ!!インはLC、アウトはGT-R…立ち上がりでKONがオーバーテイク!』
こうなったらもう誰も創一を止められない。勢いそのままに2つあるS字コーナーの2つ目の立ち上がりで楽天をもオーバーテイク。
「ヨォシ!!」
「創一、ナイスです。ピットは3周後に行います。それまでフルプッシュして下さい」
「OK!行くぞ!」
結果として10周目にLCの2台がピットインするまでに1.5秒の差を築き上げた。そして彼らに遅れること1周、創一もピットロードへ入った。LC勢等先行逃げ切り作戦を実行したチームは50秒程度だがこちらは燃料を満タンまで入れなければならない。結果として1分もピット作業に費やしてしまった。1.5秒のマージンなどほぼ無意味だった。ピットアウト時にはすでに2台が1コーナーへと向かっていた。
楽天やNTTの方からしてみればこれでトップ奪還、チームは歓喜に包まれる、と思いきやまだ厳かな雰囲気のままだった。監督の厚大から無線が飛ぶ。
「多分KONは4ピットだね。頑張れよ…」
トップに復帰できたにもかかわらず頑張らなければいけないのはどういうことか。それはこれまでにも何回も話にでてきたピット回数の差である。
彼らはKONなどよりもピット回数が1回多い。つまり1位を獲得するにはKONに1回のピットタイム分の差、時間にして約1分を稼がなければならないのだ。本来なら十分な差を持ってピットを終えられたのだがSCで差を消され、リスタート後には予想外に速いペースで周回され逆に差を作られたくらいなのだ。彼らには猛プッシュして最後のピットまでに1分のマージンを稼ぐというとてもハードな任務が与えられてしまったのだ。
レース14周目。全チームピットを終えたらしい。リスタート直後と違い、アンチラグの使えないKONの大祐はアウトラップの周回遅れに引っかかりペースが落ちた結果前の姿を捉えられず焦りが募る。
「大祐、今前の2台と15秒差です。これぐらいでキープしていけたら全然勝ち筋はあります。頑張って」
「了解。ただアウトラップのマシンを抜くときにタイヤカスを拾ってピックアップがすごいな。きついかもしれん」
レースをしていると当然タイヤは磨耗する。では摩耗した分のタイヤのゴムはどうなっているのか。答えは単純で小さなゴミーータイヤカスと呼ばれるーーとなって周りに散乱するのだ。タイヤカスは特にコースの外側に飛び散ることが多く、周回遅れのマシンを抜くときにコースの外側を走ったKONはタイヤカスがタイヤに付着してしまい、しかも熱のこもったタイヤに一度ついたそれはなかなか取れず、ダラダラとペースを落としてゆくのだ。これをピックアップと呼び、コーナーの多い鈴鹿を走る上では特に対策が必須となっている。
レース16周。猛スピードで追い上げを見せるマシンが1台現れる。オレンジ色のスープラ、アミューズメントだ。一時は最下位まで落ちたが、SCによる差の解消とピットで一気にポジションを上げてきた。
『さあレースは16周を迎えました。ここで猛烈な勢いで追い上げるマシンがでてきました。アミューズメントはリスタート時は最下位でしたが今は7番手にまで登ってきました』
快調に飛ばすアミューズメント。その作戦は
「厚志、ミディアムとは思えない、いいタイムだ。ガンガン飛ばしてけ。そうしたら次ハードなので楽になるぞ」
「了解」
なんとミディアムとハードを交代順番で使い、前者のときにフルプッシュ、後者のときに守りに徹するというトリッキーなギャンブルに打って出た。しかしこうすることでペースアップと余分なピット回数の省略の両立が実現できるのだ。
レース18周。現在順位はトップから楽天、NTT、KON、マザー、チーム無双、さらにあれから1ポジション上げたアミューズメントが並んでいる。NTTとKONには20秒もの差がある。しかし厚大監督の顔は厳しいままだ。無線を飛ばす。
「ふたりとも、KONが20秒後ろ。もう少し差を伸ばしてからピット入ってくれると嬉しい」
返答があったのは楽天からだ。
「頑張るけど、すごく厳しいですよ。桜が行けるなら前譲りますけど」
「ちょっとまってね。桜に聞いてみる」
そしていろいろ無線を交わし結論を伝える。
「雄太、桜も厳しいっぽい。なんとか引っ張ってほしい」
「了解」
そして2周後。再びLCの2台はピットインを行う。ここでなんと
『周回数20周で楽天とNTTがピットを行っております。現在給油中ですが…あ、NTTが給油を終えたが楽天はまだ給油中だ!NTTがリアタイヤを交換する!少し遅れて楽天もタイヤを交換!そして両者ピットアウト!NTTが楽天を抜いた!なんとNTTは姉妹チームをピットでオーバーテイク!』
給油に差が現れ、NTTが前に出た。ピットタイム52秒。
更に4周後。KONもピットに入る。ミスのない完璧なピットを行い57秒でピットアウト。
そしてレース25周。全チームが2回目のピットを終えた。ここであのマシンがレースに復帰する。
『おおっとお?エンジンブローによってガレージに入っていたクイーンが戻ってきたぞ?確かにリタイアはしていないから復帰自体は可能ですけど…18周遅れになりますね。勝ち目はなくとも最後まで走り切る、ということでしょうか、だとしたら素晴らしいスポーツ精神です』
(エンジンはレース中でも20分の待機さえこなせば交換できる。どうせ交換するならここでもう走っておき感触を確かめて…)
「絶対に次は勝つ…!」
冷静に次戦を見据えたクイーンの由衣は1コーナーを曲がった。
一方冷静さを失ったドライバーもいた。チーム無双の三浦百合だ。チーム無双は過去2戦で最高位が9位であり、現在5位とここまで高いポジションは初めてであり、完全に興奮していた。
「百合!もうマザーの姿見えたんじゃない!?」
「見えてる!絶対抜いてくる!」
もう完全に目の前に人参をぶら下げられた馬のような状態だった。スプーンコーナーで一気に近づき、バックストレートではスリップに入る。完全に射程圏だ。130Rでもまだ背後を保つ。
(仕掛けるとしたら…)
一方前のマザーの千尋も真後ろに近づいてきた無双のことをミラーごしに見ていた。
(仕掛けられるとすれば…)
互いの思惑が交錯する。
((ここ!!))
