古代の夢 / if you only knew the sky blue
ポチはガラームとザ・クラウンを乗せてペイスがいるであろうキャピーラに向かって飛んでいた。リネンと太郎の二人と合流するためだった。
ガラームとザ・クラウンは無骨な機体の背中に座り少し荒っぽい風を感じていた。広大な大地には彼らを除いて人の気配は全くなく、緑色の自然がどこまでも続いている。
「……やはり、これはおかしい」
一刻でも早く目的地に行きたかったはずのポチはなにを思ったのか急に速度を緩めてしまった。そしてビルダンを通過したあたりで飛行形態を解除し草木の生い茂った平原に降下した。
「おい、どうしたんだ。燃料切れか?」
「いや、そうではない」
ポチは雲一つない青空を見つめながら物思いに耽っていた。あと少しで世界の違和感の正体が掴めそうな気がしたのだった。
彼は遠い昔の地球を思い起こす。当時、世界を統治していた王軍の戦士だった彼は星外からの侵略を阻止するため前線で指揮をとっていた。それはポチがかつて人の身体を持っていた頃の時代、今から約一万八千年前のことであった。
異星文明は地球が発見した進化の技法を自分達のものにしようとしていた。宇宙から飛来して来たその侵略者は数と頭脳と戦力で王軍の抵抗を蹴散らし、ポチは部隊の数少ない生き残りとして戦い続けた。
最終的に王軍は『敗れた』。女王が放った星の怒りとも感じられるアイテル攻撃も異星文明に致命的な損傷を与えるまでには至らなかったのだ。
ポチは自身の不甲斐なさに憂いながらも王族最後の生き残りである王女を保護して逃げた。そして地球に残った無力な生き物達は侵略者によって根絶やしにされた。
かくして地球人はほんのわずかな者だけを残して滅亡したのだった。
その後のポチと王女は侵略者の地球開拓に怯えながら隠れて生き延びる。
王女との間に子も生まれた。しかしその二年後に王女は息を引き取った。
彼女は天文学者であり脳科学者でもあった。王女の死後、ポチは彼女の意志を継ぎ新技術の基礎を完成させる。
そしてその『技術』を手にしたポチは再度侵略者の前に立った。
地球を手に入れたはずの異星文明はポチ一人の手により降伏した。
しかし戦争に勝利したところで失われた多くの命が戻ってくるわけではない。
ポチは悩み抜いた末『侵略者の生き残り』を新たな地球人として住まわせることにした。
なぜそうしようと思ったのか。
それは、純粋に寂しかったからだった。
彼が完成させた技術は持つだけで世界と乖離した。人類が雄叫びを上げる時、暖かい日常が蘇った時、ポチはこの上なく幸福で、そして孤独だった。
救いの道も考えた。だが彼には子供がいた。
……生まれてくるはずのない小さな命が彼の手を握り、愛する親の笑顔を求めて屈託のない笑みを見せてくれる……。
そんな我が子の姿を見たポチは、元に戻れなくなっていた。
ゆえに彼は王女と自分が作り上げた技術を封印し、二度と発見されないよう宇宙を旅して回ったのだ。
……あの感覚は忘れていない、忘れられるわけがない。
……これは、あの感覚と同じものだ。
「……この星は誰かに操られている」
「はあ? なに言ってんだ師匠さんよ。ほんとに燃料漏れてんじゃないのか?」
「ポチ氏、説明してくれ」
「詳しくは言えない。だがなにかが引っかかるのだ。全てが完璧すぎるのだ」
「この状況のどこが完璧なんだよ。どこもかしこもやりたい放題じゃねえか」
「リネンとエルノウにイヤフォーンを渡さなかったのは果たして正しかったのだろうか。せめてエルノウと交信できれば事態悪化に対応できたかもしれん」
「ポチ氏、ではどうするのだ?」
「ザ・クラウンよ、おぬしの協力にはとても感謝している。だが、悪いがここで帰ってくれないか」
「はあ? ちょっとまじでやばくなってきてねえか。どこで油漏れしてるんだ?」
「ガラームは少し黙っていろ」
「お、おう」
「クラウンよ。単刀直入に聞く。おぬしは誰かと裏で糸を引いていないか?」
「その質問だが、さっきペイスにも同じ質問をされてな、誰ともなにもしちゃいないことをはっきり言ってやったさ。俺は策略家なんかじゃない。ただの武器愛好家だってな」
「ペイスというのはどのようなアイテルを使うのだ?」
「さあね、全部を見ているわけじゃないからさ。まあ、なんでも器用にこなすやつだとは思う」
「おぬしらとジェイサン・クリートとは接触していない。そういうことだな?」
「そういうことだ」
「クラウン……」
ザ・クラウンはポチからこれ以上ついてくると死ぬと言われて眉間に深い皺を作った。ガラームも同様の反応を示した。
「つまり、俺がついていけばポチ氏の思い描く真実に近づく、という解釈でいいのだな?」
「そういうことではない。我はおぬしに感謝しているのだ。死ぬには惜しいと言っているのだ」
「なぜ死ぬと言い切れるのだ」
