ユーリ・イーロン
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王宮内の執務室に宰相オースティンとイーロン伯爵が居た。
「【渡る者】が現れたそうだが、何か変わったことは起こったか」
「いえ、今のところは。此度の【渡る者】は、マナを操作できると聞いておりますが、まだこの目で直接は確認しておりません。」
「そうか。【渡る者】の保護を優先し、歪みに関して起こった事はすぐさま報告してもらいたい。」
「畏まりました。」
宰相オースティンはイーロン伯爵を見送った後、窓の外を見てため息をついた。
「今回は地が揺れるのか、山が爆ぜるのか・・・。それとも何も起こらないのか。」
昨日、帰ってからアルバンさんに領地を案内してもらうことを伝えて休みをもらったので、起きてからそのまま店の前まで歩いて行くことにした。
すでに馬車が来ており、馬車の前に女性が立って待っていた。誰だろう?イーロン様はいらっしゃらないのかな?
「おはようございます。あの、ミライと言います。本日はよろしくお願いします。」
とりあえずその女性に挨拶をする。
「おはようございます。ミライさん。私は、ロベリスタ・イーロンの姪で、ユーリ・イーロンと申します。叔父様は本日急な用事にて王都へでかけておりますので、代わりに領地のご案内をさせて頂きます。」
年齢は私より少し下だろうか、細見で背が高く透き通るような白い肌をしている。短く切りそろえた髪は艶がある栗色をしている。二人で馬車に乗り込み、宿屋の前を西へ向かう。半時ほどは草原や小高い丘の代わり映えしない景色が続いていたが、やがて高い山に囲まれた湖へ出た。
「あの湖の向こう側から、別の領主様の領地となります。あちらの領地は山を越えたらまっすぐ海までつながっております。」
うわぁー やっぱり水がある景色っていいよね。小さな村があり、湖で取れる魚を加工して町まで売りに来るんだそうだ。
この国には、職業によって組合があり農産物や酪農の組合、加工品の組合、石工の組合、魔法を使って治療や製薬をする治療師組合、ほかにも沢山あるらしい。食料品に関しては、各組合でそれぞれまとめて買取をし、各商店主が買い付けをする仕組みらしい。農協の様なものかなぁ。石工ってのはよくわからないけど建築業って感じかもしれない。
「次は南の街、ダルカへご案内しますね。南にはミライさんが居るトコルの街より少し大きい街ですわ。」
タルカへ向かいながらユーリさんは自分の話をしてくれた。
ユーリさんの父親はイーロン伯爵様の弟で、王宮で騎士をしているそうだ。ユーリさんは治療師の勉強のため、アカデミーでマナ操作や薬品の作り方を習っているらしい。
「治療師って勉強が必要なんですか?魔法でパパっと怪我や病気が治せるんじゃないんですか?」
「え・・・?」
(ものすごいおバカな子を見る目で見られてる気がするのは気のせいか・・・)
「え? 魔法使いって魔法で空を飛んだり、怪我を瞬時に直したり、火や風や水を自在に操って魔物を倒したりするんじゃないんですか?」
ゲームや本の世界では、そんな感じなので私の魔法使いのイメージはそういうものだったけど、どうもちがうらしい。
マナを正確に操作するには訓練が必要で、例えば治療に使う時のマナは細かに調整しないと、治るどころか血管が破裂したりするんだって。
こっ・・・怖い。
浄化魔法とは、イーロン様が勤める魔法省の管轄で、騎士が魔物を討伐に行く際に騎士とペアで行動するらしい。
魔物は本来実体を持たない精神体が形となるもので、肉体を物理的に倒しても、肉体から抜けた精神の核が残ってる限り、またどこかで実体を作り出すか、動植物に憑依してしまうので、物理的肉体を倒したあと、すぐに浄化魔法で消滅させる必要があるみたい。いわゆる除霊に近いイメージかも。
空を飛ぶ飛行魔法や、炎、水、風の魔法も存在はするけど、現在、使える人は魔法省にもほとんどいないらしい。世の中が豊かではなかった大昔は魔法が盛んだったそうだけど、世界の発展に比例するように魔法を使える人が生まれにくくなったそうだ。
あぁ、そういえば司祭様の説明でも遺伝しない子供もいるって言ってたな。
「ダルカの街が見えてきましたわ」
「うわぁ、大きな街!」
「このダルカは交易が盛んで、珍しいものが沢山ありますの。」
「街をご案内する前に、まずはお食事に参りましょうか。」
そう言って案内されたレストランは交易の街だけあって、トコルでは見たことがない魚や、珍しいフルーツ、ナッツ類が提供された。香辛料が効いた魚料理はとても美味しく食後のケーキもとても美味しかった。
「この後は、お洋服を仕立てに参りましょう。」
「どうしました?」
「いえ、あの・・ 言いにくいんですけど、私、洋服を買うほどのお金が・・・・」
この間の収穫祭の時もそうだったけど、当たり前のように高級店に行こうとする人って、相手もお金持ちだとおもってるのかっ?!この世界にきて数週間で、宿屋のアルバンさんから頂くお給料しか持ってないよ。貯金なんてできるレベルじゃないんだからね?
「叔父様からの申しつけですでにお店には話がついていますのよ。ご心配なさらなくても大丈夫ですわ」
「ミライさんの事は、イーロン家で面倒を見させていただく事になっていますので、何も心配はいりません。」
「あの、そんな話は初めて聞きました。アルバンさんのところで働かせていただいてますし、面倒を見ていただくわけには・・・」
この国では、落ちてきた者を保護するのはその地の領主と決まっているらしい。
領主は落ちてきた者に対して衣食住の保証をし、この世界に無いであろう知識を持っている場合は、国の発展に貢献してもらう。でも、職業選択の自由はあるし、行動も自由が保障されていると聞いて少しほっとした。
利用されて飼い殺し?!って一瞬怖くなったし、怖いからってこんな知らない世界でどこへ逃げるのかさえわからないから。
「こちらは昨日新しく入荷した生地になります。お嬢様によくお似合いの色かと思いますよ」
仕立て屋の女性が、薄いブルーと紫のコントラストが美しい生地を私に合わせてくれた。その後も何パターンか生地を見せてもらった。私は最初に見せてもらった生地が気に入ったので、それで仕立ててもらうことになった。
街は広い為、街中も馬車で移動した。雑貨店や家具店、ウィッグを売っている店もあった。
あちこち見て回ってちょっとだけ疲れてきた。
貴族でも街に来たりするんだなー。私はてっきり貴族って自分で買い物しないで全部執事さんとかメイドさんが用意するんだとばっかり思ってたけど、この国の文化では貴族も街に来ることがたまにはあるらしい。
歳が近いからか、好きな男性のタイプの話をしたり、衣装やパーティの話も沢山聞かせてもらったり、それなりに女子トークもしたので楽しい一日だった。
すっかり夜だ。宿屋の前で馬車を降りてお礼と挨拶をした。
「近いうちにまたお会いいたしましょう。今度は私の屋敷でお茶会を開きますので、是非お越しくださいね」
「はい、その時は是非。今日はありがとうございました。有意義な時間でした。イーロン様にもよろしくお伝えください」
保護、知識の提供・・・・ 素直に受け入れてもいいのだろうか。かといってどうにもできない。
だったら受け入れて何か起こった時はその時々で考えるしかない。
この世界で生きていくために何をするべきか、何ができるのか。まずそこから考えていかなくちゃ。
見上げた空は沢山の星が出ているが、月はない。初めてこの世界に月が無いことに気が付いた。
この星のどこかに私のいた地球があるんだろうか。
最後まで御覧いただきありがとうございました。




