数年後、金髪碧眼ショタ留学生がやって来て失恋する話
なんかこう、外伝というか続編? です。ただこれ以降に追加される話でも本編中の時間軸に収まる話を書く事が有るかも知れませんのでご了承いただければ。
「さぁ、早く、早く! 秋葉は逃げませんけど僕の使える時間は有限でそれ以上に欲しいものが山ほどあって、それが手に入るかどうかは行動の早さで決まるんです。つまり通常の3倍で早さこそ文化!」
「ふっふっふ、分かってるじゃないか少年よ! つまりは来た見たかった…… ではなく目指すは来た、見た、買った! の三段論法こそ正義にして学問の基本。偉い人には分からんのだよ後輩!」
「ああもう、二人とも子供じゃないんだから走って転んで怪我したらかえって時間がかかって、急がば回れって言葉を理解して下さい畜生良く考えたら留学生は子供だしさぁ!」
白衣セーラ先輩と、後輩が恋人として付き合うようになってから3年の月日が過ぎ去った。それだけの時が過ぎても今だに先輩はロボットアニメを愛してて、後輩もそれで良しとする関係のままだった。ただ何も進展が無かった訳でも無く恋人がするべきABCのステップ程度は踏んでいるが、そんな事は重要では無い些末事ですよ副部長! と煽ったら彼氏いない歴=年齢の元副部長に殴られたのは良い思い出である。
しかしそれらの事は本当に重要では無く、現在進行形で後輩に振りかかっている問題は、彼らが通う大学に交換留学生としてやって来た金髪ショタが重度のロボットオタクであり、セーラ服を脱ぎ捨てた白衣先輩とシンクロ率400%でユニゾンし、ハイテンションの二人が持つ大気圏を突破しかねない事だ。少なくとも、貴重な休日を、本来なら二人で過ごす予定だった休日を金髪ショタのお守りなんだか、それ以上にはしゃぐ白衣先輩のお守りなんだか分からない何かに消費する羽目になっている。
「子供だからって甘く見ないでください! 僕はこう見えてもGは勿論、勇者、戦隊、超電磁、マジン、三体合体六変化、ゴリラだけでなくJでナインな奴だって知ってますし一通りのロボアニメカルチャーを理解している自負があります!」
「途中から一気にマイナーな作品に流れ過ぎだろ?」
「先輩はメジャーな作品なら知ってると理解してくれますし? まぁ貴方はどうだか知りませんが」
「うるせぇ、地面にキスしてグッバイさせるぞ?」
「はっ、これだからメジャーな奴しか見ないライトな人はダメですねぇ。ロボアニメファン失格です」
「おう、他国に核兵器持ち込む国の人は礼儀って奴を知らんようだな。オーラ的な爆弾で吹き飛ばすぞ」
えへんと胸を張って、挑発的な瞳で見上げて来る金髪碧眼ショタ留学生に対して、相手は子供だと思いつつも抑えきれない怒りを言葉にのせて投げつける。もっとも相手は年齢一桁でMITにしてしまったロボットアニメに出て来るレベルの天才だ。凡人のやっかみには慣れているのか涼しい顔で受け流す。
「ええい、喧嘩をしている暇があったら急ぐぞ! それこそロケットに抱きついて大気圏突破する心意気で、ただし周囲の安全を確認しながらだ!」
そんな二人の間で行われる喧嘩未満のやり取りを知ってか知らずか、今は童貞を殺す服を着込んでいる元白衣セーラ先輩、現状研究室では普通に白衣な先輩が二人の手を取って駆けだした。仕方無いなと思いつつふと留学生の方を見やると――少し顔を赤くして、もごもごと何か言いたそうに、それでも嫌な気分では無さそうな顔で引っ張られていた。そりゃ見た目だけは美人だし、彼にとっては滅多にいない自分と話が合うお姉さんそりゃそうなるなとハァとため息をついてそのまま駅のホームに連れ込まれるのであった。
鉄人、鉄の城、空高くスパークする奪還者、白い悪魔、超電磁ロボ、可変戦闘機、勇者ロボ、小学生に仕事丸投げするシリーズ、ディフォルメされた騎士、動物型金属生命体、我が痛み、可能性の獣、オレンジ色、パイロット支援啓発インターフェイスシステム、五番目の赤、黒い骸…… 店に入った瞬間目の前に広がるショーウィンドウの中に飾られた色とりどりのロボットに男性2人の目は釘付けになる。
白衣先輩のお勧めでやって来た秋葉のフィギュアショップだが、成程確かに品ぞろえが良い。新しいものから、古いものまで一通りのロボットが揃っているし奥の方にはよりマニアックな物も揃っているようだ。なお彼女自身は駆け足で奥の方に走り込み予約していた白銀の意思に出て来る主人公機のフィギュアをう手に取り目を輝かせていた。
「……オレンジ色かぁ、欲しかったんだけど昔買えなかったんだよなぁ」