一気にマザーはアウトに、後ろから無双はインにマシンをよせてシケインへブレーキングそして…
『あああ〜っと!!マザーと無双がシケインで2台共行き過ぎた!!』
コースアウトにより仕切り直し。双方ピットから落ち着くよう、無線が飛ぶがふたりともそんなの聞いちゃいない。
(面白い、これが上位の争い…!もっとやりたい!)
アクセルベタ踏みで百合はメインストレートを通過する。
その後の1コーナーでは無理はせず後ろから曲がってゆく。しかし狙っていたのはその直後。あえてアウト側に膨らんだ私は立ち上がりで有利になり並んだ。S字で強行突破したかったがここで接触してペナルティをくらってもいけない。その時がくるまではコーナーの直前で引く。そんな展開が丸2周続いた。
バトルも白熱し、そろそろ決着をつけたい、そう千尋は思いながら精一杯抑えていると突如ステアリングの隣りにあるミニパネルが緑から黄色に変わった。みるとFCYの文字が書かれている。慌ててステアリング上のオーディオボタンの隣にあるハザードボタンを押し、警告してから速度を落とす。FCYはマシンがどこかで停止したり小さなパーツがコース上に落下したときに出されるもので、全マシン時速80キロ以下の低速走行に切り替えなければならない。
「1コーナーでマシンがコースオフしてスタックーー自力で出れなくなることーーした。ちなみにマシンの様子はどう?結構バトルしてるけど」
「かなり摩耗した。もうこれやばかったら前譲っていい?」
「いやかなり前にそうして、って言った」
「マジか。ごめんなさい」
そうして半周後FCYが解除された。
ちょうどヘアピンを通過した所から再開となった。後ろを見つつ、緩やかな右コーナーをフルアクセルで進んでいく。そしてスプーンコーナー。すると
「…!!」
コーナー入り口で並ばれた。向こうも同じくらい摩耗しているはずだからインを開けても大丈夫、その見立てが甘かったのか。そう思いながらも粘るのをやめない。するとまたしても予想外のことが起こった。なんと入り口であれだけスムーズに入ってきたのに出口で失速したからだ。遅まきながらブレーキングポイントをずらしていたのを悟った。そしてそれはバトルを諦めていないことを意味する。
(…そうよ、まだまだ物足りないわ!)
結局更に5周バトルし、その末なんとかポジションを守りきった。
レースは33周。KONの大祐は非常に辛い走りを強いられていた。
「見えない敵と戦うってきついね。タイヤもきついんだけど、前って差はどれくらい?」
「向こうがもうピット入ってるからわかんない。まだわかんない。ただこのままならワンチャンあるから、プッシュしていこう。あと3周ね」
そして3周後。なんとかプッシュして周回を重ねるのに成功した。早くピットへ入ろう、そう思ったときだった。突然アクセルを踏んでいるのにも関わらず、エンジンの出力が下がり始める。
「!?な、なんなんだ!」
「どうした?」
「マシンが加速しない!」
「落ち着け。落ち着け。遠隔で原因を調べるから、まずはピットに戻ってきてくれ」
なんとかピットイン。すぐにピット作業をこなすチーム。しかし大祐は降車直後怒りをあらわにした。
「ありえない!何やってんの!!」
原因はガス欠だった。途中何度も足りるのか、大丈夫なのか、と聞き返しても大丈夫だ、と無線が返ってくるのでプッシュした所、ガス欠になったのだ。空になった給油を満タンにしなければいけない、という事態がチームの想定以上に時間がかかり、ピットタイム1分5秒となった。
「雄太、桜、朗報です。KONがピット直前にガス欠。それによりピット時間も長引き現在のマージンは40秒にまで伸びました」
そんな無線が飛び込んだのは周回数35周。俺たちがピットから出て5周のことだった。つまり…
「のこり5周で平均2.5秒稼げば良いと?」
「そうだ頑張ってくれ」
「了解」
そう口では返しつつも頭の中はどうやって前のNTTを抜くかしか考えていなかった。そしてチャンスはすぐに来た。桜が130Rでわずかにアウトにはらみ、失速したのだ。シケインで並びかけサイドバイサイドのままメインストレートへ…と思ったその時
「‥!!」
立ち上がりでインを攻めすぎた俺のマシンは彼女のマシンと接触。両者マシンバランスを崩した。
「くそ…!」
何とかマシンを制御し、持ちこたえる。みると向こうもふらつきながらも復帰していた。ここで抜かすとペナルティになる、そう判断した俺は加速をあえて遅らせ前を譲った。痛いタイムロスとなった。