「誰かがおぬしに死ぬ原因を作らせようとしているからだ。我々は誘導されている。それが事実だ。そもそもおぬしはどうして外に出てきたのだ? なぜ我らがおぬしのもとを訪ねてきたのだ? なぜおぬしでなくてはならなかったのだ? なぜ我らは仲間と連絡が取れないのだ? そしてなぜ北上しているのだ? 不思議だとは思わないか?」
「……偶然という可能性だって、あるだろ」
「偶然であるならば、『あれ』に対する説明はどうする」
ポチが示した先、その後方には彼らが辿ってきた道が黒く一直線に描かれていた。
「我がこの線を引いた。強力なオープンアイテルを放出してな。クリーツ財団がこの線を見逃すと思うか? それは否だ。必ず追っ手が来るはず。なのにそれらは一向に来る気配がない。それはどうしてか。我がこのような行動を起こすことは予定に入っていなかったからだ!」
「もっと、分かるように説明してくれないか?」
「世界を『操る者』はあらかじめ我らに追っ手が近づかないよう処置を施した。無事目的地へ向かわせるためにな。そして我が今引き連れているおぬしは長年独立平和都市の外から出てこなかった。ところが今はここにいる。つまりそれはどういうことか……」
「外に出して、なにかをさせるつもりなんだな」
ガラームが違和感に気づきはじめた表情をした。
ザ・クラウンも同様に、青ざめた顔になった。
「それもあるかもしれない。だがそれだけではないと思う」
「ケプか!!」
「そうだ。クリーツはケプの民に動機を与えたいのではないのか?」
「まずい。これは、まずいぞ!」
ザ・クラウンは力なく地面に膝をつけケプのある後方を見つめた。
「戻るか? クラウンよ」
「すまんが、手を貸してくれ」
ポチ達はキャピーラに背を向け、来た道を戻ることにした。
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リネンと太郎がペイスのもとを去る前日、クリーツシステムが設置されている重要施設の一つが何者かの手によって破壊された。また同日、ポチ達はケプを襲っていたクリーツ軍の掃討に成功する。
間一髪のところでケプを守った都市首長のザ・クラウンは、今回の襲撃をきっかけに全世界へクリーツ移行の拒否を宣言した。世界政府はケプの主権に一時難色を示したが、のちにそれを例外として許諾した。
ポチとガラームは妙見コトリの身の安全を確かめるべくスチートに立ち寄った。コトリは変化なく元気な様子を見せた。エルノウとリネンに伝言を残したポチはその足で残りのクリーツ移行施設の一つに向かった。場所は『ミントアカ』だった。
ミントアカとは小さな島の名前で、そこには現在約千人の罪人が幽閉されていると言われている監獄があった。厳密に言うとその島そのものが罪人の収容施設であると広く認知されている場所だった。
奇しくもそこにはエルノウとドラゴンがいた。
彼らもまた、ポチと同様の理由で内部に潜入していたのだ。
ただし、エルノウは他の罪人達の中に混じっていた。捕まったのである。
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「非常事態が発生しました! 社長、今すぐに落としてください!」
「マイヤーズ!!」
「社長! ご決断を! 早く!!」
「まずい、誰か止めろ!」
「リア……愛してるよ」
「……なぜ、彼女が狙われたんだ」
「我々の、負けかもな……」
「まだだ、まだだ、まだだまだだまだだまだだ!!」
「……そうか。やはりお前だったんだな」
「エルノウ、あんたのその言葉をずっと待っていた」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「おがあああああ」
「リアーーー!!」
「うっ!」
「……貴様がやったことは、この星の命を奪った行為に等しい、の、だぞ。そんな、ことも、見抜けぬ、のか」
「はああああああああ!!」
「うおおおお、……なに、も、しら、ないく、せ、に、はあ、はあ、こう、かい、はあはあ、あっ、する、ぞ、はあはあ」
「リア! リア!!」
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……来た。とうとう引っかかったぞ。この時を待っていた。来た来た来た来た。もう何度繰り返してきたか。二百はやったか。エルノウ、よくやってくれた。よく炙り出してくれた。これで私の存在理由が全て揃った。エルノウ、あんた天才だよ。涙が出そうになるよ。全てはこの瞬間を生き抜くために生まれてきたんだ。私はやるよ。あいつを、あいつらを絶対に追い出してやる!
……でもその前にもう一つ、大事な仕事を済ませておこうか。
……なあ、色男さんよ。
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