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誰がために焦がす / Why were you dancing alone ? その1



「遅かったか。否、まだ終わってはいないようだ」


 ポチとドラゴンがクリーツ施設前の広場に到着した頃にはすでに戦闘がはじまっていた。闘っているのはガラームとリネン、そしてポチの知らない男の三人。

 その光景は彼らの視界に乱闘が繰り広げられていることを知らせる。


「彼はビルダンの時にマイヤーズと一緒にいた男だ」

「すると彼がオーマという青年か?」

「クリーツと闘っているところを見るに、どうやら奴等から寝返ったみたいだな」

「加勢するが、おぬしはどうする?」

「あの白い服を着た奴等ならどうにかなりそうだが」

「ん? よく見ると突出した者が混じっているな」

「いるな。あの速度はガラームも直撃を受けている。気づいていない? となると、俺でもおそらく、あれを対処するのは無理だと思う」

「ではここに残るか?」

「いいや、近くまで、頼む。先程尋常でない攻撃を受けたにもかかわらずこの身体は順調に回復しているようだ。あともう少し、休めばいける」

「無理はするな。無駄死には見たくない」

「俺だってそうさ。誰かの死に顔を黙って見てなんかいられるかよ」


 ドラゴンは覚束ない足取りでポチから降りると手振りで早く行けと伝えた。

 ポチはドラゴンを一人残すことをためらう仕草を少しだけする。

 ドラゴンはさらなる手振りをして視線を地面に落とし、それを認めたポチは群衆へと飛んだ。

 高速で飛び去ったために起こった突風がドラゴンを頬を殴りつける。


「絶対に、死なせないからな。この命に替えてでも」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「先生、おせえよ!」

「悪いな。少々油を切らしていてな、足してきたところだ」

「冗談が言えるほどの余裕か、さすがは俺の師匠様だぜ」

「ところで、太郎殿はどうしたのだ。なぜ参加しない?」

「分からない。さっきから声をかけているが反応しない。人形みたいになっちまった。だが今はそっちに目を向けている余裕はねえ」

「酷いやられようだな」

「この中にとりわけ強いのがいる」

「知っていたか。そうでなくてはな」

「ところで、あのオーマとかいう奴、先生は知っているか?」

「はじめて見る。だが彼が何者であるかは聞いている」

「しかしすげえぜあれは、そんでリネンお嬢も、あいつら変人だぜ」

「彼はリネンの恋人だ。どうやら無事の再会を果たせたようだな」

「そういうことか。ておい、先生! 後ろ!」


 白い軍団の一人がポチめがけて突進してきた。

 ポチは背中の兵装を巧みに揺らして相手の蹴りを回避する。


「まだいたか。雑種にしてはいささか乱暴な挙動だな。おぬし、喋れるのか?」


 白い衣を全身に纏ったその者が、被り物を取った。

 その中には不敵な笑みを浮かべた浅黒い肌の男の顔があった。


「……名はトラファグα。兵団長の一人である。そしてもう一人の長、ダリオンβは裏切り者の処理を実行中。マイヤーズ様の命により、そなたを抹殺する。いざ、尋常に参るゆえ、速やかなる死を……」

「こちらこそ、そのほうがありがたい。おぬしは我に集中するがよい。どこからでも、来い!」


 ガラームとポチは互いの考えを理解し合い同時に頷く。

 ガラームは白い軍団の掃討を、ポチはトラファグαの退治へと向かった。



 リネンとオーマは白い軍団を叩きつつマイヤーズを目指していた。兵達は一度倒れてもすぐにまた立ち上がり襲ってくる。オーマは徐々に加減を致命的なものへと変えていった。リネンはオーマの後方を担当し、主に兵を退けることを目的とした攻撃を当てる。


