私と彼女
「そうか、君は合わなかったんだね」
彼はハヤタの話を聞くと、少年の不安を取り払うよう注意しながら答えてくれる。
暖かい陽射しの中で、2人は並んでベンチに座り、コーヒーを飲んでいる。
ショーターが淹れてくれたそれは苦味が少なくてむしろ甘いような気がした。
「教えてください。なぜ『離婚』…分離したんですか?」
「んーそうだね、言ってみれば私も合わなかったんだよ」
「不適合ということですか?」
「一旦適合したけど、彼女と合わなかったんだ」
「よく…わかりません」
「精神がだよ」
ショーターは言った。
価値観が違ったとも言った。
「ユーリルはね、適合すると人々の中に居場所を作るんだ」
ハヤタはサキコの言葉を思い出した。
「イメージはね、いろいろあるんだ。私の場合はね、都会的なマンションのような部屋を作ってね。見た目は若い綺麗な女性だったよ」
「精神に家を作るんですか?」
「どちらかといえば頭の中に、という感じだね」
彼女は…とショーターは語り出した。
「彼女はいつもうるさいんだ。体に良いから野菜をとれとか、カフェインは良くないからとりすぎるなとかね。私は恋人がいたんだけど、あの女は良くないから別れろとかさ。
私だけかと思ってみんなに聞いてみたんだ。私のユーリルだけがうるさいのかと、ね」
そうではないようだった。
でもみんな折り合いをつけていた。
そしてショーターは悩んだのだ。
「どうして私だけがユーリルを疎ましく思うのか。私だけがユーリルを受け入れられないのはなぜだろう、とかね。でも考える端からユーリルが答えていく。『あなたは適合しなければ良かったのに』と『あなたは孤独が好きなんだ』とね」
ショーターはぬるいコーヒをすすった。
「5年ほどいつも一緒にいたんだけど、ある日気がついたんだ。彼女は私の思考の奥底にあるものを拾い上げてあるだけなんだと」
ハヤタは驚いて言った。
「拾い上げる?」
「そうでなければ反射させていると言ってもいい。例えば野菜は体に良いという事を知っている。でも今は食べたくない。そこへ彼女が『野菜は体に良い』という事を拾い上げて私に言っているだけなんだ」
「ええっ⁈」
つづく




