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 ナザント公爵家を継ぐための手続きをしたり、アサギ兄様に沢山の事を学んだり、色々と忙しかった。学園にも全然いかずにそれをして、正式に手続きが終わってから、今度私は領民たちの前に正式にナザント公爵として顔を出すことになった。

 学園生活やツードン様の件が忙しくて、ナザント領には全然顔を出していなかった。まだ、しばらくの間はただのエリーとして、彼らの前で過ごせるってそんな風に思っていたけれど、それももう終わりだ。

 私は、エリザベス・ナザント。ナザント公爵。―――ただの、エリーとしてはいられない。

 私にはこれからナザント公爵次期当主ではなく、ナザント公爵という肩書を持って生きていくのだから。

 若くしてナザント公爵家を継いだということで、私には今注目が向けられている。ナザント公爵家の影響力はこの国でも大きくて、だからこそ、私はただのエリーではなく、ナザント公爵であるエリザベス・ナザントとして存在し続けなければならない。

 隙を見せるわけにはいかない。弱味を悟られるわけにはいかない。―――私が、領民たちと個人的なつながりがあり、彼らを本当に大切に思っているという事を周りに悟られるわけにはいかない。

 「エリザベス様、良いのですか?」

 私に向かってそう問いかけてくるのは、ムナである。私が彼らと交流を深めていたことを知っているからこその言葉だろう。

 私は正直な、心の底からの思いを言うのならば彼らともっと笑いあいたいって思っている。

 でも、それをして彼らが人質に取られたり、彼らが殺されてしまう可能性もなくはない。彼らを切り捨てる選択を私はしなければならなくなるかもしれない。

 ただの、「エリー」で居られる時間はおしまいだ。

 クラウンド先生に連れられてはじめて町に出た日の事を覚えている。クラウンド先生と、ルサーナと一緒に町に出た。そして、『ヘルラータ』の準備に参加させてもらって沢山の人と仲良くなって。一緒に笑い合った。あれはお母様が亡くなった後の、10歳の頃の事だからもうだいぶ時間が経過してしまった。

 ―――それだけの間、頻度は少なくなっていたけれど私は彼らと共に過ごしてきた。彼らと共に過ごして、その時間があったからこそ、私はナザント領の事がもっと大好きになった。私がいずれ、ここをつぐんだって、ここをよくしたいって、そうこれほどまでに思ったのは彼らのおかげで。ずっと、彼らが幸せそうに笑っているのを見ていたいってそう思ったんだ。

 「ええ、大切だからこそ私はそういう道を選ぶの。―――もうただの「エリー」として彼らと笑い合う事は出来ないけれど、私は私の手で、彼らを幸せにすることが出来る。お父様のようにうまく出来るかわからないけれど、私はこのナザント領が大好きだから、頑張るわ」

 悲しいし、苦しいし、どうなるかわからない不安はある。でも、私は彼らのために一生懸命頑張りたいってそう思っているから。

 「そう、ですか」

 「ええ、だからこれからも色々とよろしくお願いしますわ。ムナ」

 「はい」

 ムナは何とも言えない表情だったけれど、そういってうなずいてくれた。

 「そういえば、エリザベス様。ウッカ様とナグナ様の文通はまだ続いているんですよね?」

 「あー……、そうみたいね」

 カートラの言葉に、私はそう告げる。

 相変わらずウッカとナグナ様は連絡を取り合っているらしい。直接会う事はほとんどない二人だが、文通は結構しているっぽい。というか、ウッカが私に対する勘違いを加速させているのはナグナ様も原因らしいというのも、クラリから聞いた。

 私もウッカと距離を置いているし、あえて色々とそのままにしているけれども、私の態度に加えてナグナ様からの情報もあって、ウッカはああなのである。ナグナ様がウッカと親しくしておらず、それでいて口が堅くて、サンティーナ様にも重要な事を言っても大丈夫だと認識されているなら婚約者であるわけだし事情をいっても構わなかったのだけれども。それかウッカと親しくしていてもウッカに隠し事が出来れば……でもナグナ様はそういうことが出来ないような性格をしている。

 「聞いた話ではウッカはただ単にナグナ様の事を『未来の義兄様』としているだけみたいだし、ナグナ様もそういう認識みたいだし放っておいていいわ」

 実際に何度もあっていてとかだと、ウッカももう少ししたら年頃の女の子になるし不貞を疑われたり大変だろうけど、実際はあっているわけでもなく、ナグナ様とウッカが文通しているの知っているのは限られているし。それにルサーナがこっそりとウッカに気づかれないように連絡してくれたけれど、将来の義兄と義妹って感じで交流しているみたいだし。

 「でもそうね、ナザント公爵として色々やらないといけない事はあるけれど、ウッカの事ももっと考えなければならないわ。お父様が亡くなって、ナザント公爵家にすり寄りたい者たちは私よりもウッカの方に行く事は明確だし」

 学園に入ってからのことはヤーグにも頼んでいるとしても、もっと色々と考えておかなければ。


 とりあえず、一つ一つ考えながら、こなしていこう。



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