「ちっ、これではただ体力を持っていかれるだけだ。マイヤーズまでにはもたない」

「デミだけでも行って! ここは私で食い止める!」

「おいていけるかよ。こいつらも地球人だと知っているからこそ、しかも操られているだけの奴等だからやりづらいんだ。せめてもう一人か二人の加勢があれば」

「……あれ? ポチがいる」

「ポチ?」

「くっ!」


 オーマがよそ見をしている隙を突いて兵の一人がリネンに足払いをした。

 彼がすぐに反応すると、相手は一歩下がっておもむろに頭の被り物を取った。


「……ダリオンβ。この名前、そしてこの私がお前の最後に見る者となる相手だ。マイヤーズ様を討とうなんて愚の骨頂。その未熟さを恥じなさい!」


 すぐに立ち上がり軍団の対処を再開したリネンを見て安心したオーマは、相手の女性の顔を見て表情だけの挑発で返した。


「死ぬのは怖くないのか? 愛する者の前で、絶望に喘ぎながら」

「あんたが俺と同じ出自だと知ってほっとしている。根っからの殺し好きだろ? そういう目をしている」

「お前もその大眼鏡を外して自分の顔を見るといい。きっと同じ顔だ」

「そうかな、俺はあんたよりもずっと強い。なぜなら守ることの大切さを知っているから。そして、欲望に飢えていないから」

「お前みたいなやつは殺し甲斐がある。いよいよ燃え上がってきたわ。頼むから諦めないでね。死ぬまで生きることをやめないでね」

「心底いらつくぜ。女でも加減しない。マジでいく!」

「来いよ。殺してやる」


 オーマとダリオンβがぶつかった。両者全力の拳が打ち込まれる。

 当たるも避けるも関係なしとばかりに動きを止めない二人に、周囲の兵の数人が呆然となって動きを止めた。それほどに凄まじい打ち合いが起こったのである。


「とうとうはじまったか。なんだありゃ? すげえってもんじゃねえぞ!」


 ガラームも横目で見ていた。体力は徐々に削られていくが、彼にとっての動力の源である興奮が呼び覚まされたのは好機に等しかった。

 アイテル流はさらなる領域へと増大する。ガラームは実戦でさらなる力をつけていることを肌で感じていた。そして興奮は相乗的な進化を遂げる。


「おめえらそろそろ寝とけやあああああ!!」


 ガラームの放ったアイテル砲が周囲三十人くらいを壮絶なオープンアイテルに包んで吹き飛ばした。飛んだ者は誰もが立ち上がることも出来ず、中には戦意喪失したのか後退りする者までいた。


「見たかこら! どんどん来いや。全員ぶっとばしてやるわ!」



 そんな中ドラゴンは深い睡魔に襲われていた。強い気持ちとは裏腹に瞼が世界を閉じようと強制的に下ろされていく。

 視界が色を失う間際、彼はなにもせずじっと立っている太郎に襲いかかる一人の兵を見た。

 振り込まれる左拳が無抵抗の男にめり込み、口からは血が吹き出る。その反動で首を大きく曲げられた横顔からは、悲壮感と怒気を帯びた眼差しがあった。



 しばらく静止する視線。

 ドラゴンはほんのわずかの間だけ危険な形相の太郎と目が合ったような気がしたが、思考を続行する猶予もなく、まどろみによってその全てが閉じられた……。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




……なにを守ろうとしていたのか。

なにから世界を守ろうとしていたのか。

俺は、なにをしようとしていたのか。


人の未来? 希望? 生命?

守るって、なんだ?

救うって、なんだ?

俺が救うって、なんだ?


……そもそも、俺はなんのためにそんなことを考えたんだ?

大勢の幸せのため?

無力な者達の代弁?

誰かが苦しんでいたか?

誰だ? そんなやついたか?


正義ってなんだ?

俺が、正義?

それが真実か?

……違う。俺はただ、酔いしれていただけだ。


本当は、誰でもよかった。

正義を掲げることで正当化された自分を褒めてもらいたいだけだった。

君は正しい、君こそが正義だと言ってくれれば、それだけで満足だった。


見苦しい? なんとでも言えばいい。

俺はそれでも自分が好きなんだ。

そんな自分を愛することでしか欲望を発散できなかったから。


結局は欲望だ。俺も欲望に支配されていただけだった。

みんなもそうだ。俺だけじゃない。みんなだって欲望に飢えている。

本当は欲望の塊の中にみんなうずもれたいと思っているんだ。


みんな一緒なら、みんなが平等ならよかったんだ。

でもそうじゃない。それ以上に満たされているやつがいる。

俺は、そういう奴等が羨ましかった。

自分もその中に入りたかった。そうなれば、俺も幸せになれたんだ。


でも現実は違った。俺はどんなに足掻いても俺のままだった。

そういう時はいつも、俺は俺以下の奴等を見て気を静めた。


……それがいつの日か綺麗事とあいまって正義へと変わった。

思い出した。それがはじまりだった。

弱いものを守る。そんなんじゃない。守りたいのは、俺自身だ。


幸せになりたい。気持ちよくなりたい。満たされたい。

いつまでも。永遠に。ずっと。


そして、分かち合いたい。

あの人と。

気持ちよくなりたい。

あの人と。

いつまでも、変わらずに。二人だけの世界の中で。


そう、あの人と。


あの人。

俺と同じ生命の形をしている、俺となにも変わっているはずのないあの人。

俺と同じように欲望に飢えていた、あの人。

俺と同じように、俺と気持ちよくなりたかった、あの人。


リネン。

……。

リネン。

……。


なぜだろう。

あんなに好きなのに。こんなにも愛しているのに。



……どうして、殺してしまいたいと思うんだろう。



ああ、死んでほしい。

今すぐに死んでほしい。

俺の視界から、記憶から、消えてほしい。



リネン。俺の愛のために、死んでくれ。



あああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそったれがよ。


いつだってそうだ。

いつだって俺のほうだ。

満たされないのはいつも俺だ。

お前が、お前のようなクソが、お前と、お前でくっついて、クソになる。


お前らは総じてクソだ。

俺と同じ人種を名乗るな。

この世から消えろ。今すぐ消えてなくなれ。

そして俺を認めろ。俺の正義を認めろ。

自分達は欲望に負けたクソであると。あなたは正しいと。


そうだ。それでいいんだ。

今回も俺は正しかったんだ。

あんなクソ女と繋がったところで、俺の全ては報われない。

相応しいものは、宇宙にある。ここにはない。


俺は宇宙と繋がり、お前達のようなクソの快楽とは別格の興奮を手にするんだ。

お前達はその踏み台にすぎない。

どうせ、この星はじきに終わるんだ。

お前達クソには理解できないだろうが、貫き通した俺には分かるんだよ。


死ねよ。苦しめよ。腐れよ。

その醜態を俺の眼前で全てさらけ出せ。


お前達の最後を見届けてやる。

そして、お前達の生涯とその残った欠片を、全て破壊してやる。


早く、もっと早く。


……俺の本心を、誰かが見抜く前に……。




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