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舞踏会最終日 ~庭園にて 3~

長く更新が滞っていて申し訳ありませんでした。

ゆっくりではありますが、完結に向かって更新再開、です。

蜂蜜色の髪に琥珀色の瞳。

魔術師のローブを纏ったその姿は、誰もが知る王家の姫君。

それは紛れもなくこの国の魔導師長であった。



「シレスティア様・・・」



ラーラは目の前にいる魔術師長の名を呟いた。



「マヴロ、言った筈ですわ。人を殺す事だけは許さない、と。」

「・・・知らねぇな。っ・・・!」



首に当てられた刃が、皮よりも深く、マヴロを傷付ける。

赤い筋が鮮明になった。



「もっと早く気付けば良かったですね。浄化します。」

「余計な事するんじゃねぇ!俺はまだっっ!!」



マヴロが言葉を発する度に、その首から流れる血が増えていく。



「殺してはいけません、“(アスプロ)”。」

「・・はい。」



アスプローーーセルの父親は返事はしたものの、短剣を持つ手から力が抜けることはない。

それは、マヴロが動かない限りはそれ以上傷付かないという状態だ。

ラーラの目に、緑色の魔力(ちから)が眩く映った。

シレスティアが全ての魔力(ちから)を纏って、言葉にそれを載せていく。



「“黒と白(マヴロ・ケ・アスプロ)” 、其の存在理由を今一度問う。

マヴロ、汝、我と契約せし者なり。

我から離れし時、誓いの言葉を交わした事、例え忘れていようとも魂に残り刻まれる。

その口で今一度その言葉を紡げ。」



マヴロの目に怯えの色が見える。

隠している事を無理矢理暴かれる様な顔に、見苦しい程の汗が流れていく。

きつく引き結んだ口が、徐々に開かれていった。



「黒に、染まり、きる前に、姫の元に戻る事、を誓う。

人を傷付ける、迄は許される、けれど、人を殺めてはならぬ。

それが、姫から離れる、条件・・・」



マヴロの口が勝手に動き、勝手に言葉が紡がれた。

それを厳しい面持ちで聞いたシレスティアは、魔力(ちから)を乗せた言葉を更に重ねる。



「そうね。そして、黒に染まったお前を浄化するのが私の役目。例えお前が拒否しようとも、これは決して覆ることのない決定事項。‘何故’ お前がこの国(ここ)にいるのか、しっかりと思い出させて差し上げますわ。」



その言葉が終わるか終わらないか、地面から伸びたシレスティアの魔力が蔦のようにマヴロの足に絡み、徐々に胴を腕を拘束していく。



「や、やめろっ・・!」



苦しみながらも抵抗もできず、ただ言葉で拒否し続けるしかないマヴロに、容赦なくシレスティアは己の魔力を注ぐ。

彼女の魔力はこの国の魔術師の誰よりも強い。

何故なら全ての自然から魔力を供給できるから。

魔力の色がそれを証明していた。



「マヴロ。お前の役割を果たしなさい。ーーー依代に染み付きし感情よ、負の黒よ。我の力にて浄化せん。依り代はあるべき姿、真白き此方(こなた)に疾く戻れ!」



地面から空から、魔導師長シレスティアの魔力が勢い良くマヴロへと注がれた。

それはまるで天に聳える柱のように、彼の姿を包み込んで隠した。



「ああああああああああっ!!!!」



マヴロの叫びが緑の柱の中から響く。

断末魔とも取れるその叫びは、声が枯れるまで続いた。

その光景に、ラーラはセルを抱きしめながら只々呆然としていた。


マヴロの声が果てそうになった頃にシレスティアの魔力が収まっていき、緑に包まれていた姿が露わになる。

その姿は、ラーラの見知った男のものとは全く違っていた。


さらさらと流れる長い白銀の髪。

何物にも侵されない純白の服。

美しくも穏やかな顔。

神聖な者にしか見えないその姿は、汗に濡れながらもどこか清々しい。

閉じたままの目をゆっくりと開けば、その瞳は宝石のような赤だった。

別人としか思えない姿が露わになるなりその柳眉が寄せられ、純白の服が汚れるのも構わず地面に片膝を付き、深く深く頭を垂れた。



「ーーー申し訳ございませんでした、姫様。まさかここまで侵食されるとは思っておりませんでした。」



その声も凪いだ海のように穏やかだ。

ラーラは目を瞠る。

自分を執拗に追い詰めたのは本当にこの男なのか。



「油断しましたね。本にお前らしくないこと。」

「申し訳ありません、退き際を誤りました。その時点で大分染まりすぎていたのだと思います。」

「・・・そうね。やはり私の側でなくては危険でしょう。以降は離れる事を禁止します。いいですわね?」

「はい。未熟な私にはそれで「おい。」」



マヴロの言葉に食い込むように、アスプロが発言する。

焦れたような声音は緊張を孕んでいた。



「のんびり喋ってる場合じゃねぇぞ。セルの奴、ちょっと拙いーーーー。」



はっと顔をあげた二人は、ラーラの腕の中、血が流れすぎ紙のように白くなったセルを見た。

明らかに死へと向かう息子の姿に、シレスティアは厳しい顔になる。

確かめるように手を開き、握り、そしてぎりっと歯を噛みしめた。



「ラーラ、治癒を。」

「・・え?」



ラーラは訝しんで魔術師長シレスティアを見た。



「私の魔力は今ので限界です。セルの治癒はあなたに任せます。いえ、あなたしかできません」

「で、でも!セルにはどんな魔力も効かないんですよ?無理です!」



セルの血に塗れたラーラの頬に、幾筋もの涙が流れる。

シレスティアは、にっと姫らしからぬ笑みを浮かべた。



「大丈夫、あなたの魔力は無効化されませんわ。」



ラーラは言葉の意味を理解できない。

セルは全ての魔力を無効化する筈ではなかったか。



「気付かなかったかしら?最初からあなたにはセルの魔力(ちから)は作用していません」



シレスティアは笑みを浮かべたままそう言った。

ラーラの顔が驚きに染まっていく。



「信じられませんか?なら、どうしてあなたはラーラでいられるのです?」

「っ!」



ラーラは自分の姿を改めて見た。

これまでにないくらいセルと接触しているのに、女性の体のままだ。

確かに出会った時も、自分で解くまではラーラ(・・・)だったと気付いた。



「時間がないぞ、ラーラ=アルフレッド!」



アスプロが叫ぶ。

迷っている暇などなかった。


ぶわり、とラーラとセルの下に魔方陣が現れる。

それはシレスティアと同じ緑色をしている。

ラーラは目を閉じ、全ての魔力を注ぎ込む気持ちでただ一言を放った。



「“治癒”」



さんざめく葉の音が辺りに響き、二人の体が緑の光に包まれる。

それはほんの短い時間ーーーほんのまたたきの間。

全ての新緑の色が消えた時、セルの傷は塞がり、白かった顔には血の気が戻っていた。

それとは対照的にラーラの顔色は白く、そして、ラーラでは無くなっていた。

魔力をほとんど使った為に保てなくなった女性の体は、本来の性別にーーアルフレッドに戻っていた。



「もう大丈夫ですわ。ありがとう、アルフレッド。ーー疲れたでしょう?あなたもお休みなさい」



シレスティアはアルフレッドの傍らに寄った。

彼女がゆっくりと自分の方へアルフレッドの体を引き寄せれば、それに導かれるように眠りへと落ちていく。

シレスティアは愛し子を見る母のような穏やかな顔で、眠るアルフレッドを見つめた。




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