レース40周。NTTと楽天は4回目のピットを迎えた。両者マシンにダメージがあり簡単な修復を余儀なくされピットタイム56秒。
「差が一気になくなってきました。今25秒後方。まずいよ」
これに猛反発したのはNTTの足立だった。
「わかってるよ!…クッソォ!!」
一方KONは冷静にこの状況を見ていた。
「創一、チャンスです。差が縮まってます。このままなら最後のピットで逆転できます」
しかしここで大きく流れはかわる。レース42周。快晴だった鈴鹿に暗雲が垂れ込めていた。みるみるうちに気温が下がる。ドライバーから悲痛な無線が飛ぶ。
「暑さが引いたせいか、タイヤが全然グリップしない」
「創一、落ち着いて。今のペースを保てばいいんだ。落ち着いて」
さらに状況は悪化する。なんと翌周にはKONのフロントワイパーが左右に動き始める。
「雨まで降ってきたよ!行けるの?」
「なんとかするしかないよ。頑張って。今予報みたら5分もしたら止むとのことです」
その言葉を頼りに走ること3周、時間にして6分。しかし雨は勢いを増すばかりだ。
「もうダメだ。ピット入らせて」
「…わかった。あと1周だけ粘って」
「ありがとう」
レース45周。雨がひどくなるのを見て緊急ピットイン。予報は雨がやまない方向に変わっていたのでレインタイヤー雨などで路面が濡れているとき用のタイヤーに変更し、ドライバー交代、給油も行った。しかしこれがとんでもない奇跡を生む。
「…!?」
ピットアウト直後、KONの大祐は驚愕する。サイドパネルが黄色に変色していたからだ。
そこに書かれていた文字は…
「SC!?」
「やった、やった!!」
正宏が珍しく大歓声を上げている。
「説明してくれ。なにがあったんだよ」
「最終コーナーでブルーホークLCがクラッシュ。俺たちはピット全て終えたのに楽天とNTTはまだ1回残ってる!」
「なるほど?!まじで!?」
つまりこういうことだ。つい先程までは両者1回ずつピットインする必要があった。次に俺たちがピットに入った時点でどうやら下位のマシンがシケインあたりで雨のせいかクラッシュ。これでSCが入るので今までの差はなくなる上、向こうはまだピットインを終えていない。これで天候さえ変わらなければ勝ち確なんだが…
監督の大歓声もあり期待とウヒョウヒョが止まらない俺だった。
SCは雨というのもあり少し長めに導入された。レース再開時にはのこり9周になっていた。
『さあSCがピットに入る!途中から真夏とは思えない雨天に変わった鈴鹿決戦!のこり9周のスプリントレースを勝ち抜くのは誰なのか!今レースリスタートです!』
SCと一緒に多くのマシンがピットインしてきた。レインタイヤに変えるためだ。また楽天とNTTもピットに入る。これでKONはトップだ。しかし先程歓喜を上げた正宏がそれまでとかわって真剣な声色で無線を大祐に飛ばす。
「大祐。後ろ、アミューズメントが来てるからね。気をつけて」
「了解」
なぜ6番手だったはずのアミューズメントが2番手に上がってきたのか。それはレース42周目にまで遡る。
「雨降ってきたよ」
「了解。どうする?ピット入る?」
「給油とか行けるの?」
「この周だけ燃費走行すれば」
「OK。やろう」
そしてレース43周。燃費走行して燃料をキープしながらピットイン。ピットタイム53秒。そしてSCが入り、KONと似たような状況になったのだ。
そこからは実質KONとアミューズメント、ランクング1位と優勝経験者の一騎打ちとなった。しかしタイヤが新しく、僅かではあったがスタート時からポジションの関係で差のあったKONは危なげもなくファイナルラップまで逃げ切った。そして
『もどってきましたKON。ランキング1位の彼らがチームに、日産勢に初優勝を届けます!KON、トップチェッカー!!』
大波乱の鈴鹿ラウンドはKON、アミューズメント、マザー、NTT、無双、楽天の順で終わった。ポイントランキングも1位がKONで51ポイント、アミューズメントが39、クイーンが23、NTT21ポイントのタキオンが20ポイント、となっている。
(続く)
今回もギリギリになりましたね…
今回も読んでいただきありがとうございました。もし本作品を高く評価してくださるなら次回以降も読んでいただけたらと思います。それでは!