「ああ、AからZの…… あんまり評判よくありませんけど好きなんですか?」
「俺は評判とか新旧で好き嫌いを決めないんだよ、最後はアレだったのは認める」
ショーウィンドウの向かい側にあるオレンジ色の量産機を眺めつつ、その場にひょこりと顔を出した金髪碧眼ショタ留学生の生意気な質問に答えを返す。ここ最近理解したのだがこのショタは過去の名作、もしくはマイナーな作品を信仰しているらしい。ミーハーなファンが多い最近の作品をかなり見下している達の悪いオタクそのものだ、金髪碧眼の美少年だからこそギリギリ許されると言っても過言ではない。
「一期は最高だったんだ。二期は最後の3話、いや最終決戦さえどうにか……」
「最低でもラスト5話の展開を全部どうにかしないとダメなんじゃないですかね?」
まぁ話してみれば最近のアニメも見ていない訳ではないらしい、ただ絶対に好意的に語らない。大体Gの種辺りを基準に古い作品と新しい作品を分けて考えているようで好みが新しいロボット物を受け入れられないオタクそのもの。恐らく父親か兄弟か、彼をロボットアニメに導いた人間がそうだったのだろう。
「最後の最後のアレが、主人公の八つ当たりだったと描写して、人間らしい感情を出させればさ個人的にはアリな終わりになったんじゃないかって思う訳だ」
「八つ当たり、ですか?」
「そう、人間味が無い主人公がチラチラ人間味を出しながら、第二部初めに目玉を弄ってロボットっぽくなって―― そんで最後のアレがお願いを聞いたからじゃなくてタダの八つ当たりって風に描写すればさ」
「……一気に人間らしさを出す事で落差を狙った演出になる?」
ううんと考え込むショタ留学生、こうやって真剣に悩んでいる処を見るとそれなりに可愛らしいと思わなくはない。後輩にソッチの気はないが人類全体、いや全ての生物が持つ幼児に対する庇護欲的な物で。
「けど本編はそうじゃなかった」
「じゃぁ二次創作でもなんでもすればいいさ、完璧に好みに合う作品なんて存在しない。じゃあ最終的に好きな物から影響を受けて自分で作るしかないって事」
その言葉を聞いた瞬間、ショタ留学生の瞳が大きく開かれて、顎に手を乗せぶつぶつと何かを呟き出した。まるで自分で作品を作るという発想に今気が付いたかの様な反応である。
「自分で、作るですか? ロボットアニメを?」
「別に小説でも良いし、マンガでもいいんじゃないか? そもそもロボットオタクの工学部ってのは自分の好きなロボットを作る為に大学に入る訳だし」
「そんな事、考えた事も無かった」
何? と彼を見やるとうつむいたまま、少し悲しそうに言葉を続ける。
「単純に日本に来て、ロボットアニメの本場でもっともっと、そういうのを楽しみたかっただけで。大学入学も、面倒な研究も、全部全部ただその為に必要な事で……」
ただ、楽しいを追いかけて消費するだけの人生。それは自分の様な凡人であればそれでも良いと後輩は思う。けれど、しかし…… この生意気な金髪碧眼の無駄に頭が良いショタ留学生ならもっと先に手が届く。何せ自分の様な凡人ですら創作という形で他人と自分の夢を共有出来るのだから。
「ふぅん、別にいいじゃんそれでも」
「何か、作ったりしなくても良いんですか?」
「作りたいって思えば作ればいいし、そうでないなら自分が好きなように楽しめばいい」
ただ、そうだとしても作るという選択肢を全く意識しないのは勿体ない事だ。知らずに選べないのと知ってて選ばない事にはとても大きな差があるのだから。ふと数年前の四月に、始めて書いた小説を白衣セーラ状態だった先輩に読んでもらった事を思い出す。あの時彼女は後輩の作品を――
「ねぇ、もし僕が初めての作品を書いたとしてそれをどう評価すると思いますか?」
そんな金髪碧眼ショタ留学生の言葉に対し後輩は笑いながら――
「少なくとも馬鹿にする事だけは無いよ、絶対に」
誤字脱字や文法の問題を指摘しながらも読み終わった後、面白かった続きを早くと言い放った彼女の笑顔を思い出しながら、不安そうな顔で見上げて来る金髪碧眼ショタ留学生に対してそれと同じ笑みを浮かべるのであった。
なおこの後、ショタ留学生が作品を完成させようと四苦八苦したり、自分を主人公に先輩をヒロインにした話を書き上げて告白からの玉砕を喰らったり、その流れで後輩が先輩にからかわれたり砂糖を吐いたりしたのだが――
それはまた別の話。
どうしても続きを書く気力が出なかったので強引に終わらせたが反省はしていない。