物体Xの衝動 / the black approach
遠い宇宙の片隅に一つの塊があった。
直径十キロメートル程の岩石である。
このどこにでもありそうな岩石は、宇宙という果てしない空間の中で静かに漂っていた。
それはゆっくりと回転しながら、直進する。
時の流れのように一定を保って、空間を撫でるように、そっと……。
回転が一周するとまた同じ回転を繰り返した。
それは永遠の時代を彷徨う一つの命のように、何度も、止まることなく……。
……しかし、事実は違っていた。
それは徐々に動きを強めていた。
次第に速度が上がっていき、ある方向に向かって、静かに、激しく……。
岩石は止まることなく進んでいた。
そして、確かに移動していた……。
仮に誰かがこの塊を観測していたとするならば、いずれなにかに接触する未来を予測できたはずだった。
……誰かが、予測しなければならなかった。
同じく宇宙空間を飛んでいた小さな岩石がそれに衝突する。
進行方向がわずかにずれるも行き先への影響は変わらなかった。
速度はさらに増していく。
塊は驚異的な速さで動き出す。
回転だけはゆっくりと、一定を保ちながら。
この大きな物体は今、着実に地球の軌道へと接近していた。
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